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第六章 勝利を目指して

違いの分かる男

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「君たちは、誰を応援しているのかな?」

 白髪交じりの初老の男はミリアたちにそう尋ねた。

「グレック……グレック・ワイズナーです」

 ミリアは少し躊躇いがちにそう答える。
 すると、初老の男は、しばらく片手で顎を擦ると、思い出したようにこう言った。

「ああ、あの長身でがたいのいい若者か。彼は、なかなか良いよねぇ」
「そうなんですか」

 思いがけない言葉だったのか、現実的なエマが誰よりも早くそう尋ねた。
 その言葉に、初老の男はにやりと笑うとこう言った。

「派手さは無いが、堅実なところがいい」
「ちなみに、フェリクスくんなんかは……」

 便乗するように、アキが手もみしながらそう尋ねると。
 初老の男は、試合を見つつ、腕組みしながらこう言った。

「悪くはない。スピードも力も精神力も人並み以上ある。そして、技が派手なのもいい。けど、現実向きじゃないのがちょっとねぇ」
「現実向きじゃ、ない……?」

 そう言って首を捻るアキに。
 初老の男は、やはり試合を見ながらこう言った。

「騎士団が相手にしているのは、人間じゃないからねぇ。人間とは違って、猛獣にはいろんな種類がいる。そして、そのそれぞれに違った攻撃方法があるんだよ。そう考えると、君たちの友人のグレック君の闘い方は、あらゆる猛獣に応用が利く。それにしても、彼は一体、誰に剣を教わったんだろうねぇ」

 そう言って、またサンドイッチにかじり付く初老の男。
 そんな男の疑問に、エマは答えてこう言った。

「確か、彼のおじいさんだって言っていたわ」
「そうか。その人はきっと、かなりの使い手だろう。ものなら、一度、会ってみたいものだけど……」

 そう言って、残ったサンドイッチを全部口に押し込むと、初老の男はまた試合に目を向ける。

 と、その時――。

「そろそろ、お時間です」

 地味な枯れ草色のチュニックに、くすんだ黄土色のズボン、そして、履き込まれた黒い長靴に身を包んだ男が、初老の男の肩を二回、叩いた。
 その言葉に、白髪交じりの初老の男は大袈裟に眉を顰めてこう言う。

「えー、もうそんな時間なの?」
「はい」
「まだ見たいよー、もう少しいいんじゃないの?」
「ダメです」

 そう言って、初老の男の片腕を掴み、立ち上がらせようとする壮年の男の手から身をよじって逃れると。
 初老の男は、更に駄々をこねつつこう言った。

「だってー、あそこからじゃ選手たちが重なっちゃって、何してるか良く見えないんだよー! 君だって知ってるだろう?」

 その悲痛とも言えなくもない言葉を前に。
 壮年の男は、ピクリと頬を痙攣させたものの、ほぼ顔色ひとつ変えずにこう言った。

「一応、私の[首]掛かってるんです。どうか、お戻りを……」

[首]という所を強く協調してそう言うと、壮年の男は初老の男を上から睨み付けるようにそう言った。

「……ちっ、人が下手に出てるのを良い事に脅すとは。ちょっと君、卑怯じゃないのかい?」

 そう言って膝の上の両手を怒りに震わせる初老の男を、壮年の男は呆れた様に見遣ると、後は、勝手知ったるとばかりにこう言った。

「私も[首]が懸かっているので、何とでも。さ……行きますよ」

 そう言って、無理やり初老の男を椅子から立ち上がらせると、壮年の男は礼儀正しく頭を下げてこう言った。

「折角のお話し中、お邪魔してしまったようで大変申し訳ありません。ですが、これも私の仕事でして……本当に、申し訳ない。そういう訳で、私たちはこれで。失礼致します」

 そう言って、初老の男の片腕をむんずと掴んで引っ張っていく壮年の男。
 初老の男は、その状態から後ろを向くと、引きずられて歩きながらこう言った。

「……ってことみたいだから、悪いけど、これで失礼するね。それと、グレック君の健闘、祈っているよ」

 そういうと、初老の男は大人しく上腕を掴まれ、壮年の男に連れ去られて行くのであった。

「あらー、行っちゃった」

 アキが、額に片手をかざし、呆気に取られつつそう言った。

「行っちゃいましたね」

 ミリアも、呆然としながら引きずられていく初老の男を目で追う。

「だけど、凄く剣術に詳しいみたいだったけど……」

 そう言って、首を傾げるエマの言葉を受けて。
 ミリアも悩まし気な顔でこう呟いた。

「あの人、何者なんでしょうか」



     ※     ※     ※



 ミリアたちが初老の男たちと話をしている間に。
 
 ピスカス島のクレハスとフェリクスの試合は、フェリクス勝利で進み、残る試合は、グレックVSグリフォード、フェリクスVSロブナントとなる。

 こうして、剣士団騎士選抜試合は佳境へ向け、着々と進んでいくのであった。
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