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ふたつのプレゼント
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「そうだ」
突然紫雲は、ボディバッグをごそごそ探り始めた。
間も無く小さな赤い袋を取り出すと、紫雲はそれを美空の前に差し出した。表面には、ピンクのリボンが付いている。
「これ。俺からの誕生日プレゼント」
「え? 何?」
「まあ、プレゼントって程のものじゃないんだけどね」
照れ臭そうに、紫雲がくしゃりと頭を掻いた。
「開けていい?」
「どうぞ」
震える手で、美空はゆっくり封を開けた。
「可愛い……」
中に入っていたのは、無数の小花があしらわれている、純白のシュシュだった。
「仕事で使えると思って」
美空は仕事の時はいつも、肩まであるセミロングの髪を一つにまとめている。
「ありがとう。明日から早速使わせてもらうね」
「もっといいものあげたかったんだけど……。なにせ小遣いが少ないもんで」
口を尖らせると、紫雲は恥ずかしそうに笑った。
「ううん。すっごく嬉しいよ。大切にするね」
美空は両手でシュシュを包んだ。
「着けてみて」
「え? 今?」
予期せぬ言葉に、美空は驚きの声を上げる。
「うん。着けたとこ見たい」
真剣な紫雲の眼差しに押され、「……わかった」美空はついに観念した。
紫雲の見守る中、美空は両手で髪を掻き上げる。
見られている恥ずかしさで、首元からじんわり熱が上がってくる。
動きの鈍る指先をどうにか動かし、ようやくまとめ終えると、美空は「どう?」と俯き加減におずおず聞いた。
「すげぇ似合う」
「ほんとに?」
視線を上げることができず、美空は伏目がちに答えた。
「うん。鏡見てみなよ」
「そうだね」
俯いたまま、美空はコクリと頷いた。
ロフトから降りると、美空はドレッサーの前に座った。
「ね? 似合うだろ?」
鏡に映る美空の背後から、紫雲が顔を覗かせる。
「恥ずかしいからもういいよ」
火照った顔を隠すように、美空は両手を左右に振った。
美空が立ち上がろうとした時。
「指輪……」
紫雲がひと言呟いた。紫雲の目が、ドレッサーの上にある指輪の箱に注がれる。
「貰ったんだ……。指輪……」
ハスキーな声が、美空の胸に低く響いた。
「あ……。うん。晴斗さんから……」
「そっか……」
ふっと笑みをこぼすと、「おめでとう」紫雲が小さく囁いた。
「ありが……」
「俺、やっぱ帰るわ」
「え?」
「父さん、夕飯買って来るかも知れないし」
「あの……」
「我儘言ってごめん。生姜焼きとケーキ、俺のも食べて」
「あ、ちょっと!」
畳み掛けるように言葉を繋ぐと、紫雲はバッグを肩に担ぎ、振り向きもせず足早に出て行った。
「紫雲君!」
美空の胸が、激しくざわめく。奥底に押し込めたはずの不安な気持ちが頭をもたげ、美空の心を支配していく。
すっかり冷めてしまった生姜焼きを見下ろしたまま、美空は、身体を震わせ立ち尽くしていた……。
突然紫雲は、ボディバッグをごそごそ探り始めた。
間も無く小さな赤い袋を取り出すと、紫雲はそれを美空の前に差し出した。表面には、ピンクのリボンが付いている。
「これ。俺からの誕生日プレゼント」
「え? 何?」
「まあ、プレゼントって程のものじゃないんだけどね」
照れ臭そうに、紫雲がくしゃりと頭を掻いた。
「開けていい?」
「どうぞ」
震える手で、美空はゆっくり封を開けた。
「可愛い……」
中に入っていたのは、無数の小花があしらわれている、純白のシュシュだった。
「仕事で使えると思って」
美空は仕事の時はいつも、肩まであるセミロングの髪を一つにまとめている。
「ありがとう。明日から早速使わせてもらうね」
「もっといいものあげたかったんだけど……。なにせ小遣いが少ないもんで」
口を尖らせると、紫雲は恥ずかしそうに笑った。
「ううん。すっごく嬉しいよ。大切にするね」
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「着けてみて」
「え? 今?」
予期せぬ言葉に、美空は驚きの声を上げる。
「うん。着けたとこ見たい」
真剣な紫雲の眼差しに押され、「……わかった」美空はついに観念した。
紫雲の見守る中、美空は両手で髪を掻き上げる。
見られている恥ずかしさで、首元からじんわり熱が上がってくる。
動きの鈍る指先をどうにか動かし、ようやくまとめ終えると、美空は「どう?」と俯き加減におずおず聞いた。
「すげぇ似合う」
「ほんとに?」
視線を上げることができず、美空は伏目がちに答えた。
「うん。鏡見てみなよ」
「そうだね」
俯いたまま、美空はコクリと頷いた。
ロフトから降りると、美空はドレッサーの前に座った。
「ね? 似合うだろ?」
鏡に映る美空の背後から、紫雲が顔を覗かせる。
「恥ずかしいからもういいよ」
火照った顔を隠すように、美空は両手を左右に振った。
美空が立ち上がろうとした時。
「指輪……」
紫雲がひと言呟いた。紫雲の目が、ドレッサーの上にある指輪の箱に注がれる。
「貰ったんだ……。指輪……」
ハスキーな声が、美空の胸に低く響いた。
「あ……。うん。晴斗さんから……」
「そっか……」
ふっと笑みをこぼすと、「おめでとう」紫雲が小さく囁いた。
「ありが……」
「俺、やっぱ帰るわ」
「え?」
「父さん、夕飯買って来るかも知れないし」
「あの……」
「我儘言ってごめん。生姜焼きとケーキ、俺のも食べて」
「あ、ちょっと!」
畳み掛けるように言葉を繋ぐと、紫雲はバッグを肩に担ぎ、振り向きもせず足早に出て行った。
「紫雲君!」
美空の胸が、激しくざわめく。奥底に押し込めたはずの不安な気持ちが頭をもたげ、美空の心を支配していく。
すっかり冷めてしまった生姜焼きを見下ろしたまま、美空は、身体を震わせ立ち尽くしていた……。
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