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獣人ハ恋ニ落チル
森へ
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昨日のことは夢だったのではないだろうか。だが、手と口に愛しい雄の感触がのこる。
「はぁ、あれって同情してくれたのかな」
風呂での独り言を聞かれていたのかもしれない。
だがそれだけであそこまでさせてくれるのだろうか。相手はあのゾフィードだ。
少しはドニを好きになってくれたか。
「いやいや、まさか、ね」
今まであまりにつれなかったから、余計に期待するようなことを考えてしまうわけだ。
だけどあの時は拒まれなくてよかった。
受け入れられたことが嬉しく、落ち込んでいた気持ちが嘘のように今は喜びに満ちている。
ベッドの隣には温もりがすでにない。
今日は森に入るからその前に訓練すると言っていた気がする。
ドニはベッドから降り着替えを済ませて一階へと降りると外から声が聞こえてきた。
外に出るとドニに気が付いたロシェがおはようと声をかける。
どうやら訓練はおわっていたようで出発の準備をしているところのようだ。
「起こしてくれたらよかったのに」
「そろそろ起こそうと思ってたところだ。ドニの飯は荷馬車の上な」
ドニの周りには優しい人ばかりだ。それなのにひとりぼっちだと落ち込んでいた自分が恥ずかしい。
「ありがとう」
「ドニ、もう出れるのか?」
「うん。昨日のうちに荷物は用意しておいたから。持ってくるね」
二階に向かい部屋から鞄を持って階段を降りると、エントランスのドアの前にゾフィードが腕を組み見上げていた。
「ドニ、出発するぞ」
手をドニの方へと差し出しだした。
胸に熱がこみ上げる。階段を下りてそのまま彼の胸へと飛び込んだ。
「そんなに慌てななくていい」
「えへへ」
騎士だけあってたくましい体をしている。昨日、一糸まとわぬ姿をみたんだなと頭の中に浮かぶのはモフモフとした部分ではなく下半身のモノだった。
「あ」
「ん? ドニ、熱があるのか。顔が赤いぞ」
そういわれて、ゾフィードから身を離した。
「ちがうよっ、ゾフィードのアレとか思い出してないからっ」
おもいきり下半身のモノへと視線を向けた後にゾフィードから背を向けた。
アレがなんなのかに気が付いたのだろう。背後から変態という言葉が聞こえる。顔が熱くてドニは振り返ることができなかった。
森へと入る時は薬を鞄に詰めておく。何が起きるかわからないからだ。
シリルとファブリスに初めて会った時も、薬を持っていたおかげで役立てることができた。
「随分と持っていくのだな」
用意しているときにゾフィードが中を覗き込む。
「うん。何が起こるかわからないからね」
後はお香を焚けば用意は終わるのだが、獣人の鼻にあれはきついようで、ファブリスにお香はやめてくれと言われてしまった。
「ん、この匂いは……まさかあれを持っているのか」
「あ、匂う?」
焚いていない状態のものを取り出すとゾフィードが嫌そうに眉間にしわを寄せた。
王様からの招待状を持って再び戻ってきた時、炊いたものを腰に下げていた。その時のことを思い出したのだろう。
「それを焚かずともドニとロシェは我らが守る。だからしまっておいてくれ」
「うん。お願いね」
耳が垂れて尻尾をたててそれが震えていた。本当に嫌なのだろう。匂わないように厚手の袋へとしまう。
「よし、中へ入るぞ」
ファブリスの掛け声にドニとロシェを守るように獣人が周りを囲み、目的の場所へと向かった。
その途中、薬草を摘んでいく。
「はぁ、今日はいっぱいとっても大丈夫だね」
いつもはロシェと二人だったのでカゴ二つ分しか持って帰れないからだ。
「そうだな。ドニ、そろそろヤマトロイモが採れるよな」
「そっか、もうそんな時期なんだね」
ドニの手伝いをしていたのでロシェも薬草には詳しい。
ヤマトロイモはすり鉢で練り、打ち身やねん挫をした個所に塗りつけるものだ。
「ロシェ、楽しそうだ」
ファブリスが機嫌よさそうにそう口にする。
彼が楽しいことがファブリスにとって嬉しいことなのだろう。
