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21. 関係
しおりを挟む 私、イレイナが婚約を結んだのは四十年ほど昔の話。
今でも彼が告白してくれた日のことを鮮烈に覚えています。
貧しい家の生まれであった私は、食事を求めて街を彷徨っていました。
足取りはおぼつかなくて、ずっとフラフラ。
正直、もう自分はダメだと思っていました。
婚約者に逃げられ、借金まで背負わされたのです。
もう、絶望のどん底。
「君、名前は?」
優しい、包み込むような声音。
地面ばっか見ていた視線を上に向けると、そこにはビジョン男爵が白馬に乗って私を見下ろしていました。
とても端正な顔つきで、彼の翡翠色の瞳を見つめていると、思わずクラクラしてしまったのを覚えています。
「イレイナです……。あの、どうして男爵様がこんなところに?」
私が住んでいた村は、男爵領の端にありました。
屋敷からかなり離れているものだから、どうして男爵様がいるのか理解できなかったのです。
しかし、どうやら貧困化が進んでいる村があると聞きつけたので、慌てて走ってきたと仰られました。
ふと気になって彼の周りを見渡してみたのですが、従者が一人もいません。
それを指摘すると、
「ははは、忘れていたよ」
そんなのありえるわけないでしょ! と思わず言ってしまい、慌てて口をつぐみます。
相手は男爵様。こんな無礼を働いてしまえば、処刑されてもおかしくありません。
ですが、彼は笑って言いました。
「面白いことを言うね。ところでイレイナさん、せっかくなのでこの村の復興を共に協力して行わないかい? 長い月日がかかりそうだから、しばらくご一緒することになると思うけれど」
どうしようもなく遠回しで、彼らしい言い回し。
ですが、私は察しがいいのですぐに了承しました。
いつの時代の女の子も、白馬の王子様に憧れるはずです。
正直、本当に嬉しかった。
まるで、昔話に出てくるお姫様のようだと思ったからです。
それから私達は両親に挨拶をしに行き、すぐに彼の屋敷に向かいました。
そこで村の情報を伝え、これからどうするべきか提案をしました。
「こんな見ず知らずの男に色々と教えてくれてありがとう。後は僕に任せて、君は食事でも――」
「私も手伝います!」
叫ぶと、彼は目を丸くした。
「君は優しいんだね」
言いながら、男爵様はそっと私の手を握ってくれました。
温かい……。とても、落ち着く温もり。
そして四十年が経過し、村が平和になった今でも彼は時折私の手を握ってくれます。
屋敷の敷地内の静かな庭園にて。
木製の丸机を間にはさみ、シワだらけの顔をお互いじっと見つめ合う。
微かに男爵様は口を動かして、
「僕は絶対に婚約破棄なんてしない。この命尽きるまで、君を愛すると誓うよ」
一日に何度も、この言葉を私に伝えてくれるのです。
私に婚約指輪を手渡した際の、告白のセリフを。
「婚約破棄? 男爵様、本日五回目ですよ」
続けて、いつもこう答えます。
あの時と同じように。
「そんなこと言わなくても、私は信じていますから」
今でも彼が告白してくれた日のことを鮮烈に覚えています。
貧しい家の生まれであった私は、食事を求めて街を彷徨っていました。
足取りはおぼつかなくて、ずっとフラフラ。
正直、もう自分はダメだと思っていました。
婚約者に逃げられ、借金まで背負わされたのです。
もう、絶望のどん底。
「君、名前は?」
優しい、包み込むような声音。
地面ばっか見ていた視線を上に向けると、そこにはビジョン男爵が白馬に乗って私を見下ろしていました。
とても端正な顔つきで、彼の翡翠色の瞳を見つめていると、思わずクラクラしてしまったのを覚えています。
「イレイナです……。あの、どうして男爵様がこんなところに?」
私が住んでいた村は、男爵領の端にありました。
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しかし、どうやら貧困化が進んでいる村があると聞きつけたので、慌てて走ってきたと仰られました。
ふと気になって彼の周りを見渡してみたのですが、従者が一人もいません。
それを指摘すると、
「ははは、忘れていたよ」
そんなのありえるわけないでしょ! と思わず言ってしまい、慌てて口をつぐみます。
相手は男爵様。こんな無礼を働いてしまえば、処刑されてもおかしくありません。
ですが、彼は笑って言いました。
「面白いことを言うね。ところでイレイナさん、せっかくなのでこの村の復興を共に協力して行わないかい? 長い月日がかかりそうだから、しばらくご一緒することになると思うけれど」
どうしようもなく遠回しで、彼らしい言い回し。
ですが、私は察しがいいのですぐに了承しました。
いつの時代の女の子も、白馬の王子様に憧れるはずです。
正直、本当に嬉しかった。
まるで、昔話に出てくるお姫様のようだと思ったからです。
それから私達は両親に挨拶をしに行き、すぐに彼の屋敷に向かいました。
そこで村の情報を伝え、これからどうするべきか提案をしました。
「こんな見ず知らずの男に色々と教えてくれてありがとう。後は僕に任せて、君は食事でも――」
「私も手伝います!」
叫ぶと、彼は目を丸くした。
「君は優しいんだね」
言いながら、男爵様はそっと私の手を握ってくれました。
温かい……。とても、落ち着く温もり。
そして四十年が経過し、村が平和になった今でも彼は時折私の手を握ってくれます。
屋敷の敷地内の静かな庭園にて。
木製の丸机を間にはさみ、シワだらけの顔をお互いじっと見つめ合う。
微かに男爵様は口を動かして、
「僕は絶対に婚約破棄なんてしない。この命尽きるまで、君を愛すると誓うよ」
一日に何度も、この言葉を私に伝えてくれるのです。
私に婚約指輪を手渡した際の、告白のセリフを。
「婚約破棄? 男爵様、本日五回目ですよ」
続けて、いつもこう答えます。
あの時と同じように。
「そんなこと言わなくても、私は信じていますから」
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