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第三章

うちのマル知りませんか?(一)

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 翌日。
 テーブルの上に積まれたチラシを見て感嘆の声を漏らした柏原愛に、凛太朗は得意顔で説明した。

「とりあえず五百枚用意しました。パソコンにデータが入っていますので、無くなったらまたいつでも作れます。これをアミティエ瀬谷と、隣接しているマンション、アパート、戸建住宅にそれぞれ配ります。集合住宅はポストがエントランス付近にまとまっている所が多いので、これで随分時間と体力を節約できます」

 どや顔で笑みを浮かべる凛太朗に、柏原愛は「すごいですね」と瞳を輝かせた。

「あとはそうですね……。集合住宅の掲示板、町内の掲示板、それから、駅の掲示板にも貼ってもらいましょう」
「駅も?」
「はい。駅はほとんどの住人が利用しますからね。一番効率がいいんです」
「なるほど」

 こうしてみると、凛太朗もちゃんとした探偵に見える。
 いつも凛としていれば良いのだが。これが俗に言う、名前負けというものなのだろうか。

「それにしても、これ全部一人で作ったんですか?」
「もちろん。他に従業員はおりませんので」

 頭を掻きながら、凛太朗は部屋の中を見渡した。二十畳のリビングには、猫の子一匹隠れていない。

「ほんとにすごい。これならすぐに見つかりそうですね。ありがとうございます」
「いえいえ、それ程でも」

 顔を赤らめながら照れる凛太朗を前に、柏原愛はチラシを一枚手に取った。

 上に大きく『うちのマル知りませんか?』の文字が赤で大きく記され、その下に昨日のスケッチが載っている。スケッチの右側には、性別、特徴、好きな食べ物が書かれてあり、一番下にひいらぎ探偵事務所の連絡先が記してある。

「柏原さんの連絡先を載せようかとも思ったんですが、結局こちらにしました。間違いや悪戯とかも多いと思うので」
「はい。構いません。その方が私も安心です」

 チラシを山に戻しながら、柏原愛は満足そうに頷いた。

「よし! 善は急げ! 早速出発しましょう!」

 凛太朗は、気合を入れて立ち上がった。
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