「別に。ドニ、ショウキョウもあるぞ」
ショウキョウは万能で、料理に使えばピリッとするが良いスパイスとなり、すりおろしてはちみつとまぜお湯をそそげば体が温まる飲み物となるし、深酒で怠い時にはすりおろしてしぼり汁を飲むと気持ちがスッキリとする。
しかも滋養強壮によいのであのドリンクの中に入っているものだ。
「ガリクもあるといいね」
ガリクは匂いはきついが火を入れると甘くなる。すりおろしたものは料理やたれに使用する。
肉体疲労に効くのでこれもかかせない。
「その二つは獣人の国でも買えるぞ」
二つとも料理で使えるものだから育てている人は多い。
「そうなんだけど、野生のものは黄色みがかかっているでしょう?」
買うものよりも味が濃くて効き目もある
目的の場所へ着く前に背負い籠がいっぱいになってしまった。
「ドニよ、目的のモノを採る前に籠を使い切ってくれるなよ」
「ごめん。久しぶりに薬草を採りに行ったものだからテンションが上がっちゃって」
ドニはやはり薬師なのだ。見ればあれもこれもと思ってしまう。
「そろそろ木の実のある場所だぞ」
ロシェの言葉に一気に空気が張り詰める。
「二人はここに。ファブリス、頼む」
「あぁ」
木の実の周りにベアグロウムの姿を見つけてさらに緊張が高まる。
「二匹か。そのうちの一体は二メートルを超えているんじゃないか」
今回の目的はあくまで木の実を採ることなので無駄な殺生はしない。ファブリスの指示のもと、ベアグロウムを追い払う作戦を開始する。
弱点は鼻先。ベアグロウムは押し倒されると動きが鈍くなるので足を狙う。
ただ相手は巨漢だが動きは素早い。一発食らうと気を失う恐れがある。
騎士たちは日ごろから訓練をしているが、今いる者は実戦経験が乏しい。指示を出すファブリスの腕にかかっていた。
ベアグロウムを追い払うのは容易いことではない。ドニとロシェはハラハラとしながらその様子を見守った。
「すこし焦りが出ているな。だが、ファブリスは落ち着いて指示をだせている」
「大丈夫なの、ベアグロウムの気が立ってるよ」
咆哮をあげて威嚇する。恐くて手が震えてしまう。ゾフィードの服をつかむと手が重なった。
「日々の鍛錬は嘘をつかない。ふ、いいぞ、ほら、おとり役の一人が皆に声をかけた」
大丈夫、冷静になろう。
そう一人が声を出し、皆がうなずいた。
そしてうまくベアグロウムを追い払うことができ、ファブリスが皆によくやったと声をかけた。
「はぁぁ、ドキドキした」
ずっと肩に力が入っていて、ホッと息を吐きながら力を抜いた。
「ファブリス」
ロシェがファブリスに駆け寄り、そして抱き着いた。
黙って見ていたけれど心配だったのだろう。鼻先が触れて口づけをしていた。
「ロシェ、素直になったよね」
「いい傾向なのだろう?」
「うん。ロシェが人前だということを忘れられるくらいに夢中になれる相手ができたんだもの」
ロシェとファブリスを微笑ましく眺めていたら、下唇にゾフィードの手が触れた。
「ゾフィード」
「さ、木の実を採ってしまおう。また戻ってくるかもしれないしな」
「……あ、うん、そうだね」
今のは何だったんだろう。
そう思いながらゾフィードを見ると、ドニの唇に触れた指を自分の唇へともっていく。
「へ!?」
間接キス。
まさか、そんなことをするとは思わず、ゾフィードを見たままかたまった。
「ドニ、ぼーとするな」
それは無意識になのか、それとも狙ってしたことなのか。
ドニの心臓がうるさく騒ぎ出す。ここにきてからのゾフィードの行為に心が乱されてばかりだ。
荷馬車の上にはたくさんの木の実と薬草を摘んだカゴがある。
それを眺めてドニはうっとりとする。
「はぁ、たくさんとれたねぇ。皆のおかげだよ」
ありがとうといいながら獣人たちに抱きつく。嫌がる様子もなく尻尾を振ってくれたので、調子に乗ってモフモフに頬ずりをすると、
「こら、若い奴にまで手を出すな。変態め」
結果、ゾフィードに引きはがされてしまった。
「あ……、俺得」
折角の至福な時間を奪われてがっかりとしていたら、
「ここからドニの家は近いのだよな。圧搾機(あっさくき)も取りに行くか」
と言われてうなずいた。
「ゾフィード、先に戻っていてくれ」
