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素直になれない恋心
虎(2)
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サークルの一室。
女子は大半が虎治目当てで、部屋に入ると女子達に囲まれている。
毎度ながらよくもてる。昔からそんな姿をみているので詩はどうとも思わないが、男どもは僻みつつそれを眺めている。
もともと女子が多いので別の場所にもいるのだが、詩はそちらにむかい、パイプ椅子に腰を下ろした。
「詩先輩、こんにちは」
小さくてかわいい女子が声をかけてくる。
「こんにちは、鈴木さん」
鈴木は小さくて可愛い女性だ。
はじめのころは大柄な虎治と詩を怖がっていたのだが、威圧感を与えぬように視線を合わせるためにしゃがみ、他の女子よりも優しく接してきた。そのかいもあり、今では普通に話せるようになった。
「虎治は相変わらず女の子に囲まれているね」
その名前にぴくっと鈴木が反応する。そう、詩とは大丈夫だが、虎治はいまだに怖いようだ。
「ねぇ、鈴木さん。まだ虎治のことが怖い?」
彼女の前にしゃがみこんで顔を覗き込むようにみれば、何かを言いたそうに口をパクパクとさせたが、結局は何も言わずにぎゅっと手を握りしめた。
「話したいことがあるなら聞くよ」
せかすことはせず、黙って鈴木が話し始めるのを待つ。
何度かためらいつつ、ようやく口を開いた。
「じつは、睨まれるんです。虎治君に」
まさか虎治がと、驚いた。
女の子には優しい奴だ。睨むなんて考えられない。
それが顔にでてしまったか、鈴木があきらめたような、そんな表情を浮かべた。
「やっぱり、信じて貰えませんよね」
変なことをいってごめんなさいと、泣き笑いを浮かべる。
虎治と詩が幼馴染だということを周りは知っている。それなのに鈴木が嘘をつくわけがない。
それを伝えるのにどれだけの勇気がいっただろうか。
「ごめん、正直に言うと信じられない」
「そうですよね」
席を立とうとする鈴木に、まってと詩は彼女の腕をつかんだ。
「でも、本当のことなんでしょう?」
「……はい。はじめは気のせいじゃないかって思ったんですよ。でも、私のことを睨んでいて、あぁ、嫌われているんだなって」
怯えた目。どれだけ怖かったのだろう、きっとこの話をしても誰も信じないだろう。特に女子は。
確かめないといけない。鈴木をどうして睨むのか。そしてやめさせる。このままでは鈴木がサークルに参加しにくくなってしまうから。
「鈴木さん、話してくれてありがとう」
そっと鈴木の手を握りしめると、
「ずっと誰かに聞いてほしかったんです」
ホッとしたのか、緊張していた表情はゆるみ、鈴木の目から涙がこぼれおちた。
「鈴木さん、気が付いてあげられなくてごめん。それに怖い目にあわせてごめん」
慰めるように背中をさすれば、
「詩、せんぱい」
鈴木が胸に縋りつく。
震える細い身体を抱きしめようと腕を後ろに回しかけるが、虎治に腕を掴まれ邪魔された。
「詩にぃ、帰ろう」
目が合うと虎治が怖い顔をしていた。
「とら、じ」
「あ、もしかして邪魔しちゃったかな」
なんて冷たい声なんだろう。こんな虎治を詩は知らない。
確認するまでもなく、実際に目の前で鈴木の話してくれたことが証明された。
「ねぇ、詩にぃ。旅行先を決めたいから、家に寄っていいよね?」
掴んでいた腕に力がこもる。それは、拒否することを許さないといっている。
「虎治、痛い」
虎治は詩が痛がることをしたことはない。それに気が付いていて無視するなんて、いままでしたことはない。
「鈴木さん、お友達が探していたよ。早く行ってあげて」
笑顔を浮かべているのに目が冷たい。その表情に鈴木が引きつっている。
このままではダメだ。
今の虎治は何をするかわかったものではない。
「虎治、ほら、帰るんだろ」
詩の方から腕を引っ張ると、鈴木を見ていた虎治が詩の方へと顔を向ける。
心から笑顔を浮かべている。目が嬉しそうに細められていた。
