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第七章 忍び寄る影
これもまた何かの縁
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店のウェイターたちが、災害時用の少し大きめの板を、破壊された店の壁に丁寧に打ち付けていく。
他の客たちも、バリケードを作った椅子やテーブルを元に位置へと運んでいる。
そんな中、ミリアとエマは、店の片隅で椅子に座ると、エマの師匠に用意されたホットワインをちびちびと飲んで気持ちを落ち着かせていた。
「ミリア、大丈夫?」
そう言って、ミリアの背中を優しく擦ってくれるエマに。
ミリアは申し訳なさそうに俯いてこう言った。
「猛獣と目が合っちゃったばっかりに、エマさんや他の人たちを危険な目に合わせてしまって……」
「ミリア、気にしないの。私も店にいた人たちも、みんな大丈夫だから」
「本当に……」
そう言って、青い瞳に涙を浮かべるミリアと、それを慰めるエマ。
そんな二人の前に、灰みを帯びた深い緑色の制服の男が、優しい声音でこう言った。
「ほんとに無事で良かったよ、お嬢さん方。それと、怪我の方は、大丈夫かな」
「はい。おかげさまで、かすり傷程度で。それより先ほどは、本当に……ありがとうございました」
そう言って、肘に出来たかすり傷を撫でながら頭を下げるエマに。
灰みを帯びた深い緑色の制服の男――短髪の黒髪に濃褐色の瞳の男は、ふっと笑みを漏らすとこう言った。
「なに、これも俺の仕事の一環だ。気にしないでくれ。あと、もしこのまま家に帰る予定なら、騎士たちに家まで送らせるが」
そう言って、他の騎士たちの姿を窓の外に探す男に。
エマは、申し訳なさそうに眉を顰めると、言い難そうにこう言った。
「あの、すみません。私たち、友人を待っていて……」
そんな、危機感を感じさせないエマの、能天気とも取れる言葉を聞いても、別段、咎める事も無く。
短髪黒髪の男は、力強く頷くと窓の外を見つつこう言った。
「まあ、王都内は騎士たちが厳重に警備していると思うから、何かあれば、彼らに声を掛けるといい」
そんな、何から何まで親切に対応してくれる短髪黒髪の男に。
「本当に、ありがとうございます」
エマは、感謝の言葉をもう一度繰り返すと、少し俯き加減にこう言った。
「あの……もし良ければ、お名前をお伺いしても」
そう遠慮がちに尋ねるエマに、短髪黒髪の男は気分を害することも無くこう言った。
「うん? 俺かい? 俺は、アイザック。アイザック・スタイナーだ。この国で斧士をしている。で、君たちの名前は?」
そう言って、何気なく尋ねる短髪黒髪の男――アイザックに。
エマは、少し顔を赤らめながらこう言った。
「私はエマです。エマ・マクレイン」
「わ、私は……ミリア。ミリア・ヘイワードです」
ミリアも、エマに続いてそう言う。
そんな姉妹のように寄り添う二人に、アイザックは優しく微笑みながらこう言った。
「エマにミリアか。猛獣が出た後だ。気を付けて帰るんだぞ」
その言葉に、ミリアがホットワインに頬を赤くしてこう言った。
「はい。スタイナーさんも、お気を付けて」
「ああ。それと。スタイナーさんは止めてくれ。アイザックで良いよ」
そう言って、苦笑い気味に笑うアイザックに。
ミリアも笑いながらこう言った。
「では、アイザックさん。お気を付けて」
「ああ……っと、そうだ!」
思い出したように後ろを振り返ると。
その視線の先に目的のものを見つけたアイザックは、声を張り上げこう言った。
「シャイン!」
その声に、シャインを呼ばれた金髪翠眼の男は、酒の入ったグラスを片手に、ゆったりとミリアたちの方へと近づいて来る。
そんな、ショートボブの金髪の男の胸を、片手の甲で一回叩くと。
アイザックは、真面目な顔で金髪男――シャインにこう言った。
「彼女たちの友人が来るまで、彼女たちと一緒に居てやってくれないか」
その問いに、シャインは軽く頷くと、快く承諾してこう言った。
「了解、斧士殿」
シャインのその言葉に軽く頷くと、アイザックはミリアとエマを交互に見ながらこう言った。
「彼は、シャイン。何か困ったことがあれば彼に言ってくれ」
「よろしく、お二人とも」
そう言って、グラスを掲げ、にっこり微笑むシャイン。
そんなアイザックの細やかな気遣いに、エマは恐縮しながらこう言った。
「ありがとうございます、アイザックさん。何から何まで……」
そう言って、申し訳なさそうに俯くエマに。
アイザックは片目を瞑って見せると、愉快そうにこう言った。
