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ハンスのレクチャー
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ホテルの部屋からは、そそり立つキリストの巨大な像が手を広げているであろうコルコバードの丘が見えた。ケンはソファから立ち上がって窓辺に向かい、ベランダへと出た。いや、バルコニーか?
かなりの距離があり小さいけれど、あの巨大なキリスト像がくっきりと見えた。まさにコルコバードに違いなかった。触れるほど間近に見えるわけではないが、距離によって縮小されたキリスト像は、逆にケンには強烈なリアルさを感じさせるのだった。
実はコルコバードのキリスト像と、アントニオ・ガウディのサクラダファミリアは死ぬまでに一度でいいから見てみたいとケンは思っていたのだ。
その一つめの夢が、あっさりともう叶いそうだった。それに、それどころの話じゃなかった。あのテレポーテーションのスキルを身につけたら、瞬時に世界中のどこへでも好きな時に移動できるのだ。
あれは、飛ぶという感じじゃなくて、文字通り瞬間移動だなとケンは、一瞬すぎてわけわからないなりに、このホテルの一室へと移動してきたあの時の感覚が蘇ってきたように感じ、ぶるっと身震いしてしまった。
周りの景色が一瞬にして変わってしまう様子は、TVでザッピングしている感じに近いものがあるかもしれないとケンは思った。
しかし、この部屋はいったい? 部屋のカードキーらしきものがテーブルに置いてあるし、闇雲に空いてる部屋に侵入したわけではないらしい。
ケンは、もう驚かなかった。リアルにテレポーテーションを経験したのだ。窓から望むキリスト像のある絶景もリアルだ。ハリボテやら書割りじゃない。
つまり、さっきのハンスだっけか、ここを根城にしているわけもないが、ここからケンを連れに日本へとジャンプしたか、あるいは、彼は時間を遡行してホテルの部屋をとった。そういうことであるにちがいなかった。
それにしてもとケンはかなり高級そうなスイートからの美しい眺めに、うっとりするばかりなのだった。しかし、つい30分ほど前にはヒトがこんなに自由であるとは思ってもみなかった。
他の子はどうなのか知らないが、少なくともケンは子どもの頃、空を飛べるとか妖精がいるとか、魔法が使えるようになるのは当たり前のように思っていた。
その夢のある想像力を、一枚また一枚と大人になるに従い引き剥がされていくのだ。ヒトは空を飛べるわけもないし、妖精がいるわけもない、スプーン曲げはイカサマだし、異世界転生なんてトンデモ過ぎて話しにもならない。
それが常識というものらしい。でも、世界の、そして全人類の英知が生み出した珠玉の科学の常識も、ひとつのウイルスの存在によりいともたやすく覆されてしまった。
そのことを考えると、今までに常識とされていた絶対的なものも、絶対ではないことがわかってきたわけだ。なので、ヒトはその術を知らないだけであり、実は空を飛べるかもしれないし、妖精は見えないだけでそこら中を飛び回っているかもしれない。それにスプーンやフォークを曲げるなんて実は簡単すぎるかもしれないのだし、異世界やら並行世界も無限にあるのかもしれない。
そんなことを考えていると、何か気配を感じケンは部屋の中を振り返った。するとハンスがソファにゆったりと座っているのだった。
「お待たせ。それじゃ、ちょっとしたレクチャーはじめましょうかね」そう言ってハンスはケンを手招きした。
「レクチャーって、つまり」
「そう。このスキルの話。でもその前に肝心なことを話さなきゃならない。おれらは、いわゆる超能力、普通の人間が持つと言われている知覚以外にテレパシー、サイコキネシス、テレポーテーションといった能力を持つ者をエスパーと呼んでいるけど、それらの特別な能力は使うとエスパーには、わかってしまうもんなんだよ」
「あー。なんとなくわかるような気がします」とケン。
「目には見えないんだけどね、もう少し科学が進歩したら、科学的にも証明されるはず。まあ、とにかく今はまだ常識から逸脱した荒唐無稽なトンデモ話に思われるのがオチだけれど、ヒトには最初からそういう能力が備わっているんだよ。でも、勉強にしてもスポーツにしても、なんでもそうでしょ、その能力を伸ばしていくためには訓練しなくてはならない」
「訓練すれば、誰でもできる?」
「ある程度はね。でももちろん、誰もがオリンピックで金メダル取れるわけじゃないし、ノーベル賞も誰でも取れるわけもない。どんな人にも得手不得手があるわけで、得意なこと、好きなことを伸ばしていけばいいと思うんだよね」
「なるなる。サッカーの好きな人は、その技を磨いて伸ばしていげばいいのだし、別にノーベル賞狙わなくていい」
「ひとつのことでも極めたら、すごいことだからね。そんな風に超能力にも適正があって、ケンくんにはそれがあるとわかったんだよね。実は、なんていうの緊急事態的な非日常なことが起こって、危険に晒されるとヒトって素の潜在能力が顕現しパワーを発動したりするわけだよ。だから、あんな拉致みたいな乱暴なことしたんだけどね。いや、あの時は済まない事をしたね、いまさらだけど謝ります」
「はあ。そういうことだったんですね。それは、まあ、いいんですけど、ナオトはどうなりましたかね?」
「それなんやけど、ナオトくんはまあ、エスパー的には適正なかったかな。ハハハ」
「え? それで?」
