上 下
30 / 90
ふたつのプレゼント

しおりを挟む
 「美空先生可愛い」
「ほんと。お花がいっぱい」
 砂場でケーキを作っていると、ぞう組の雲母きらら柚希ゆずきが美空のシュシュを見て歓声を上げた。

「可愛い? ありがとう」
 二人を見上げ、美空は嬉しそうに笑った。
「うん。花嫁さんみたい」
「え?」
 雲母の言葉に、柚希もうん、うん、と頷いている。
「そうだ! ウエディングケーキ作ろうよ!」
 柚希が両手をポンと叩き、瞳を輝かせた。
「このケーキにデコレーションしよう!」
 美空の隣にしゃがみ込み、柚希が砂のケーキにそっと触れた。
「えっとぉ……。けいちゃんに聞いてみないと……」
 一緒に作っていた慶に「いい?」と美空が聞くと、慶は「いいよ」とにっこり微笑んだ。
「じゃあ慶ちゃんも一緒に作ろ!」
 雲母が慶を誘う。
「うん、うん、慶ちゃんも作ろ! 美空先生のウエディングケーキ!」
「えっ? 私の?」
 柚希の発言に、美空は目を丸くした。
「うん。だって美空先生、お嫁さんだもん」
「そうそう。お嫁さん」
「ええ……?」
「誰がお嫁さんだって?」
 突然視界に影が落ち、美空は慌てて上を向いた。
 
「恵令……」
「へぇー。みんなでウエディングケーキ作るんだぁ。いいなぁ」
「恵令奈先生も一緒に作る?」
 腰をかがめて覗き込む恵令奈に、雲母が無邪気に問いかけた。
「作ってもいいけど……。お婿さんは誰がやるの?」

「お婿さんかぁ……」
 子どもたちはそれぞれ腕を組み、顔を見合わせた。
「あ! 哲太先生は?」
「そうだ! それがいい!」
 雲母と柚希の提案に、「哲太先生いないじゃん」慶が冷静に答えた。

 ぱんだ組は今、敬老会で披露する歌の練習をしている。園庭にいるのは、ぞう組ときりん組の他は、二歳児クラスだけだ。

「じゃあ、恵令奈先生お婿さんやってよ」
「ええー。やだよー。先生もお嫁さんがいい」
 恵令奈が心底嫌そうな顔をする。
「困ったねぇ……」
 当初の目的、ウエディングケーキ作りはそっちのけで、子どもたちはすっかり美空のお婿さん探しに頭を悩ませ始めた。

「誕生日プレゼント?」
「えっ?」
 美空の驚く顔を見て、恵令奈が悪戯っぽく笑った。
 子どもたちは楽しそうに、美空のお婿さん候補を次々と挙げている。それを尻目に、恵令奈は、美空にだけ聞こえるように声を潜めた。
「晴斗さん……じゃないよね?」
「え……? なんで……?」
 狼狽えながら、美空が聞いた。
「やっぱ紫雲君か……」
「あ……。うん……」
 紫雲の潤んだ瞳が、美空の頭を掠めていく。気を紛らそうと、美空はケーキの表面を何度も撫でた。

「それ見ると思い出すね。花冠」
「はな……かんむり……」
「まさか、またプロポーズされたんじゃないでしょうね? あの日の想い再び……なんつって」
 冗談ぽく笑いながら、恵令奈は美空の顔を覗き込んだ。
「えれ……な……」
 戸惑うように、美空の瞳が大きく揺らぐ。
「え? 冗談……でしょ……?」
 その表情に何かを悟ったのか、恵令奈は美空を見つめたまま、顔を強張らせた。

「もしかして、乗り換えたの? 紫雲君に」
「まさか!」
「じゃあ何? 迷ってんの?」
「いや……、あの……」
「正気なの? 親子だよ?」
「だからっ……!」
 
「えれなせんせー! 早く鬼ごっこしようよー!」
 遠くから、恵令奈を呼ぶ子どもたちの声が響いてきた。どうやら恵令奈は、きりん組の子どもたちと鬼ごっこをする約束をしていたらしい。

「わかったー! いま行くー!」
 大きく手を振り答えると、恵令奈は未だお婿さん探しに頭を悩ませている三人の女の子たちに「ごめんね。また今度」と手を合わせ謝った。
 それから恵令奈は、美空の肩に手を置いた。
「後でじっくり聞かせてもらいましょうか」
 耳元でこっそり囁いた後、「お待たせー!」恵令奈はグラウンドの方へと駆けて行った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

恋愛麻酔 ーLove Anesthesiaー

ささゆき細雪
恋愛
恋の痛みを和らげてくれるお薬をください。 辛くて苦しいと訴える心を慰めてくれるお薬を。 恋に怯える乙女と、約束を忘れた彼女を一途に愛する男。 彼女にはじめての恋を教えた男は、無垢な心に罅を入れた。 そして、彼女を救おうとする男は代償に痛みと、それを上回る快楽を教え込む――……?    * * * ハイスペック白衣たちがワケアリ少女を溺愛する変則的な恋の話(仮)。 エブリスタでも連載中。 精神的にタフなときしか執筆できない話なので一話一話のエピソードは短め&不定期更新ですが、よろしくお願いします。

斎藤先輩はSらしい

こみあ
青春
恋愛初心者マークの塔子(とうこ)が打算100%で始める、ぴゅあぴゅあ青春ラブコメディー。 友人二人には彼氏がいる。 季節は秋。 このまま行くと私はボッチだ。 そんな危機感に迫られて、打算100%で交際を申し込んだ『冴えない三年生』の斎藤先輩には、塔子の知らない「抜け駆け禁止」の協定があって…… 恋愛初心者マークの市川塔子(とうこ)と、図書室の常連『斎藤先輩』の、打算から始まるお付き合いは果たしてどんな恋に進展するのか? 注:舞台は近未来、広域ウィルス感染症が収束したあとのどこかの日本です。 83話で完結しました! 一話が短めなので軽く読めると思います〜 登場人物はこちらにまとめました: http://komiakomia.bloggeek.jp/archives/26325601.html

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

処理中です...