銀の魔術師の恩返し

喜々

文字の大きさ
上 下
14 / 25

魔術師、剣闘士大会を観る

しおりを挟む
 アルから剣闘士大会の話を聞いた数日後、僕は激務に追われていた。

「うぅ、もう疲れた。いやだ。もう無理だー!」

「それがお前の仕事だろ。もっと頑張れ」

 僕は今、植物園の目の前で実験室では使えないほど大きい釜をかき混ぜている。何故かと言うと剣闘士大会に向けて、怪我人用の回復薬を作って欲しいと学園長から直々に頼まれてしまったからだ。媚薬の件で、授業を休んでしまった事もあって断ることが出来なかった僕はこうして寒さの中必死で回復薬を作っているのだ。

「なんでゼロはそんなに寒くなさそうなの?」

「慣れているからな」

 ゼロは近くで素振りをしている。

「先生、寒くないか?」

「大丈夫だよ。アルは優しいね。」

 回復薬作りの話をしたら自ら手伝いたいと言い出したため、アルにはラズウェルの回復薬作りの手伝いをしてもらっている。

「ラズ。俺はそいつを認めて無いからな。」

「いや、まだその話続いていたの?もういいんじゃない?」

 ゼロは鋭い目でアルを見ている。

「そういや、ゼロは先生のことラズって言うんだな。二人はそんな仲良かったっけ?それに、ゼロがこんなに饒舌だとは知らなかった。」

「え、あ、うん。もう長いこと一緒にいるからね。」

 僕たちの関係性を聞かれると、どう答えたらいいか分からない。あの事件の事もあってゼロと僕の関係はあやふやになっている。

「少なくとも、生徒のお前よりは長い時間を共に過ごしている。」

「は?俺だって先生とよく茶会を開いて先生のこともよく知っているし。」

 二人は恐ろしい剣幕で言い合いをしている。僕が入る余地もなさそうなので、黙々と回復薬作りに励んだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とうとう、剣闘士大会当日になった。回復薬作りは大会の前日まで続いて、当日だというのに既に疲労が溜まっている。競技場は学園から離れ、王都の中心に近い所にある。

 久しぶりにソリに乗って競技場に向かう。久しぶりと言っても僕には乗った記憶がないのだが。

 今日は天気もよく、雪は降り止んでいる。

 もうすでにゼロとアルは競技場に行ってしまったようだ。

 長い間ソリに乗っていると競技場らしき建物が見えてきた。

 到着し観客席に行くと既に多くの生徒が競技場の席を埋めていた。

「この学園にこんな多くの生徒がいたとは驚きだなぁ」

 感嘆を漏らしながら教員席を探し歩いていると、

「あらあら、ラズウェルさん!貴方の席は私の隣よ。」

「アイリーン先生」

「回復薬作りありがとうね!貴方のおかげで助かったわ!」

「いや、僕はやるべきことをしたまでですよ。」

「それでも、貴方は感謝されるべきよ!そういえばゼロ先生への恩返しは進んでいるのですか?」

「あ、忘れてた。どうしよう。逆に迷惑かけてばかりになってる…」

「あらあら、それならもういっそのことゼロ先生が喜ぶようなことをしたら宜しいのではないですか?」

「喜ぶこと、ですか?」

「分からなかったら、ゼロ先生に直接聞いてもいいと思いますよ。もう十分仲良くなったようですし」

 にこにことしながらアイリーンは悩んでいるラズウェルを見つめる。

「そうですね、そうしてみます。」

 席に着いてしばらくすると甲高い鐘の音が響く。どうやら大会の幕開けのようだ。観客席はざわざわとし始める。

「これより第149回王立エレクトル学園剣闘士大会を開幕することを宣言する。」

 学園長が競技場全体に聞こえるように拡張魔術を展開しながらそう宣言すると、観客席はわっと歓声を上げた。





 まさか、後にこの歓声が悲鳴に変わってしまうとはこの時、誰も考えていなかった。















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。 [名家の騎士×魔術師の卵 / BL]

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

【完結】追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜

●やきいもほくほく●
恋愛
「フランソワーズ・ベルナール、貴様との婚約は破棄させてもらう」 パーティーの場で、シュバリタイア王国の王太子……セドリック・ノル・シュバリタイアの声が響く。 その隣にはフランソワーズの義理の妹、マドレーヌが立っていた。 (さて……ここまでは物語通りかしら) フランソワーズ・ベルナールは前世で読んだ小説の悪役令嬢だった。 そして『聖女』として悪魔の宝玉を抑えて国を守っていたのだが……。 (これですべてが思い通りに終わると思っているんでしょうが……甘いのよ) マドレーヌに貶められて罪に問われたフランソワーズは国外への逃亡を決意する。 しかし逃亡しようとしたフランソワーズの前に現れたのは隣国、フェーブル王国の王太子ステファンだった。 彼はある事情からフランソワーズの『聖女』としての力を欲していた。 フェーブル王国で、国を救った救世主として持ち上げられ、ステファンから溺愛されるフランソワーズは幸せな日々を過ごす。 一方、フランソワーズを追い出したシュバリタイア王国は破滅へと向かう──。

薔薇の恋人

夏目綾
BL
生前、薔薇の恋人と謳われた絶世の美女、母エルダの生き写しであるジークフリート王子。 ジークフリートは死んだ母から、自分の意思を継ぐようにと想いを託される。 ジークフリートを溺愛する義父。ジークフリートを恨む弟。ジークフリートを悪の道へ導く侯爵。ジークフリートを心から愛し助けたい同級生。 美貌の王子をめぐる愛と憎しみの物語。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

公爵令嬢は婚約破棄を希望する

ごろごろみかん。
恋愛
転生したのはスマホアプリの悪役令嬢! 絶対絶対断罪なんてされたくありません! なのでこの婚約、破棄させていただき…………………できない!なんで出来ないの!もしかして私を断罪したいのかしら!? 婚約破棄したい令嬢と破棄したくない王太子のじゃれつきストーリー。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

処理中です...