上 下
42 / 90
第六章 勝利を目指して

出来レース

しおりを挟む
「グレック、勝ったわね」

 そう言って、ホッとしたため息を吐くエマに。
 ミリアは頬を紅潮させると、興奮したようにこう言った。

「はい! 最後の技、凄かったです!」
「バーナードの渾身の一撃を見切ってからの、カウンター攻撃。ほんと、お見事って感じだったよねー!」

 アキも、冷静に試合を分析しつつも、最後には興奮気味にそう言った。

「でも、会場の人たちは、あまり楽しそうじゃありませんでしたね」

 グレックがカウンターで試合を決めた時、思わず立ち上がって拍手をしたミリアたちとは打って変わって、会場からはパラパラとしか拍手が沸かなかったのだ。
 
 そんなミリアのもの憂い気な様子に。
 アキは肩を竦めて見せると、皮肉な笑みを浮かべてこう言った。

「まあ、グレックは島出身者だし、都人みやこびととしては、[異物]って感じなんじゃないのかな。それに、グレックの勝ち方は地味だからねー。人ってのは、地味な技の凄さよりも、派手な技の凄さに目がいくものだからさー」
「そういうもの、なんですね」

 そう言って、少し寂しそうに会場の中央を見つめるミリア。

 と、その時――。

「あら、田舎者じゃない。こんなところで何をしていらっしゃるの?」

 栗色の髪を徐に掻き揚げながら。
 イヴォンヌはそう言って、ミリアを不愉快そうに見下ろした。

 と、そんなイヴォンヌに。
 ミリアは内心ムッとしながらもこう答える。
 
「友人の、応援ですけど」
「ふーん、ご友人のねぇ。でも、残念だったわね。優勝はもう決まっているのよ」

(決まってるって、どういうこと――?)

 得意げにそう言い切るイヴォンヌを、思わずミリアは凝視した。
 そんなミリアの心情を代弁するかのように、エマも、鳶色の瞳に不穏な色を湛えてこう詰問する。

「なにそれ。この大会、出来レースなの?」

 イヴォンヌは、エマの詰問にイライラと髪を跳ね上げると、胸に片手を当て、激しく捲し立てながらこう言った。

「そう言う意味じゃありませんわ! 私が言いたいのは、武術・学業共に輝かしい成績を誇る私の兄こそが、この大会の栄光を手に入れるのだと、そう申し上げているのです!」
「栄光を手に入れるのは自由だけど……まだ、試合終わってないんだけど?」

 興奮して薄っすらと顔を赤くするイヴォンヌに。
 アキはそう茶茶ちゃちゃを入れる。

 それでも、イヴォンヌはめげるどころか、更に語調を強めてこう言った。

「試合などしなくとも、兄の優秀さは誰が見ても明らかですわ。ですから、いくらあなたたちのご友人が頑張ったところで、無駄というもの。ですから、騎士になることなど諦めて、田舎者は田舎者らしく、王都の片隅で目立たないように暮らすのが良いですわよ」
「田舎者、田舎者って、さっきから一体何なの? 田舎者でも、何しようが何を願おうがそんなの勝手でしょ?」

 エマが、うんざりしたようにそう言うと、ミリアも、追い打ちを掛ける様にこう言い放つ。

「そうですよ! それに試合も、最後までやってみなくては分かりません!」

 エマとミリア、そんな二人のごく当たり前の回答を前に。
 イヴォンヌは大きなため息をひとつ吐くと、二人を見下すようにこう言った。

「田舎者が本当に騎士になれると本気で思っていらっしゃるの? ほんと、身のほど知らずもいい人たちですわね。これだから、夢見がちな田舎者は……」

 そう言って、三人を小馬鹿にしたように肩を竦めるイヴォンヌに。
 エマは、静かな怒りを両眼りょうがんに湛えながらこう言った。

「夢見ることの何が悪いの? 夢見ることは、都人みやこびとだけの特権……って訳でもないでしょうに」

 そんなエマの言葉にみるみる顔を赤く染めると。
 イヴォンヌは、怒りに声を震わせこう言った。

「ともかく! 勝つのは私の兄フェリクス! 騎士になるのも、私の兄フェリクス! 分かったなら、そのご友人を説得して一刻も早く、この会場から出て行くのね!」

(フェリクス……?)

 ミリアは聞き覚えのある名前に、眉を顰めた。

(フェリクスさんて、イヴォンヌさんのお兄さんなの?)

 そう、唖然とイヴォンヌを見上げるミリアを、イヴォンヌは憤りも顕に肩を震わせ睨み付ける。

 と、そんな怒り心頭のイヴォンヌを前に。
 アキは冷めた目を向けると、ため息交じりにこう言った。

「……会場から出て行くっていうのは、ちょっと無理かなー。あいつが諦めない限り、俺たちも諦めないからさ」

 そう言って、首を竦めるアキに。
 イヴォンヌは、栗色の髪を激しく跳ね上げると、高ぶった精神を落ち着かせるようにため息をきつつこう言った。

「そこまで言うのでしたら、もう何も言いませんけれど。でも、ご忠告はして差し上げましたわよ! ……はぁ、全く。とんだ時間の無駄でしたわ……」

 そう言って、こめかみを抑えつつ嫌味たっぷりの捨て台詞を吐くと。
 イヴォンヌは、乱れた髪もそのままに、会場の人混みの中へと去って行くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...