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ざわつく気持ち

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「計画的犯行ね」
「でしょうね」
 恵令奈と哲太が、刑事さながら瞳を鋭く輝かせた。

 昨日、紫雲からの急な呼び出しのおかげで哲太の相談を聞きそびれた美空は、約束通り今日の放課後に時間を設け、敬老会についての話を聞いていたのだ。

 祖父母に渡すプレゼント制作の打ち合わせをしていると、毎度の事ながら恵令奈がふらりと入ってきた。
 プレゼントを手作りうちわに決定したところで、話題は昨日の紫雲へと移った。

「おおかた、頃合いを見計らって『やっぱりありました。ごめんなさい』ってやるつもりだったんでしょ?」
「お父さんの登場が誤算だったというわけですね」
 恵令奈と哲太は二人揃って腕を組むと、うんうん、と納得したように頷いた。
「何でそんな嘘?」
「美空の部屋に行く為の口実が作りたかったんじゃない?」
「何のために?」
 美空は二人の顔を交互に見た。

「それはズバリ、恋、ですね」
「こ、恋!?」
 哲太の思わぬ回答に、美空は声を裏返して叫んだ。
「あははは」
「ちょっと恵令奈先生! 何が可笑しいんですか?」
 突然笑い出した恵令奈に、哲太が激しく抗議する。
「だ、だって……。てっちゃんが『恋』だって……」
「そんなに可笑しいですか?」
「てっちゃんのくせに恋を語るなんて、十万年早いわ」
「それ、酷くないっすか?」
 涙を流して笑う恵令奈を睨み、哲太が頬を膨らませた。
「恵令奈、笑いすぎだって」
 笑いが止まらない恵令奈を横目に、「何でそう思うの?」美空は哲太に問いかけた。

「ああ……。夏祭りの時……」
 哲太は、てるてる坊主オバケの件で美空を助けた時と、お泊まり保育で美空と哲太が一晩過ごすことを知った時の紫雲の様子を話した。

「目ですよ」
「目?」
「はい。俺、めっちゃ睨まれたような気がして……」
「そう……かなぁ?」
 美空は宙を見つめ、当時のことを思い浮かべた。しかし美空には、思い当たる節はない。
「あれは、嫉妬を含んだ男の目でした」
「ええ? 気にしすぎじゃない?」
 あっけらかんと笑う美空に、「わかりますよ」真面目な顔で、哲太が答えた。
「あの目は、威嚇の目です。『俺の女に手を出すな』的な……」
「まさか……」
「きっと、男にしかわからないんでしょうね」
 哲太がさも理解しているかのように、何度も首肯した。
「え……。だけど紫雲君、高校生だよ? 私なんて恋愛対象のわけないじゃん。ましてや父親の再婚相手なんて……」

「甘いね」
 ようやく落ち着いた恵令奈が、待ってましたとばかりに参戦した。
「言ったでしょ? 背徳感」
「背徳感……」
「そ。好きになっちゃいけない相手ほど、心は熱く燃え上がる……。ましてや美空、紫雲君の初恋の相手でしょ?」
「何でそれを?」
 驚く美空に、恵令奈が得意げに答えた。
「だってあんた、プロポーズされたって喜んでたじゃん。シロツメクサの花冠、大事そうに抱えてさ」
「え? 覚えてるの?」
「当たり前じゃん。あんなイケメンにプロポーズされて、ちょっと羨ましかったもん」
「イケメンにプロポーズって……。六歳だよ? 羨ましいも何も……」
「十八だよ」
「えっ?」

 急に真顔になった恵令奈は身を乗り出すと、美空の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「もう六歳の子どもじゃない。彼はもう、十八だよ。結婚だってできる。立派な大人なの」
「えれ……な?」

 全てを見透かす様な恵令奈の大きな瞳が、光を集めて煌めいた。
 その瞳から逃れるように、美空は少し身を引いた。
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