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第四章 王都からの洗礼

野生のイチゴを求めて

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「ふぅー。これで良いかな」

 玄関の前に続く一本の小道を挟んで両脇には、耕された土が敷き詰められていた。
 幅・約一メルト(一メートル)、長さ・約二メルト(二メートル)のそれは、周りを赤茶色のマッドな煉瓦に囲まれている。

 ミリアは、帆布で出来た焦げ茶色のエプロンの大きめのポケット二つから、少し大きめのジャガイモを取り出した。
 そしてそれを、ひとつずつ穴を掘って植えていくと、鉄で出来た小さめのスコップでその上に土を盛っていく。
 それを五回ほど繰り返し、ミリアはゆっくり立ち上がると、大きく背伸びをした。

 ここ数日、失敗する事ばかりを考えて、なかなか植えられないでいたジャガイモ。

 だが――。

――『ミリアには、ジャガイモの夢があるじゃないか』

 そうグレックから、背中を押されたように感じたミリアは、意を決し、とうとうジャガイモを植えたのであった。

(もしかしたら、芽は出ないかもしれない。それでも、何もしないで腐らせてしまって後悔するよりは、ずっといいよね)

 そう自分の心に言い聞かせると、ミリアは雲一つない霞がかった春の空を仰ぐと、眩しそうに目を細める。

 フェスタ島にいる父も、今、同じようにこの美しい空を眺めているのだろうか――。

「お父さん……お願い、力を貸して」

 そう言って空に手を伸ばすと、ミリアはゆっくりを目を閉じるのであった。



     ※     ※     ※ 



「そうだ、イチゴを摘みに行こう!」

 そう思ったのは、お昼用に取って置いたサンドイッチを食べ終わった、昼を少し回った頃であった。

(みんなにも会うし、ジャムなんか作ったら喜ばれるかも)

 そう思い至ったミリアは、早速準備を開始する。

 数日前に市場で買ってきた取っ手の付いた籠を用意し、帆布で出来たこげ茶色のエプロンを付ける。

(イチゴは手で摘み取れるから、ハサミは置いて行っても大丈夫だよね)

 そう言って、ハサミを棚の上に置くと、ミリアは家の鍵を閉め、軽い足取りで森へと歩を進める。

(そう言えば、小道にも野生のイチゴがっていたから、まずは小道の近くを探してみようかな)

 そう思い定めると、ミリアは小道の脇を目を凝らして見つめる。
 時には、小道の脇に少し入ったりしながら、籠を一杯にしようと努めるものの、何分、春という事もあり、イチゴを摘みに来ている人が思いのほかたくさんいた。

 更には――。

「ちょっと、あなた……さっきから邪魔なんだけど」

 そう、心無い言葉を掛けられてしまう始末。
 しかも、その声の主というのが――。

「あら、あなた……雑貨屋にいた田舎娘じゃない」
「あ、イヴォンヌ……さん?」
「こんなところで会うなんて……私、ほんとにツイていないわね」

 ひらっひらの薄い桃色のエプロンに、取っ手付きの籠を片手に下げたイヴォンヌは、栗色の長い髪をこれ見よがしに掻き揚げると、ミリアを追い払うような仕草をしながら忌々し気にこう言った。

「この辺は今、イチゴを摘みに来ている都人みやこびとで込み合っているから、田舎者は違う場所を探しなさい」

 そう言って邪魔だと云わんばかりに眉を顰めるイヴォンヌに。
 ミリアは、困ったようにこう言った。

「違う場所って、ど……どこに行けば?」
「そんなの、自分で考えなさいよ。これだから田舎者は……」

 呆れた様にそう言うと、イヴォンヌは自分の籠にさっさとイチゴを摘み入れていく。

「自分で考えろって言われてたって……」

 ミリアは王都に来て、まだ一週間も経っていないのだ。
 せめて、地図を見て「この辺」……とぐらいは教えてくれてもいいのではないか――?

 そんなことを思いながらも。
 ミリアは気持ちを切り替えると小道の脇を覗き込む。

(そう言えば、みんなどうして森の中の方でイチゴ摘まないんだろう。森の中の方が絶対たくさん取れそうなのに……)

 ここから覗いて見るだけでも、ぽつぽつと野性のイチゴが見える。

「……ということは、森の中はイチゴ取り放題……」

 その事実に気付いたミリアは、一心不乱にイチゴを摘んでいる人たちの脇をそっとすり抜けると、そのまま野生のイチゴを摘みつつ森の中へと姿を消すのであった。
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