「鈴木さん、またね」
鈴木に手を振り、虎治を引っ張りながらサークルの一室を出た。
女子は大半が虎治目当てで、部屋に入ると女子達に囲まれている。
毎度ながらよくもてる。昔からそんな姿をみているので詩はどうとも思わないが、男どもは僻みつつそれを眺めている。
もともと女子が多いので別の場所にもいるのだが、詩はそちらにむかい、パイプ椅子に腰を下ろした。
「詩先輩、こんにちは」
小さくてかわいい女子が声をかけてくる。
「こんにちは、鈴木さん」
鈴木は小さくて可愛い女性だ。
はじめのころは大柄な虎治と詩を怖がっていたのだが、威圧感を与えぬように視線を合わせるためにしゃがみ、他の女子よりも優しく接してきた。そのかいもあり、今では普通に話せるようになった。
「虎治は相変わらず女の子に囲まれているね」
その名前にぴくっと鈴木が反応する。そう、詩とは大丈夫だが、虎治はいまだに怖いようだ。
「ねぇ、鈴木さん。まだ虎治のことが怖い?」
彼女の前にしゃがみこんで顔を覗き込むようにみれば、何かを言いたそうに口をパクパクとさせたが、結局は何も言わずにぎゅっと手を握りしめた。
「話したいことがあるなら聞くよ」
せかすことはせず、黙って鈴木が話し始めるのを待つ。
何度かためらいつつ、ようやく口を開いた。
「じつは、睨まれるんです。虎治君に」
まさか虎治がと、驚いた。
女の子には優しい奴だ。睨むなんて考えられない。
それが顔にでてしまったか、鈴木があきらめたような、そんな表情を浮かべた。
「やっぱり、信じて貰えませんよね」
変なことをいってごめんなさいと、泣き笑いを浮かべる。
虎治と詩が幼馴染だということを周りは知っている。それなのに鈴木が嘘をつくわけがない。
それを伝えるのにどれだけの勇気がいっただろうか。
「ごめん、正直に言うと信じられない」
「そうですよね」
席を立とうとする鈴木に、まってと詩は彼女の腕をつかんだ。
「でも、本当のことなんでしょう?」
「……はい。はじめは気のせいじゃないかって思ったんですよ。でも、私のことを睨んでいて、あぁ、嫌われているんだなって」
怯えた目。どれだけ怖かったのだろう、きっとこの話をしても誰も信じないだろう。特に女子は。
確かめないといけない。鈴木をどうして睨むのか。そしてやめさせる。このままでは鈴木がサークルに参加しにくくなってしまうから。
「鈴木さん、話してくれてありがとう」
そっと鈴木の手を握りしめると、
「ずっと誰かに聞いてほしかったんです」
ホッとしたのか、緊張していた表情はゆるみ、鈴木の目から涙がこぼれおちた。
「鈴木さん、気が付いてあげられなくてごめん。それに怖い目にあわせてごめん」
慰めるように背中をさすれば、
「詩、せんぱい」
鈴木が胸に縋りつく。
震える細い身体を抱きしめようと腕を後ろに回しかけるが、虎治に腕を掴まれ邪魔された。
「詩にぃ、帰ろう」
目が合うと虎治が怖い顔をしていた。
「とら、じ」
「あ、もしかして邪魔しちゃったかな」
なんて冷たい声なんだろう。こんな虎治を詩は知らない。
確認するまでもなく、実際に目の前で鈴木の話してくれたことが証明された。
「ねぇ、詩にぃ。旅行先を決めたいから、家に寄っていいよね?」
掴んでいた腕に力がこもる。それは、拒否することを許さないといっている。
「虎治、痛い」
虎治は詩が痛がることをしたことはない。それに気が付いていて無視するなんて、いままでしたことはない。
「鈴木さん、お友達が探していたよ。早く行ってあげて」
笑顔を浮かべているのに目が冷たい。その表情に鈴木が引きつっている。
このままではダメだ。
今の虎治は何をするかわかったものではない。
「虎治、ほら、帰るんだろ」
詩の方から腕を引っ張ると、鈴木を見ていた虎治が詩の方へと顔を向ける。
心から笑顔を浮かべている。目が嬉しそうに細められていた。
「鈴木さん、またね」
鈴木に手を振り、虎治を引っ張りながらサークルの一室を出た。
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