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第八章 真実は何処に

不機嫌な騎士

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 怒りに任せ、グレックの家を飛び出してきたものの。
 ミリアはふと足を止めると、深呼吸をひとつした。

(ちょっと、やり過ぎちゃったかなぁ)

 アキの為とはいえ。

 グレックの相棒であるマークに、かなり失礼なことをしてしまったのではないかと反省すると、ミリアは大きなため息と共に肩を落とした。

(やっぱり、謝りに行った方が良いかな)

 と、その時――。

 道の先の闇の奥から、一人の騎士が銃を背に、息を切らせて走って来た。

 嫌な予感に、ミリアは思わず体を固くする。

 すると、走って来た騎士は、両膝を両手で掴むと、荒い息のままこう言った。

「ダークの……森の、手前辺りで……大熊が!」

 そんな、しゃべるのもおぼつかない騎士に、斧を片手で軽々と持つ騎士は、威厳のある声でこう言った。

「状況は?」

 鋭い視線を向け、威厳のある声の男は、息を整える騎士にそう短く確認する。
 そして、呼吸が整い始めた騎士はというと、膝から手を離し、姿勢をスッと正すとこう言った。

「はっ……まず、大熊は、[ビックスリー]ではありませんでした。今……四人の騎士で、対応に当たっているところです」

 その言葉に、威厳のある男は小さくため息を漏らしたものの、直ぐに厳めしい顔つきでこう指示を飛ばす。

「ダークで大熊出現だ! お前らも、油断するなよ!」
「はい!」

 威厳のある男の低い声に、至る所からそう声が上がる。

(ダークの森で大熊が……早く、家に戻らなきゃ)

 その声の中に紛れる様に、ミリアは恐怖に顔を青くすると、急ぎ足で自宅へと向かう。

 と、その時――。

「おい」

 不機嫌な声が、そうミリアを呼び止める。
 ミリアは、怒られるのを覚悟で足を止めると、後ろを振り返ってこう言った。

「すみません! どうしても友人に届けなくてはいけないものがあって……」

 そう言って、頭をぺこぺこ下げるミリアに。
 不機嫌そうな声の人物は、大きなため息をひとつ吐いてこう言った。

「なんだ、またお前か……」

 そこには、銀色の癖のない少し長めの前髪を耳に掛けた男が、うんざりとした表情でミリアをキッとねめつける。

「え、あ……アレン、さん?」

 そう言って、おどおどするミリアを前に。
 アレンは、大きなため息をひとつ吐くと、嫌味たらしくこう言い放った。

「森への侵入の次は、熊が出現して一週間も経っていない王都で夜に外出か? 全く、あんた……ひょっとして、頭のネジが外れてるのか?」
 
 返す言葉も無く、ミリアはただただ、こう言う。

「す、すみません」

 そう言って、顔を真っ赤にし、頭を何度も下げるミリアを前に。
 アレンはもう一度、深いため息と共にこう言った。

「ったく……家は何処だ」
「はい……」
「だから、家は何処だと聞いてる」
「え? あ……スワンの森の裾野の二の三の二、ですけど」

 そう言って、戸惑うミリアを前に。
 アレンは顎に片手を当てると、通りすがりの騎士に何かを言伝ことづてて、ミリアに向かってこう言った。

「家まで送っていく。ついてこい」

 その言葉に、ミリアは安堵に目を潤ませるとこう言った。

「えっ、いいんですか?」
「良いも何も、大熊が出没してるんだ。騎士が市民を守らないでどうする? ……ったく、これだから危機感の無い奴は……」

 そう言うと、アレンはブツブツと小言を言いながらも、ミリアを家に送り届けるのであった。
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