雪蛍

紫水晶羅

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雪蛍

優吾のまんま、ここにいる

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「怖いんだろ? 自分の存在が、蛍太くんを苦しめてしまうんじゃねぇかって。まだ、愛してるから……」
「あ……」
「言ったろ? 素直になれって。お前が今、本当に求めてるのは、一体誰だ?」
「私が、本当に求めてるのは……」

 綾音は、自分自身の声を聞いた。

 ずっと考えていた。考えない日はなかった。
 皇を死に追いやった、幼い頃の蛍太が憎い。そうとは知らずに愛してしまった、自分が憎い。こんな残酷な運命で繋がっている、えにしが憎い。
 束の間だった幸せな日々を想い続ける、心が憎い。

 憎くて、憎くて、愛おしい……。

「もう、答えは出てるんだろ?」
 優吾がふっと、息をついた。
「お前の心は、今も蛍太くんで埋め尽くされてる。俺の入る隙間なんて、どこにもねぇ」

 優吾の言う通りだ。
 蛍太の居場所がわかった今、綾音の心は狂おしいほどその姿を求めている。
 口元を押さえた綾音の両手の隙間から、悲痛な嗚咽が微かに漏れた。

「だけど、そしたら、優吾は……」
 次から次へと溢れ出る涙が、優吾の輪郭を滲ませていく。
 とめどもなく流れる涙を、優吾の大きな両手が包み込んだ。
「大丈夫。俺のことは気にすんな。こう見えて俺、結構モテっから」
 にやりと笑うと、「それに」優吾は言葉を繋げた。

「俺とお前は従兄妹同士だ。離れていても繋がってる。それは、これから先も変わらねぇ。だから、会いたくなったら帰って来い。俺はずっと、『優吾のまんま』、ここにいる」
「優吾……」
 綾音の身体を、優吾の腕が包み込んだ。
「ああ……。これでもう、お前のお守りしなくて済むかと思うとせいせいするわ」
「ごめっ……」
「ばかやろう。勘違いすんな。俺がお前をフッたんだ」
「ん……」
 優吾の頬を、涙がひとすじ滑り落ちた。

「綾音……。幸せになれよ」
「ありがっ……」
 優吾の胸に顔を埋め、綾音が激しくしゃくりあげる。
「大好きっ。ゆうごっ……」
「……っ!」

 力いっぱい綾音を抱きしめると、「嬉しくねぇんだよ! ぜんぜん!」優吾は、綾音の髪をかき混ぜた。



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