パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#74 ユリアの夢はロートレアモンの味がする

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*月*日

   きのう、なんだかしらないけれど、一人暮らしのゆりあの部屋に遊びにいくという、夢をみた。

   現実のゆりあは両親と妹の四人で暮しているはずだった。夢のなかでゆりあは、いつものように伏せ目がちな目をしながら、俺を見ていた。

   あの目が、おれを狂わせる。

   ゆりあ、ゆりあ、おれはおまえを愛してる。胸が張り裂けそうなほど好きなんだ。

   しかし。

   おれは、実に不甲斐ない男であり、夢のなかでさえもゆりあにキスすらできなかったことを悔やんだ。

   翌日。親父が再婚した女と、いつものように罵り合いをはじめたので、すぐさま家を飛び出した俺は図書館で知り合ったおばさんに電話した。そして、強引に遊びに押しかけ、甘えん坊のふりして一発やった。

   やってるとき、チンチラシルバーのショコラと名付けられた猫が、ずっとおれらを見ていた。その美しいターコイズブルーの瞳で。

   おばさんだから、後腐れがなくていいだろうとか、もしかしたら避妊の心配すらしなくてもいいから、こちらも気が楽だとか、そういった打算がいつも働いているらしい。

   らしいなんて、自分のことなのにおかしな言い方だが、ともかく、別段おばさんが好きなわけでもないような気がする。

   なんて曖昧なのだろうと自分でも思うのだが、自分のことをいちばん知らないのは、自分なのかもしれないのだ。

   しかし、おばさんのあの時のよがり声は、どうだろう。つるべによって数百メートルもの地下から汲み上げられてくる井戸水のように、深く重くとろりとした密やかな甘露は、あたかも痛みではないかと思えるほどに熾烈であり、もしかしたら快感も痛みも同根なのではないのか、そう、思わせるのだ。

   あまりにも長い期間使われていない神経は、金属のそれのように錆びついていて、なかなか電流が流れないのではないか。

   いわば新しくシナプスが作られていく、その作業に時間がかかるときのように。そんな風にいつも思ってしまうのだった。

   とにかく子どもを孕む心配のなくなった女性は、それまでストイックであったぶん、今まで我慢に我慢を重ねてきた痺れるような快楽をむさぼりたいがために奔放にセックスを楽しむものであるらしい。むろん、個人差はあることだろうけれど。 

   そして、そのおばさんと関係が出来て以来、義理の母親へのおれの視線は、前とはがらりと変わった。まだ手を出してはいないが、次に親父が泊まりで関西とかに出張するときは、ヤバい気がする。

   家庭内でのことだから、誰もおれの暴走をとめることはできない。戸籍上は親子でも血のつながりはないのだ。常識ある大人の女であるからこそ、むしろ好き放題できるというわけだ。

   こんなことしてはいけません。私たち親子なのよ。お父さんに知られたらどうするの!

   その背徳ゆえに人知れず密やかに継続されてゆくというわけなのである。好きなときに好きなだけやれる。

   この世でこれほど都合のいい女も、いないだろう。ただ、図書館のおばさんよりは、若いので避妊はしっかりしないといけないが。

    そして、俺は翌日も学校をさぼってしまった。IQは高いらしいのだが、成績の方はさっぱりだった。

    一度なにをとち狂ったのか、発作的に勉強がしたくなって参考書を買い漁り勉強しまくって一気にガーンと順位が上がったりしたが、またぞろ飽きてギター三昧の日々に逆戻り。酒と薔薇の日々ならぬギターとアイドルの日々。

    ある日、Angraを必死にコピーしていると、部屋に親父がやってきて、真面目な顔をしてこんなことをいうのだった。

「祐太、おまえマジに音楽で食ってくつもりなのか? 」

   返事を濁していると、

「まあさ、なんでもいいから、夢はでっかく持てよ。ところでさ、おまえ、これ知ってる?」

    親父はスマホを取り出した。

「アングラ?   もいいけどさ、このタイコ聴いてみろよ」

   YouTubeの画面。それはサンタナだった。

「知ってるよ、マイケル・シェリーブだろ?」

「なんで知ってんだ、こんな古いの?」

「音楽に古いも新しいもないさ。面白いか、つまんないか、そのふたつしかないじゃん」

「そりゃそうだ。おまえ、そんなこと、どこのおねいさんに吹き込まれたんだ? 」

「は?」

「はじゃねーだろ、きれいなおねいさん、パパにも紹介してくれよ、な、祐太?」

「親父……キモいんだよ、あっちいけ、シッシッ」

「あっ、あー、ひーどーいー祐太くんてばあ、もうイケズなんだからあ♡」

「なんで、おねえなんだよ。アホがうつる、頼むからから消えてくれ」








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