銀の魔術師の恩返し

喜々

文字の大きさ
上 下
4 / 25

魔術師、恩人に会う

しおりを挟む
 朝食を済ませアイリーンから自分の荷物を受け取った後、白い襟シャツの上からいつもの星座のローブを着込む。このローブは特注品で動きやすく、ある程度敵からの魔術を防げる便利な代物だ。


 着替えを済ましドアを開け廊下に出ると、白い大理石の床とバーガンディ色の壁が広がっていた。


 天井は高く、よく見ると細かい彫刻も彫られている。


 見るからに美しい造りに感嘆の声を漏らすと廊下で待っていたアイリーンが笑顔で話しかけてきた。


「支度は終わったかしら?さあゼロ先生の所に行きましょう!」


「はい!」


 アイリーンの明るい声色につられて僕も元気に返事をし、歩き出したアイリーンの後を追う。


「そういえばあんなに朝食の時お喋りしていたけれど、貴方の名前を聞いていなかったわね?」


「僕はラズウェルです。色々な所を旅している魔術師で…」


「まぁ!さすらいの魔術師さんに会えるなんて珍しいわ!きっとこれには学園長も驚くに違いないわね!」


 日々の生活で使用する魔術は魔力を多く使用せず、一般の人もよく利用する。しかし魔術師を名乗るには多くの魔力を持ち、膨大な量の魔術を覚える必要がある。


 魔術師という存在は特別珍しい訳では無い。しかし、多くの魔術師はどこかの組織に所属していることが普通だ。魔術の研究をしたり、戦力として雇われている者もいる。


 珍しいのは冒険者ギルドを通して活動する魔術師だ。魔術を扱える程の魔力を持ち、魔術を操る技術があればお金に困ることはほとんど無い。


 だが、どこかに所属したくない変わり者の魔術師はギルドに登録し、自由気ままに依頼をこなし生活している。

 ラズウェルもその一人である。


「どこかにずっと縛られるのは苦手なんですよ」


「そうなのね!旅好きな魔術師さんの意見が聞けて嬉しいわ!」
 

 そうこうするうちに大きな扉の前に到着した。


「さあここがゼロ先生がいる教師部屋よ」


 そう言うとアイリーンはドアをノックする。扉は硬い木でできており、ノックの音は響く事もなくすぐに消える。


 しばらくすると中で人が動く音が聞こえ、金のドアノブがガチャリと音をたてて回った。


「おはようございますゼロ先生!」


「……アイリーン先生はいつも通り元気だな」


 中から出てきたのは180cm以上はある体格の良い男性でウェストコートを着た姿は教師そのものだ。短い黒髪はサラサラとしていて鋭い瞳はダークブルーだった。整った顔立ちも相まって正しく、美丈夫と呼ぶに相応しいと思った。


「ゼロ先生、昨日貴方が助けた魔術師のラズウェルさんを連れてきたわ!」


 そうアイリーンが言うとゼロはラズウェルの方に顔向ける。


「ゼロだ。元気そうで良かった。」


「助けて頂きありがとうございます!あの大雪の中、僕を運ぶのは大変だったかと思います。どうか恩返しをさせてくだい」


 笑顔を意識して感謝を述べる。


「恩返しはいらない感謝の言葉で十分だ。あと、敬語は使わなくていい。それから…」


 表情を変えず淡々と述べるゼロにラズウェルはすかさず口を挟む。


「分かった。敬語はいらないんだね。ならそうしよう!だけど、恩返しはどうかさせて欲しい。借りを作ったまんまなんて僕だって気分が悪い。」


 ゼロは口を閉ざし僕の言い分を聞いていた。


「そうか、だが君にできることは少ないのではないか?俺には今困っていることなど無いからな。」


「恩返しする方法が見当たらない事なんてあるのかな?欲しい物とかないの?無いなら適当に高価な物をあげようか…でも確かに恩返しって言っても君が満足しなきゃ意味がないもんなぁ……」


 するとゼロとラズウェルの話を側で聞いていたアイリーンが口を開く。


「なら、この学園で教師として働いてもらったらいいじゃないかしら?一緒に働いてるうちにきっとラズウェルさんに手伝って欲しいことが出てくるばずだわ!」


 なるほどその手があったか。学園で教師をやるということはきっと学園内にある蔵書を沢山読めるはずだ。恩返しもできて、本も読めるなんてこれ程幸せなことは無い。


「アイリーン先生…その話は学園長を通す必要があるんじゃ」


 再びゼロの言葉にラズウェルは声を被せる


「それはいいね!なら早く学園長の所へ行こう!」


 アイリーンとラズウェルは楽しそうに学園長室へと向かい始める。


 ゼロは黙ったまま二人の後ろ姿を見て小さく溜め息をついた。


 しばらくして、ラズウェルに渡さなければならない入国手続き書があったのを思い出し、遅れて学園長室へと向かって行った。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
魔術学院に通うクーノは小さい頃助けてくれた騎士ザイハムに恋をしている。毎年バレンタインの日にチョコを渡しているものの、ザイハムは「いまだにお礼なんて律儀な子だな」としか思っていない。ザイハムの弟で重度のブラコンでもあるファルスの邪魔を躱しながら、今年は別の想いも胸にチョコを渡そうと考えるクーノだが……。 [名家の騎士×魔術師の卵 / BL]

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

【完結】追放聖女は最強の救世主〜隣国王太子からの溺愛が止まりません〜

●やきいもほくほく●
恋愛
「フランソワーズ・ベルナール、貴様との婚約は破棄させてもらう」 パーティーの場で、シュバリタイア王国の王太子……セドリック・ノル・シュバリタイアの声が響く。 その隣にはフランソワーズの義理の妹、マドレーヌが立っていた。 (さて……ここまでは物語通りかしら) フランソワーズ・ベルナールは前世で読んだ小説の悪役令嬢だった。 そして『聖女』として悪魔の宝玉を抑えて国を守っていたのだが……。 (これですべてが思い通りに終わると思っているんでしょうが……甘いのよ) マドレーヌに貶められて罪に問われたフランソワーズは国外への逃亡を決意する。 しかし逃亡しようとしたフランソワーズの前に現れたのは隣国、フェーブル王国の王太子ステファンだった。 彼はある事情からフランソワーズの『聖女』としての力を欲していた。 フェーブル王国で、国を救った救世主として持ち上げられ、ステファンから溺愛されるフランソワーズは幸せな日々を過ごす。 一方、フランソワーズを追い出したシュバリタイア王国は破滅へと向かう──。

薔薇の恋人

夏目綾
BL
生前、薔薇の恋人と謳われた絶世の美女、母エルダの生き写しであるジークフリート王子。 ジークフリートは死んだ母から、自分の意思を継ぐようにと想いを託される。 ジークフリートを溺愛する義父。ジークフリートを恨む弟。ジークフリートを悪の道へ導く侯爵。ジークフリートを心から愛し助けたい同級生。 美貌の王子をめぐる愛と憎しみの物語。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

公爵令嬢は婚約破棄を希望する

ごろごろみかん。
恋愛
転生したのはスマホアプリの悪役令嬢! 絶対絶対断罪なんてされたくありません! なのでこの婚約、破棄させていただき…………………できない!なんで出来ないの!もしかして私を断罪したいのかしら!? 婚約破棄したい令嬢と破棄したくない王太子のじゃれつきストーリー。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

処理中です...