「なに、これもまた何かの縁……ってな。じゃあ、またな!」
そう言って、アイザックは猛獣を警戒し警備に当たる騎士たちの元へと去って行くのであった。
他の客たちも、バリケードを作った椅子やテーブルを元に位置へと運んでいる。
そんな中、ミリアとエマは、店の片隅で椅子に座ると、エマの師匠に用意されたホットワインをちびちびと飲んで気持ちを落ち着かせていた。
「ミリア、大丈夫?」
そう言って、ミリアの背中を優しく擦ってくれるエマに。
ミリアは申し訳なさそうに俯いてこう言った。
「猛獣と目が合っちゃったばっかりに、エマさんや他の人たちを危険な目に合わせてしまって……」
「ミリア、気にしないの。私も店にいた人たちも、みんな大丈夫だから」
「本当に……」
そう言って、青い瞳に涙を浮かべるミリアと、それを慰めるエマ。
そんな二人の前に、灰みを帯びた深い緑色の制服の男が、優しい声音でこう言った。
「ほんとに無事で良かったよ、お嬢さん方。それと、怪我の方は、大丈夫かな」
「はい。おかげさまで、かすり傷程度で。それより先ほどは、本当に……ありがとうございました」
そう言って、肘に出来たかすり傷を撫でながら頭を下げるエマに。
灰みを帯びた深い緑色の制服の男――短髪の黒髪に濃褐色の瞳の男は、ふっと笑みを漏らすとこう言った。
「なに、これも俺の仕事の一環だ。気にしないでくれ。あと、もしこのまま家に帰る予定なら、騎士たちに家まで送らせるが」
そう言って、他の騎士たちの姿を窓の外に探す男に。
エマは、申し訳なさそうに眉を顰めると、言い難そうにこう言った。
「あの、すみません。私たち、友人を待っていて……」
そんな、危機感を感じさせないエマの、能天気とも取れる言葉を聞いても、別段、咎める事も無く。
短髪黒髪の男は、力強く頷くと窓の外を見つつこう言った。
「まあ、王都内は騎士たちが厳重に警備していると思うから、何かあれば、彼らに声を掛けるといい」
そんな、何から何まで親切に対応してくれる短髪黒髪の男に。
「本当に、ありがとうございます」
エマは、感謝の言葉をもう一度繰り返すと、少し俯き加減にこう言った。
「あの……もし良ければ、お名前をお伺いしても」
そう遠慮がちに尋ねるエマに、短髪黒髪の男は気分を害することも無くこう言った。
「うん? 俺かい? 俺は、アイザック。アイザック・スタイナーだ。この国で斧士をしている。で、君たちの名前は?」
そう言って、何気なく尋ねる短髪黒髪の男――アイザックに。
エマは、少し顔を赤らめながらこう言った。
「私はエマです。エマ・マクレイン」
「わ、私は……ミリア。ミリア・ヘイワードです」
ミリアも、エマに続いてそう言う。
そんな姉妹のように寄り添う二人に、アイザックは優しく微笑みながらこう言った。
「エマにミリアか。猛獣が出た後だ。気を付けて帰るんだぞ」
その言葉に、ミリアがホットワインに頬を赤くしてこう言った。
「はい。スタイナーさんも、お気を付けて」
「ああ。それと。スタイナーさんは止めてくれ。アイザックで良いよ」
そう言って、苦笑い気味に笑うアイザックに。
ミリアも笑いながらこう言った。
「では、アイザックさん。お気を付けて」
「ああ……っと、そうだ!」
思い出したように後ろを振り返ると。
その視線の先に目的のものを見つけたアイザックは、声を張り上げこう言った。
「シャイン!」
その声に、シャインを呼ばれた金髪翠眼の男は、酒の入ったグラスを片手に、ゆったりとミリアたちの方へと近づいて来る。
そんな、ショートボブの金髪の男の胸を、片手の甲で一回叩くと。
アイザックは、真面目な顔で金髪男――シャインにこう言った。
「彼女たちの友人が来るまで、彼女たちと一緒に居てやってくれないか」
その問いに、シャインは軽く頷くと、快く承諾してこう言った。
「了解、斧士殿」
シャインのその言葉に軽く頷くと、アイザックはミリアとエマを交互に見ながらこう言った。
「彼は、シャイン。何か困ったことがあれば彼に言ってくれ」
「よろしく、お二人とも」
そう言って、グラスを掲げ、にっこり微笑むシャイン。
そんなアイザックの細やかな気遣いに、エマは恐縮しながらこう言った。
「ありがとうございます、アイザックさん。何から何まで……」
そう言って、申し訳なさそうに俯くエマに。
アイザックは片目を瞑って見せると、愉快そうにこう言った。
「なに、これもまた何かの縁……ってな。じゃあ、またな!」
そう言って、アイザックは猛獣を警戒し警備に当たる騎士たちの元へと去って行くのであった。
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