雪蛍

紫水晶羅

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営業?

二人の関係は?

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「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
 女性客二人を見送りカウンター内に戻ると、優吾が水を二つ用意して待っていた。

「彼女、いたんだな」
「えっ?」
 客席に聞こえないよう、優吾が綾音の耳元で囁く。
「彼だろ? 白馬に乗った王子様」
 悪戯っぽく、優吾が笑った。

「あのねぇ。乗ってきたのは、白馬じゃなくて、白い軽自動車」
 用意してもらった水とおしぼりをトレーに乗せると、綾音は横目で優吾を睨んだ。
「残念だったな」
「は? なにが?」
「お前の王子様じゃなくて」
 にやりと笑うと、優吾は顎で奥のテーブルをこっそり指した。
「だからぁ……」
「すいませーん」
 ムキになる綾音の声を、蛍太のよく通る声がかき消した。
「はぁい!」
 めいっぱい明るい声で応えてから優吾をひと睨みすると、「お待たせしましたぁ」綾音は笑顔で二人しかいない客席へと勢いよく踏み出した。

「なんかすいません。時間過ぎてるのに」
 申し訳なさそうに、蛍太が眉根を寄せる。Tシャツとジーンズというシンプルな服装が、蛍太のはっきりとした顔立ちをより一層引き立てていた。
 窓から差し込む陽の光を受け、実際よりも茶色く見える大きな瞳に見つめられ、綾音の胸が僅かに跳ねた。

「大丈夫です。滑り込みセーフですから」
 グラスとおしぼりをテーブルに置くと、綾音はにっこり微笑んだ。
「いや、どう見てもアウトですよね?」
 ランチメニューを蛍太が指差す。そこに記載されている時間帯は、十一時から十四時となっていた。
「いいんです。シェフが大丈夫だと言ったら、大丈夫なんです」
 チラリと厨房を見やったあと、綾音は笑顔で向き直った。
 すみません、と再び謝る蛍太にならって、女性も小さく頭を下げた。

「高梨さん、喫茶店やってるって言ってたんで、一度来てみたかったんです」
「ああ、そういえば……」
 パンクを修理してもらう間、手持ち無沙汰だった綾音は、暇つぶしにそんな話をしていたことを思い出す。
「でも、よくわかりましたね。だいたいの方角しか言ってないのに」
「だって、この辺で喫茶店って言ったら、ここしかないじゃないですか」
 ははっと笑うと、蛍太は窓の向こうに目を向けた。

 窓の外には、青々とした稲穂の群れがどこまでも続いている。
 見渡す限り山と田んぼに囲まれたこの地域に、喫茶店は一軒しかない。
 しかも、民泊もやっているとなれば、場所は容易に特定できる。

「確かに」
 あまりにも単純な種明かしに、綾音は気の抜けた笑い声を漏らした。
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