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第九章 不穏な予感
最悪な目標
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頭上に水色の空が広がる、春の陽光の眩しさの中。
元剣士団団長のエイベル老に頭を下げ、弟子入りを頼み込むアキに。
エイベルは、にべもなくこう言い放った。
「嫌じゃの」
すげなくそう言うエイベルに。
アキは尚も食い下がってこう言った。
「お願いします。俺の生きる意味が懸かっているんです」
そう言って、必死の形相で頭を下げ続けるアキの言葉に。
エイベルは、じっとアキを見据えると、ふと尋ねてこう言った。
「生きる意味、とな」
そう言って、探る様な視線を向けるエイベルに。
アキは、深呼吸をひとつすると、頭を下げたままこう言った。
「俺の兄は、大熊に殺されたと聞きました。兄は、両親や兄弟、それに村の人たちから邪険に扱われていた俺を無償で愛してくれた、たった一人の肉親です。俺は、兄を殺した大熊を……[ビックマザー]を、このまま見過ごすことは出来ません」
言葉の端々に憎しみを迸らせながら答えるアキに。
エイベルは、冷めた表情を向けると、ため息交じりにこう言った。
「そうして、[ビックマザー]を殺したとして。その後、お主は一体、どうするつもりなのじゃ? まさか、[ビックマザー]と刺し違えて死ぬ……とは言わぬよの?」
そう鋭い質問をアキに突きつけるエイベルに、アキは言葉を詰まらせながらもこう言った。
「それは……分かりません。今はただ、兄の仇を打ちたい、兄の無念を晴らしたい。それだけです」
そう言って、口を真一文字に引き結び、微動だにしないアキに。
ミリアは、心の底から湧き上がる怒りもそのままに、思わずこう怒鳴っていた。
「アキさん、刺し違えて死ぬとか! そんな悲しい事……思ったり、考えたりしないで下さい!」
そんなミリアの声など聞こえないとでも言うように、アキはただ黙って頭を下げ続けている。
そんな、全てをすっぱりと割り切ってしまったようなアキに。
今まで話を静かに聞いていたヒイトは、顎に手を据えると、アキを品定めするように見ながらこう言った。
「お前の兄は、ガイ・リーフウッドと言ったか」
「はい」
「まずは、我が息子の命と引き換えに亡くなった、君の兄上のことを謝らせてもらいたい。ありがとう、そして、すまなかった」
そう言って、頭を下げるヒイトに。
アキは、やはり微動だにせず平坦な口調でこう言った。
「いえ、別に……。謝って貰ったところで、もう、兄は戻っては来ませんから」
感情も無く、そう淡々と答えるアキに。
ヒイトは小さくため息を吐くと、スッと目を伏せ、地面を見つめながらこう言った。
「そうだね。重ね重ね、すまない」
そう言うと、ヒイトは視線をエイベルに向けると真面目な顔でこう言った。
「エイベル、木剣はあるか」
「なんじゃなんじゃ、いきなり。何をおっぱじめるつもりじゃ」
明らかに嫌そうにそう言うエイベルに。
ヒイトは椅子から立ち上がると、両手を擦り合わせ、肩を回しつつこう言った。
「彼に……剣を教えるに足る才能、素質があるかどうか、私が見極めよう」
そう言って、琥珀色の瞳でアキを見下ろすヒイトを。
アキは弾かれたように見上げると、驚愕の表情でこう言った。
「え……陛下が? 直々に、ですか」
そう言って、少し狼狽えるアキに。
ヒイトは、確信に満ちた口調で尋ねて言った。
「君は、私の息子に会ったかい?」
「……はい」
「そうか。ならば、我が息子の入れ知恵でエイベルを訪ねて来たのだろう? そうでなければ、王都に来てまだ一か月も経っていない君に、エイベルが元剣士団長だったなんて分かる筈がないからね」
そう言って、ため息を吐くヒイトに。
アキは、何も反論できず俯いて、ただ黙り込んだ。
そんなアキを無言で見遣ること、数秒。
ヒイトは徐に腕組みすると、アキを神妙な顔で見つめながらこう言った。
「息子は、君の騎士団入りを望んでいる、か……」
