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第七章 忍び寄る影

踏み出す勇気、引く勇気

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「僕も見ていたけど、凄かったじゃないか。久々にアイザックと興奮して、酒場に雪崩れ込んだ次第でね。うん、いい試合だった」

 そう言って、ウェイターに、数えて四杯目のブランデーを頼むと。
 シャインはそう言って、運ばれて来たチーズを満足そうに口に運ぶ。

 と、そんなシャインの誉め言葉を前に。
 グレックは恐縮してこう言った。

「そんな。あんなの……ただ逃げ回っているだけで。派手さも面白みも無くて……面目ない」

 そう言って、恥ずかしそうに頭をかくグレックに。
 シャインはグレックの目をじっと見つめると、ふっと笑ってこう言った。

「アイザックが言っていたよ。戦いになったとき大切なのは、諦めない心だって。そして、引くときは引く勇気」
「引く、勇気……」

 そう首を捻るグレックに。
 シャインは人差し指をグレックの前でくるくる回すとこう言った。

「そう、ダメそうなら逃げる。いけそうなら諦めずに前へ。君の戦い方は、まさにそれだった。感動したよ……って、アイザックも言っていたよ」

 そう言って、運ばれて来たブランデーに口を付けると、シャインは美味そうにそれを飲み下す。
 シャインのそんな何気ない誉め言葉に。

「なんというか、その……」

 大きな体を縮こませながら、更に言葉を詰まらせ恐縮するグレック。
 そんなグレックに、シャインは顎に手を当てると、遠い目をしながらこう言った。

「[武術大会]のことで、あいつがあんな風に嬉しそうに話すの、久しぶりに見たよ。かれこれ……ガイ・リーフウッド以来かな」
「ガイ……リーフウッド……?」

 その名前に、アキがハッとした顔をする。
 グレックも、神妙な顔でアキに尋ねてこう言った。

「アキ。リーフウッドって、お前の……」

 そのグレックの問いに、アキはいつになく真面目な顔をすると、冷静な口調でこう言った。

「リーフウッドは俺の苗字です。そして、ガイは俺の兄の名前なんですけど……ボールドウィンさん、あなたはその人とどういった関係で?」

 そう言って、問い詰める様に尋ねるアキに。
 シャインは、目を見張ると、驚いたようにこう言った。

「君は、あの……ガイの弟さんなのか」
「ガイ・リーフウッドという名前の人物が、王都に一人しかいなかったのなら、多分……そうだと思います」
「そうか。そうすると、君があの……」

 そう言って、気の毒そうに顔をしかめるシャインに。
 アキは、フッと皮肉な笑みを漏らすと、シャインを伺うような眼差しでこう言った。

「ひょっとして兄から聞いてます? 俺の二つ名」
「たぶん、ね」

 そう言って、申し訳なさそうに眉を顰めるシャインに。

 アキはバツが悪そうな顔をすると。
 深いため息と共に、片手を首に回しながらこう言った。

「……じゃあ、俺がその[忌み子]で、ガイの弟の、アキ・リーフウッドです」

 そう言って、遣り切れなさそうに、再度、深いため息を吐くアキを。
 シャインは、ウイスキーを煽りながら、どうしたものかと困ったように見遣るのであった。
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