「わかった」
皆で向かえば目立つし、若い獣人たちは報告書を書かなければならない。
途中で別れて家へと向かった。
「はぁ、あれって同情してくれたのかな」
風呂での独り言を聞かれていたのかもしれない。
だがそれだけであそこまでさせてくれるのだろうか。相手はあのゾフィードだ。
少しはドニを好きになってくれたか。
「いやいや、まさか、ね」
今まであまりにつれなかったから、余計に期待するようなことを考えてしまうわけだ。
だけどあの時は拒まれなくてよかった。
受け入れられたことが嬉しく、落ち込んでいた気持ちが嘘のように今は喜びに満ちている。
ベッドの隣には温もりがすでにない。
今日は森に入るからその前に訓練すると言っていた気がする。
ドニはベッドから降り着替えを済ませて一階へと降りると外から声が聞こえてきた。
外に出るとドニに気が付いたロシェがおはようと声をかける。
どうやら訓練はおわっていたようで出発の準備をしているところのようだ。
「起こしてくれたらよかったのに」
「そろそろ起こそうと思ってたところだ。ドニの飯は荷馬車の上な」
ドニの周りには優しい人ばかりだ。それなのにひとりぼっちだと落ち込んでいた自分が恥ずかしい。
「ありがとう」
「ドニ、もう出れるのか?」
「うん。昨日のうちに荷物は用意しておいたから。持ってくるね」
二階に向かい部屋から鞄を持って階段を降りると、エントランスのドアの前にゾフィードが腕を組み見上げていた。
「ドニ、出発するぞ」
手をドニの方へと差し出しだした。
胸に熱がこみ上げる。階段を下りてそのまま彼の胸へと飛び込んだ。
「そんなに慌てななくていい」
「えへへ」
騎士だけあってたくましい体をしている。昨日、一糸まとわぬ姿をみたんだなと頭の中に浮かぶのはモフモフとした部分ではなく下半身のモノだった。
「あ」
「ん? ドニ、熱があるのか。顔が赤いぞ」
そういわれて、ゾフィードから身を離した。
「ちがうよっ、ゾフィードのアレとか思い出してないからっ」
おもいきり下半身のモノへと視線を向けた後にゾフィードから背を向けた。
アレがなんなのかに気が付いたのだろう。背後から変態という言葉が聞こえる。顔が熱くてドニは振り返ることができなかった。
森へと入る時は薬を鞄に詰めておく。何が起きるかわからないからだ。
シリルとファブリスに初めて会った時も、薬を持っていたおかげで役立てることができた。
「随分と持っていくのだな」
用意しているときにゾフィードが中を覗き込む。
「うん。何が起こるかわからないからね」
後はお香を焚けば用意は終わるのだが、獣人の鼻にあれはきついようで、ファブリスにお香はやめてくれと言われてしまった。
「ん、この匂いは……まさかあれを持っているのか」
「あ、匂う?」
焚いていない状態のものを取り出すとゾフィードが嫌そうに眉間にしわを寄せた。
王様からの招待状を持って再び戻ってきた時、炊いたものを腰に下げていた。その時のことを思い出したのだろう。
「それを焚かずともドニとロシェは我らが守る。だからしまっておいてくれ」
「うん。お願いね」
耳が垂れて尻尾をたててそれが震えていた。本当に嫌なのだろう。匂わないように厚手の袋へとしまう。
「よし、中へ入るぞ」
ファブリスの掛け声にドニとロシェを守るように獣人が周りを囲み、目的の場所へと向かった。
その途中、薬草を摘んでいく。
「はぁ、今日はいっぱいとっても大丈夫だね」
いつもはロシェと二人だったのでカゴ二つ分しか持って帰れないからだ。
「そうだな。ドニ、そろそろヤマトロイモが採れるよな」
「そっか、もうそんな時期なんだね」
ドニの手伝いをしていたのでロシェも薬草には詳しい。
ヤマトロイモはすり鉢で練り、打ち身やねん挫をした個所に塗りつけるものだ。
「ロシェ、楽しそうだ」
ファブリスが機嫌よさそうにそう口にする。
彼が楽しいことがファブリスにとって嬉しいことなのだろう。
「別に。ドニ、ショウキョウもあるぞ」
ショウキョウは万能で、料理に使えばピリッとするが良いスパイスとなり、すりおろしてはちみつとまぜお湯をそそげば体が温まる飲み物となるし、深酒で怠い時にはすりおろしてしぼり汁を飲むと気持ちがスッキリとする。