「彼はまあ、ケンくんの巻き添えみたいなことやったんやけど、彼本人は、やりたいということなので彼には、別のカリキュラムを組みました」
「別のカリキュラム?」
「せやで。うちらとしても初めての試みなんやけどね、ハハハ」
かなりの距離があり小さいけれど、あの巨大なキリスト像がくっきりと見えた。まさにコルコバードに違いなかった。触れるほど間近に見えるわけではないが、距離によって縮小されたキリスト像は、逆にケンには強烈なリアルさを感じさせるのだった。
実はコルコバードのキリスト像と、アントニオ・ガウディのサクラダファミリアは死ぬまでに一度でいいから見てみたいとケンは思っていたのだ。
その一つめの夢が、あっさりともう叶いそうだった。それに、それどころの話じゃなかった。あのテレポーテーションのスキルを身につけたら、瞬時に世界中のどこへでも好きな時に移動できるのだ。
あれは、飛ぶという感じじゃなくて、文字通り瞬間移動だなとケンは、一瞬すぎてわけわからないなりに、このホテルの一室へと移動してきたあの時の感覚が蘇ってきたように感じ、ぶるっと身震いしてしまった。
周りの景色が一瞬にして変わってしまう様子は、TVでザッピングしている感じに近いものがあるかもしれないとケンは思った。
しかし、この部屋はいったい? 部屋のカードキーらしきものがテーブルに置いてあるし、闇雲に空いてる部屋に侵入したわけではないらしい。
ケンは、もう驚かなかった。リアルにテレポーテーションを経験したのだ。窓から望むキリスト像のある絶景もリアルだ。ハリボテやら書割りじゃない。
つまり、さっきのハンスだっけか、ここを根城にしているわけもないが、ここからケンを連れに日本へとジャンプしたか、あるいは、彼は時間を遡行してホテルの部屋をとった。そういうことであるにちがいなかった。
それにしてもとケンはかなり高級そうなスイートからの美しい眺めに、うっとりするばかりなのだった。しかし、つい30分ほど前にはヒトがこんなに自由であるとは思ってもみなかった。
他の子はどうなのか知らないが、少なくともケンは子どもの頃、空を飛べるとか妖精がいるとか、魔法が使えるようになるのは当たり前のように思っていた。
その夢のある想像力を、一枚また一枚と大人になるに従い引き剥がされていくのだ。ヒトは空を飛べるわけもないし、妖精がいるわけもない、スプーン曲げはイカサマだし、異世界転生なんてトンデモ過ぎて話しにもならない。
それが常識というものらしい。でも、世界の、そして全人類の英知が生み出した珠玉の科学の常識も、ひとつのウイルスの存在によりいともたやすく覆されてしまった。
そのことを考えると、今までに常識とされていた絶対的なものも、絶対ではないことがわかってきたわけだ。なので、ヒトはその術を知らないだけであり、実は空を飛べるかもしれないし、妖精は見えないだけでそこら中を飛び回っているかもしれない。それにスプーンやフォークを曲げるなんて実は簡単すぎるかもしれないのだし、異世界やら並行世界も無限にあるのかもしれない。
そんなことを考えていると、何か気配を感じケンは部屋の中を振り返った。するとハンスがソファにゆったりと座っているのだった。
「お待たせ。それじゃ、ちょっとしたレクチャーはじめましょうかね」そう言ってハンスはケンを手招きした。
「レクチャーって、つまり」
「そう。このスキルの話。でもその前に肝心なことを話さなきゃならない。おれらは、いわゆる超能力、普通の人間が持つと言われている知覚以外にテレパシー、サイコキネシス、テレポーテーションといった能力を持つ者をエスパーと呼んでいるけど、それらの特別な能力は使うとエスパーには、わかってしまうもんなんだよ」
「あー。なんとなくわかるような気がします」とケン。
「目には見えないんだけどね、もう少し科学が進歩したら、科学的にも証明されるはず。まあ、とにかく今はまだ常識から逸脱した荒唐無稽なトンデモ話に思われるのがオチだけれど、ヒトには最初からそういう能力が備わっているんだよ。でも、勉強にしてもスポーツにしても、なんでもそうでしょ、その能力を伸ばしていくためには訓練しなくてはならない」
「訓練すれば、誰でもできる?」
「ある程度はね。でももちろん、誰もがオリンピックで金メダル取れるわけじゃないし、ノーベル賞も誰でも取れるわけもない。どんな人にも得手不得手があるわけで、得意なこと、好きなことを伸ばしていけばいいと思うんだよね」
「なるなる。サッカーの好きな人は、その技を磨いて伸ばしていげばいいのだし、別にノーベル賞狙わなくていい」
「ひとつのことでも極めたら、すごいことだからね。そんな風に超能力にも適正があって、ケンくんにはそれがあるとわかったんだよね。実は、なんていうの緊急事態的な非日常なことが起こって、危険に晒されるとヒトって素の潜在能力が顕現しパワーを発動したりするわけだよ。だから、あんな拉致みたいな乱暴なことしたんだけどね。いや、あの時は済まない事をしたね、いまさらだけど謝ります」
「はあ。そういうことだったんですね。それは、まあ、いいんですけど、ナオトはどうなりましたかね?」
「それなんやけど、ナオトくんはまあ、エスパー的には適正なかったかな。ハハハ」
「え? それで?」
「彼はまあ、ケンくんの巻き添えみたいなことやったんやけど、彼本人は、やりたいということなので彼には、別のカリキュラムを組みました」
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