そう言って、改めて思案にふけるヒイトに。
エイベルは小さくため息を吐きながらこう言った。
「ヒイト、ガイの一件のこともある。またサイフォスがへそを曲げ兼ねんぞ」
そう言って、口をへの字に曲げるエイベルに。
ヒイトは真面目な顔でこう言い切った。
「だからと言って、サイフォスがあの子にとって必要かと言われると、難しいものがある。騎士のバディ・システムは剣技の質の高さや素質の有る無しで左右されるべきじゃない。どれだけ相手を信頼できるか、それが一番重要だ。剣技や素質だけ見て組ませたところで、良い結果が出るとは限らない」
「確かに、信頼関係は重要じゃの」
そう言って、大きく頷くエイベルに。
ヒイトも深く頷き返すと、真剣な眼差しを向けてこう言った。
「ならば、あの子が信頼する、このアキ・リーフウッド君が、[王太子]を支えるに相応しいかどうか見極める権利が、親の私にはある。そうは思わないか、エイベル?」
そう言って、目で木剣をせがむヒイトに。
エイベルは、諦めた様なため息をひとつ吐くとこう言った。
「しょうがないの。ほれ、あそこにわしが早朝トレーニングに使っている木剣が数本ある。あれを使うがいい」
そう言って、エイベルが目で指し示した場所――玄関の脇には、丁度、二本の木剣が無造作に立てかけてあった。
それを軽々と手に取ると、ヒイトは、その内の一本をアキに投げ渡してこう言った。
「君はこれを。私はこちらを使わせて貰おう」
「それで、俺はどうすれば」
それを手渡されたアキは、若干の戸惑いを隠さずそう言う。
そんなアキに、ヒイトは顔色一つ変えずにこう言った。
「取り敢えず、私に打ち込んで見なさい。どこからでも構わないよ」
「え、それだけですか」
「ああ、それだけで構わない」
「それじゃ、遠慮なく……」
そう言って、剣を構えヒイトに打ち込んでいくアキに。
「さて、どこまで持つことやら」
エイベルは顎髭を弄りながら、楽しそうにそう言った。
一方、ミリアはというと。
「アキさん、どうして……」
(どうして、自分の命を粗末にするようなこと……)
ガイの復讐のため、騎士になることを目標に持ってしまったアキに、ミリアは深い悲しみを覚えるのであった。
元剣士団団長のエイベル老に頭を下げ、弟子入りを頼み込むアキに。
エイベルは、にべもなくこう言い放った。
「嫌じゃの」
すげなくそう言うエイベルに。
アキは尚も食い下がってこう言った。
「お願いします。俺の生きる意味が懸かっているんです」
そう言って、必死の形相で頭を下げ続けるアキの言葉に。
エイベルは、じっとアキを見据えると、ふと尋ねてこう言った。
「生きる意味、とな」
そう言って、探る様な視線を向けるエイベルに。
アキは、深呼吸をひとつすると、頭を下げたままこう言った。
「俺の兄は、大熊に殺されたと聞きました。兄は、両親や兄弟、それに村の人たちから邪険に扱われていた俺を無償で愛してくれた、たった一人の肉親です。俺は、兄を殺した大熊を……[ビックマザー]を、このまま見過ごすことは出来ません」
言葉の端々に憎しみを迸らせながら答えるアキに。
エイベルは、冷めた表情を向けると、ため息交じりにこう言った。
「そうして、[ビックマザー]を殺したとして。その後、お主は一体、どうするつもりなのじゃ? まさか、[ビックマザー]と刺し違えて死ぬ……とは言わぬよの?」
そう鋭い質問をアキに突きつけるエイベルに、アキは言葉を詰まらせながらもこう言った。
「それは……分かりません。今はただ、兄の仇を打ちたい、兄の無念を晴らしたい。それだけです」
そう言って、口を真一文字に引き結び、微動だにしないアキに。
ミリアは、心の底から湧き上がる怒りもそのままに、思わずこう怒鳴っていた。
「アキさん、刺し違えて死ぬとか! そんな悲しい事……思ったり、考えたりしないで下さい!」
そんなミリアの声など聞こえないとでも言うように、アキはただ黙って頭を下げ続けている。
そんな、全てをすっぱりと割り切ってしまったようなアキに。
