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第六章 勝利を目指して

熱戦の後に

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「お疲れー、グレック」

 そう言って、会場の観覧席に戻って来たグレックの肩を、アキは力強く叩いた。
 ミリアも、感動に目を潤ませると胸の前で手を組みこう言う。

「グレックさん、お疲れ様でした!」
「グレック、やったじゃない」

 エマも、そう言うと口元に微笑を浮かべてそう言った。
 そんな三人の祝福の言葉に。
 グレックは、恥ずかしそうに頭をかくと、それでも心底嬉しそうにこう言った。

「ああ。みんな、ありがとな」
「でも、ほんと……凄いことが起きたわよね。ひとつの大会で二人の騎士が誕生するなんて」

 そう言って、感心するエマに。
 ミリアも、あまりの感動に声を上擦らせながらこう言う。

「ほんと。まるで、小説を読んでいるみたいに、私……ドキドキしちゃいました」
「だよねー。きっとこの結末は、グレックの日々の努力が引き寄せたものなんだろうけど……なんか、今思い出しても鳥肌ものだよー」

 そう言って、興奮したように目を輝かせるアキに。
 グレックは、眉を顰めると口をへの字にしてこう言った。

「アキ。俺はなるべく謙虚でいたいんだ。だから、あまり俺を舞い上がらせないでくれよ?」
「はいはい、グレック・ワイズナー騎士殿?」
「ったく……」
 
 そう言って、苦笑しながら肩を竦めるグレックの横で。
 エマも、微笑しながらこう言う。

「国王陛下、田舎者だからって差別することは無かったわね。グレックが偏った見方をされなくて、本当に良かったと思うわ」

 グレックが正当に判断されたことに、エマは満足しているようであった。
 そんなエマの話から、アキは思い出したように手を一回叩くと、グレックを指さしこう言った。

「そうそう、グレック。実はさ……俺たち国王陛下と会っちゃって」
「え、へ……陛下と?」

 そう言って、眼を大きく見開くグレックに。
 ミリアは、茶目っ気たっぷりにこう言った。

「そう、少しお話ししたんですよ?」

 そう言ってクスリと笑うミリア。
 そんなミリア話に付け加える様に。
 アキも、茶目っ気たっぷりにニヤニヤすると、両手を頭の後ろに回してこう言った。

「その時、陛下はグレックの剣筋についても話してくれてさー」
「俺の剣筋? おいおい、ちょっと待ってくれよ……」

 そう言って、酷く狼狽えた様に片手で顔を覆うグレックに。
 エマは、ニヤリと笑うとこう言った。

「派手さは無いけど、堅実なところがいいって」
「ははは。結局、地味って話か……」

 そう言って、肩を落とすグレックに、アキが追い打ちを掛ける様にこう言う。

「確かに、フェリクスの方が手数も多かったから、その度に会場が盛り上がって、見ていると燃えるところはあったよねー」

 そんなアキの、正直すぎる感想に。
 ミリアは苦笑気味に眉を顰めると、直ぐに真摯な眼差しでこう言った。

「でも、グレックさんの技が決まる所……凄く綺麗で、格好良かったです」

 そう言って、天使のように微笑むミリアに。

「ありがとな、ミリア」

 グレックは優しく笑み返すとそう言った。

「それに、田舎者でも努力すれば必ず報われると、身をもって証明してくれたこと、同じ田舎者として本当に誇らしく感じたわ。ありがとね、グレック」

 そう言って、フッと笑うエマに。
 グレックは、困ったように頭をかくと、一言こう呟いた。

「そうか……」

 そう言って、照れるグレックを。
 エマはじっと見つめると、徐に腕を組み、真顔でこう言った。

「それより、グレック。その手……早く医者に診て貰った方が良いんじゃないの」
「あ? ああ、そうだった」

 そう言って、改めて自分の右手首を動かし、その痛みに顔を歪めるグレックに。
 アキも、少し痛そうな顔をしながらこう言った。

「ちょっと、見て貰った方がよさそうだねー。……ってことで。俺はグレックに付き添って診療所に行って来るから、エマとミリアちゃんは、一旦家に帰ってよ」
「一旦って……?」

 そう言って、首を傾げるエマに。
 アキは、ニヤリと笑うとこう言った。

「もちろん、決まってるでしょー? 今夜、[狼と子羊亭]に、集合ー!」

 そう言って、片手を高らかに突き上げるアキに。
 ミリアも嬉しそうに両手を胸の前で合わせるとこう言った。

「あ、グレックさんのお祝いですね!」
「ま、おめでたいからしょうがないわよね。でも怪我しているグレックにはあまりよくないわよ?」

 そう言って、眉を顰めるエマに。
 ミリアも思い出したようにこう言った。

「そう言えば、お酒は傷の治りを遅らせるって、よく言いますもんね」

 そう言って、エマと同じように眉を顰めるミリア。
 そんな二人の意見を前に、アキはグレックの顔を見てこう言った。

「だって。どうする、グレック……?」

 そう言って、グレックの顔色を伺うアキに。
 グレックは悩ましい顔を作るとこう言った。

「どうするって……今日飲まないで、いつ飲むんだ?」

 そう言って、にやりと笑うグレックに。
 アキもにやりと笑い返し、高らかにこう宣言する。

「じゃ、決まりー」

 そんな息の合った二人を前に。
 エマは困ったように苦笑いすると、肩を竦めながらこう言った。

「それで。夜に、[狼と子羊亭]でいいのかしら」
「うん。じゃ、よろしくエマ」

 そう言って、片目を瞑って見せるアキを軽く無視すると。
 エマは、独り言のようにこう言った。

「師匠に言って、予約捻じ込んで貰わなきゃ……」
「悪いな、エマ」

 そう言って頭をかくグレックに。
 エマは、口元に微笑を浮かべるとこう言った。

「何言ってるのよ。友だちでしょ? 気にしないで」
「すまない」

 そう頭を下げるグレックの頭を、エマは困ったように軽く叩いた。
 そんな様子を面白そうに見ていたアキは、日が陰り始める前の空を見上げてこう言う。

「そろそろ、時間も時間だし。ミリアちゃんにエマ、また夜にねー!」
「ええ。じゃあ、後でね」

 そう言って、それぞれの行先に戻るみんなの姿をひとしきり見送ると。
 ミリアも、王城の方へと方向転換しこう言った。

「さて、家に帰りますか」

 と、その時――。

――ぐはぁぁぁぁぁあ。

 ミリアは、誰か、男の人が低く叫んだような気がして、辺りをぐるっと見回した。

「…………」

 だが、誰も別段気にする様子も無く、大通りを自宅へ、もしくは酒場へと向かって忙しく歩いている。

「……気のせい、かな。うん」

 そう一人納得すると、ミリアも家路へ向かって足早に歩くのであった。
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