しかも滋養強壮によいのであのドリンクの中に入っているものだ。
「ガリクもあるといいね」
ガリクは匂いはきついが火を入れると甘くなる。すりおろしたものは料理やたれに使用する。
肉体疲労に効くのでこれもかかせない。
「その二つは獣人の国でも買えるぞ」
二つとも料理で使えるものだから育てている人は多い。
「そうなんだけど、野生のものは黄色みがかかっているでしょう?」
買うものよりも味が濃くて効き目もある
目的の場所へ着く前に背負い籠がいっぱいになってしまった。
「ドニよ、目的のモノを採る前に籠を使い切ってくれるなよ」
「ごめん。久しぶりに薬草を採りに行ったものだからテンションが上がっちゃって」
ドニはやはり薬師なのだ。見ればあれもこれもと思ってしまう。
「そろそろ木の実のある場所だぞ」
ロシェの言葉に一気に空気が張り詰める。
「二人はここに。ファブリス、頼む」
「あぁ」
木の実の周りにベアグロウムの姿を見つけてさらに緊張が高まる。
「二匹か。そのうちの一体は二メートルを超えているんじゃないか」
今回の目的はあくまで木の実を採ることなので無駄な殺生はしない。ファブリスの指示のもと、ベアグロウムを追い払う作戦を開始する。
弱点は鼻先。ベアグロウムは押し倒されると動きが鈍くなるので足を狙う。
ただ相手は巨漢だが動きは素早い。一発食らうと気を失う恐れがある。
騎士たちは日ごろから訓練をしているが、今いる者は実戦経験が乏しい。指示を出すファブリスの腕にかかっていた。
ベアグロウムを追い払うのは容易いことではない。ドニとロシェはハラハラとしながらその様子を見守った。
「すこし焦りが出ているな。だが、ファブリスは落ち着いて指示をだせている」
「大丈夫なの、ベアグロウムの気が立ってるよ」
咆哮をあげて威嚇する。恐くて手が震えてしまう。ゾフィードの服をつかむと手が重なった。
「日々の鍛錬は嘘をつかない。ふ、いいぞ、ほら、おとり役の一人が皆に声をかけた」
大丈夫、冷静になろう。
そう一人が声を出し、皆がうなずいた。
そしてうまくベアグロウムを追い払うことができ、ファブリスが皆によくやったと声をかけた。
「はぁぁ、ドキドキした」
ずっと肩に力が入っていて、ホッと息を吐きながら力を抜いた。
「ファブリス」
ロシェがファブリスに駆け寄り、そして抱き着いた。
黙って見ていたけれど心配だったのだろう。鼻先が触れて口づけをしていた。
「ロシェ、素直になったよね」
「いい傾向なのだろう?」
「うん。ロシェが人前だということを忘れられるくらいに夢中になれる相手ができたんだもの」
ロシェとファブリスを微笑ましく眺めていたら、下唇にゾフィードの手が触れた。
「ゾフィード」
「さ、木の実を採ってしまおう。また戻ってくるかもしれないしな」
「……あ、うん、そうだね」
今のは何だったんだろう。
そう思いながらゾフィードを見ると、ドニの唇に触れた指を自分の唇へともっていく。
「へ!?」
間接キス。
まさか、そんなことをするとは思わず、ゾフィードを見たままかたまった。
「ドニ、ぼーとするな」
それは無意識になのか、それとも狙ってしたことなのか。
ドニの心臓がうるさく騒ぎ出す。ここにきてからのゾフィードの行為に心が乱されてばかりだ。
荷馬車の上にはたくさんの木の実と薬草を摘んだカゴがある。
それを眺めてドニはうっとりとする。
「はぁ、たくさんとれたねぇ。皆のおかげだよ」
ありがとうといいながら獣人たちに抱きつく。嫌がる様子もなく尻尾を振ってくれたので、調子に乗ってモフモフに頬ずりをすると、
「こら、若い奴にまで手を出すな。変態め」
結果、ゾフィードに引きはがされてしまった。
「あ……、俺得」
折角の至福な時間を奪われてがっかりとしていたら、
「ここからドニの家は近いのだよな。圧搾機(あっさくき)も取りに行くか」
と言われてうなずいた。
「ゾフィード、先に戻っていてくれ」
「わかった」
皆で向かえば目立つし、若い獣人たちは報告書を書かなければならない。
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