今まで話を静かに聞いていたヒイトは、顎に手を据えると、アキを品定めするように見ながらこう言った。
「お前の兄は、ガイ・リーフウッドと言ったか」
「はい」
「まずは、我が息子の命と引き換えに亡くなった、君の兄上のことを謝らせてもらいたい。ありがとう、そして、すまなかった」
そう言って、頭を下げるヒイトに。
アキは、やはり微動だにせず平坦な口調でこう言った。
「いえ、別に……。謝って貰ったところで、もう、兄は戻っては来ませんから」
感情も無く、そう淡々と答えるアキに。
ヒイトは小さくため息を吐くと、スッと目を伏せ、地面を見つめながらこう言った。
「そうだね。重ね重ね、すまない」
そう言うと、ヒイトは視線をエイベルに向けると真面目な顔でこう言った。
「エイベル、木剣はあるか」
「なんじゃなんじゃ、いきなり。何をおっぱじめるつもりじゃ」
明らかに嫌そうにそう言うエイベルに。
ヒイトは椅子から立ち上がると、両手を擦り合わせ、肩を回しつつこう言った。
「彼に……剣を教えるに足る才能、素質があるかどうか、私が見極めよう」
そう言って、琥珀色の瞳でアキを見下ろすヒイトを。
アキは弾かれたように見上げると、驚愕の表情でこう言った。
「え……陛下が? 直々に、ですか」
そう言って、少し狼狽えるアキに。
ヒイトは、確信に満ちた口調で尋ねて言った。
「君は、私の息子に会ったかい?」
「……はい」
「そうか。ならば、我が息子の入れ知恵でエイベルを訪ねて来たのだろう? そうでなければ、王都に来てまだ一か月も経っていない君に、エイベルが元剣士団長だったなんて分かる筈がないからね」
そう言って、ため息を吐くヒイトに。
アキは、何も反論できず俯いて、ただ黙り込んだ。
そんなアキを無言で見遣ること、数秒。
ヒイトは徐に腕組みすると、アキを神妙な顔で見つめながらこう言った。
「息子は、君の騎士団入りを望んでいる、か……」
そう言って、改めて思案にふけるヒイトに。
エイベルは小さくため息を吐きながらこう言った。
「ヒイト、ガイの一件のこともある。またサイフォスがへそを曲げ兼ねんぞ」
そう言って、口をへの字に曲げるエイベルに。
ヒイトは真面目な顔でこう言い切った。
「だからと言って、サイフォスがあの子にとって必要かと言われると、難しいものがある。騎士のバディ・システムは剣技の質の高さや素質の有る無しで左右されるべきじゃない。どれだけ相手を信頼できるか、それが一番重要だ。剣技や素質だけ見て組ませたところで、良い結果が出るとは限らない」
「確かに、信頼関係は重要じゃの」
そう言って、大きく頷くエイベルに。
ヒイトも深く頷き返すと、真剣な眼差しを向けてこう言った。
「ならば、あの子が信頼する、このアキ・リーフウッド君が、[王太子]を支えるに相応しいかどうか見極める権利が、親の私にはある。そうは思わないか、エイベル?」
そう言って、目で木剣をせがむヒイトに。
エイベルは、諦めた様なため息をひとつ吐くとこう言った。
「しょうがないの。ほれ、あそこにわしが早朝トレーニングに使っている木剣が数本ある。あれを使うがいい」
そう言って、エイベルが目で指し示した場所――玄関の脇には、丁度、二本の木剣が無造作に立てかけてあった。
それを軽々と手に取ると、ヒイトは、その内の一本をアキに投げ渡してこう言った。
「君はこれを。私はこちらを使わせて貰おう」
「それで、俺はどうすれば」
それを手渡されたアキは、若干の戸惑いを隠さずそう言う。
そんなアキに、ヒイトは顔色一つ変えずにこう言った。
「取り敢えず、私に打ち込んで見なさい。どこからでも構わないよ」
「え、それだけですか」
「ああ、それだけで構わない」
「それじゃ、遠慮なく……」
そう言って、剣を構えヒイトに打ち込んでいくアキに。
「さて、どこまで持つことやら」
エイベルは顎髭を弄りながら、楽しそうにそう言った。
一方、ミリアはというと。
「アキさん、どうして……」
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