上 下
27 / 44

26.震える肩

しおりを挟む
 翌朝。
 空は曇っているが、雨は降りそうにない。
 町の人たちに、白竜の情報を聞き込みにまわる。

「すみません。このあたりで白竜を見ませんでしたか?」

「白竜なら、たまに見るよ。上空を飛んでいて、とても大きくて綺麗な竜だよ!」
 八百屋のおばさんが愛想良く答えてくれた。

「白竜の住む谷って、どこにあるか分かりますか?」
「竜の住処までは分からないねぇ…」

「そうですか…。ありがとう。この果物を4つ買います」
 リンゴのような赤い実を指さした。

「これ、今が食べごろで美味しいんだよ~。1個おまけしてあげるね」
「ありがとう」

 果物をアイテムボックスに入れて、道行く人にも手分けして聞いてみる。
 数時間いろんな人に聞いてまわったので、広場のベンチで休憩することにした。

 さっき八百屋で買った果物を皆に配る。おまけはモーリスにあげた。
 乾いた喉に、瑞々しく甘い果物は最高だ。

「どうだった?」
 僕が訊くと、モーリスが答えた。

「この町のほとんどの人が白竜を見ています。このあたりで数日待てば、白竜を見れる可能性は高い。しかし、白竜の住む谷について知ってる人はいませんでした」

「私たちも同じ意見です」シャルルがつぶやく。

「こんな曇り空では、もし白竜が上空で飛んでいても見つけられませんね」
 モーリスが空を仰いだ。

「では、晴天の日に白竜が飛んでいたら尾行しようか。住処に辿りつくまで」

 僕が提案すると、心配するシャルル。
「竜を尾行するなんて…怒らせて攻撃でもされたら危険ですわ!」

「では、透明人間になって空を飛ぶよ」
「サファーロ様! 俺も一緒に飛んで護衛します!」
「ありがとう、モーリス」

 シャルルはまだ、心配そうだ。

「では、今日はこれで解散にしよう。昨日も大変だったし、たまには休みもしないと。
 モーリス。エミリーさんとデートしてくるといい。夕方六時ごろには湖のほとりの家に帰ってくるんだよ」

「えっ。いいんですか? エミリー、行こう!」
「サファーロ様! お嬢様のこと、よろしくお願いしますね。行ってきます!」
 ふたりは仲良く手をつないで歩いていった。

 シャルルが頬を染めて、僕を見つめている。
 昨夜、僕の背中に手を回して、抱きしめてきたシャルル。
 僕は少し、自惚れてもいいだろうか…?

「もうすぐ白竜も見つかりそうだし、もし宝玉が見つかり、おばあさまに届けたら、その後シャルルはどうするのですか? 公爵家に戻って、新たな縁談を受けるのですか?」

 そうだと言われたら、身を引くしかない…。

「いいえ…。私は公爵家には戻らず、修道院へ入るつもりです」

 想像もしていなかった返事に、僕は驚く。
「…なぜです?」

「私は、サファーロが好き…。貴方が爵位の差を気にして私から離れていくのなら、貴方以外の人に嫁ぐくらいなら、修道女になったほうがましです!」

 シャルルの瞳から、真珠のような涙が零れる。

 彼女がそれほど僕を想ってくれていたなんて…!
 僕の胸は、感動で熱く燃えた。

「修道院へ行くくらいなら、僕と駆け落ちしてください! いつか陞爵してもらえるような手柄をあげて、貴女と夫婦になれるように頑張りますから。それまで、僕の傍で婚約者として待っていただけませんか? 
 公爵家ほどの暮らしではなくても、不自由はさせません! 狐の和み亭のサイコロステーキだって食べ飽きるほどごちそうします。あなたの望むことは何でも叶えるように努力しますから!」

「本当ですか?! 俺たちも是非、ご相伴に預かりたいです!!」
 デートに行ったはずのモーリスとエミリーが、僕らの座っていたベンチの後ろから現れた!

「また覗いていたのか!」

 早速、モーリスはシャルルに説得を始めた。
「サファーロ様は心の優しい良い人です。駆け落ちしたって、きっとシャルル様を幸せにしてくれます! 
 それに! 今、OKすれば、皆で狐の和み亭のサイコロステーキが食べ放題なんですよ!!」

 いつの間に、そんな話になってるんだ!!

「私、サファーロと駆け落ちします!」

「えぇっ!?」
 サイコロステーキ効果?!

「「やったぁ~~~♪」」
 踊りだすモーリス&エミリー。そんなに食べたかったのか!

「サファーロ様、おめでとうございます! では邪魔者は退散しますので、あとは若い二人でごゆっくり♪」
 仲人のような口ぶりで、モーリスとエミリーは仲良くどこかへ消えた。

「私、サイコロステーキに釣られたわけじゃありません。サファーロがこれからも私の傍にいてくれることが嬉しくて…」

「泣かないで…」
 シャルルの涙をハンカチでそっと拭う。
 
「これから、もっとシャルルを幸せに出来るように頑張るよ」
 やさしく抱き寄せると、安心したように体を預けてくるシャルル。

「あなたが傍に居てくれたら、それだけで充分幸せです…」

「シャルル…」
 
 今夜、僕はもふもふの銀猫になって、きみに存分にもふられるかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...