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やきもち(2)

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 パンの売り上げは好調で、いつもよりもはやく完売となった。

「初仕事はどうだった?」

 感想を聞くと、

「疲れました」
「でも楽しかったです」

 と顔を見合わせて笑う。

「慣れるまでは大変だけど頑張ろうね」
「はい」
「頑張ります」
「それじゃ片づけをして、お家に帰ろうね」

 店内の掃除、使ったものを洗い明日に使うもので足りない物があったら補充する。

 三人なのでそれもすぐに終わり、明かりを消して鍵をかける。

「エメさんまた明日もよろしくお願いします」
「おやすみなさい」

 挨拶をして帰ろうとするギーとルネに待ってと引きとめた。

「どうしましたか?」

 尋ねるルネに、

「今日、俺も一緒に保護施設に行くよ。実は、皆のためにパンを取っておいたんだ」

 と隠しておいた袋を見せた。

「わぁ、皆、喜びます」

 喜んでいるのはふたりもだ。可愛いなとほっこりしつつ保護施設へと向かった。

 施設へ行くと子供たちがギーとルネを出迎え、そしてお客様だと喜ぶ。

「元気だね」
「はい。施設長をはじめ大人の方が優しくしてくれるので。安心して暮らせるから自然と笑顔になります」

 大人に苦しめられ辛い思いをした子、親の愛情すらしらずに捨てられた子もいる。

 慈しみ、愛情をいっぱい注いでいるのだろう。

「ようこそ、エメさん」

 穏やかな笑みを浮かべた優しそうな獣人だ。

「施設長でしょうか」
「はい。ギーとルネがお世話になっております」

 どうぞと中へ入るように言われて施設長についていく。

「ふたりはどうでしたか?」
「はい。初めての仕事で緊張をしていましたが、互いにどうしたらうまくやれるかと考えながら仕事をしていました」
「そうでしたか」

 ふたりのことが心配だったのだろう。安心したか小さくうなずいた。

「ギーとルネを俺に預からせてください。ふたりの住まいなのですが、俺の部屋を使ってもらおうと思います」

「ご協力ありがとうございます。どうぞ、よろしくお願いします」

 大切に育ててくれた保護施設の方々から今度はエメがふたりのことを引き継いだ。

 後は退所届に本人がサインをし、これから先は自分たちで歩んでいくことになる。

 エメが部屋から出るとギーとルネ以外に子供たちが待っていた。

「どうしたの?」
「お兄ちゃんたち、ここから出ていくの?」

 と小さな子がエメの足をつかんだ。

 これからギーとルネには施設長から話がされるのだが、今までも出逢いと別れがあっただろう。

 子供たちはわかっている。ギーとルネも気が付いただろう。

「そうだよ。ふたりは成人の儀を終えて大人の一員になった。だからここを出なければならない」

 ドアが開いており、施設長が子供たちに説明をする。

「ライナー先生」
「今日からギーとルネは自分たちで生活ができるようになるまでエメさんの用意して下さった場所で過ごすことになるんだよ。さぁ、皆、笑って送り出してあげよう」

 本当は寂しいし泣きたい。だけど我慢して健気に笑って見せる。そんな子供たちを見ていたら胸が締め付けられた。

 一人ひとりに声をかけ、ハグをし別れの挨拶を終えると施設長の部屋へと入る。

 書類にサインをし終えたら本当の別れだ。

 ギーは泣くまいと耐えていたが、ルネは我慢できずに涙を流していた。

 施設長はそんなふたりに手を置き、頑張りなさいと声をかけた。

 部屋から出ると子供たちが手を振ってお見送りをしてくれた。それに応じるように手を振り続ける。

 姿が見えなくなり、寂しそうなふたりの肩へと手を置いた。

「いいところだね」
「はい。ライナー先生たちには優しくしてもらいましたし、まわりの子たちはいつも元気で明るい気持ちになれます」

 と笑い、

「エメさん、僕たちは幸せです。パン屋さんで雇ってもらえただけでなく住む場所も用意していただけて」
「自分たちで生活できるように頑張って働きますね」

 これからよろしくお願いしますと頭を下げた。

 健気で頑張り屋なギーとルネが愛おしく、エメは我慢できずに抱きしめた。

「ふたりと出逢えたことに感謝しかないよ」
「僕らだってエメさんと出逢えたことに感謝しています」
「ライナー先生にも」

 そう顔を合わせてからエメを見る。

「ライナー先生も喜ぶよ」

 さあ帰ろうとふたりと手をつないでアパルトメントへ続く道を歩く。

 入口のドアを開き階段を上がっていくとエメの部屋へ向かう。ライナーの部屋より一階下だ。

「どうぞ」

 部屋のドアを開くとおずおずとふたりが中へと入る。

「ここがエメさんのお部屋なんですね」
「可愛いです」

 壁や家具は白で統一されているが小物をカラフルにし、壁に掛けたボードにはライナーとの思い出を貼り付けてある。

「今日からふたりの部屋だから好きに使って」

 エメが持っていくのはふたりが着れそうな服以外全部とボードだけだ。

「ありがとうございます」
「大切につかわせてもらいますね」

 今日は一緒に食事をと、料理を作って食べた。

 色々とあったので疲れただろう。眠そうなふたりを見て、エメは自分の荷物をもって部屋を後にした。
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