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魔術師を拾う
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ゼロは隣国からフィロント王国に帰るため、数頭のトナカイが繋がれたソリに乗り、手綱を器用に操っていた。
トナカイたちは深い雪の中を勢いよく進んでいく。
前方から吹き付ける雪がゼロの黒髪を白く染め上げていき、ゼロは鬱陶しそうにその雪を振り払う。
愛用の剣の修理が終わったと隣国に住む名高い鍛冶師から連絡が入って、すぐに剣を受け取りに出かけて行き、無事に剣を受け取ったのはもう数時間も前だ。
行きよりも雪の降る量が多くなっているようだ。
体が完全に冷える前に到着しなければ。
ゼロは黒い外套を風に靡かせ颯爽と雪の上を滑る。
雪原を滑り切るとその先は針葉樹の森が広がり、自然とソリの速度が落ちてくる。
ゼロは舌打ちをしながら手綱を器用に操って木と木の間を縫うようにソリを滑らせる。
しばらくすると少しばかり開けた場所に出た。
後は真っ直ぐ行けば国に入る門にたどり着くだろうと思っていた時、遠くに雪がもりあがっているのが見えた。
そこに近づくにつれ黒い衣服が雪の隙間から見え、誰かが雪の中で倒れていると分かった。
急いで手綱を引き、ソリのスピードを落とす。
ソリから飛び降りて駆け寄ると積もった雪が僅かに上下しているのが見えた。まだ息がある。
積もった雪を払いのけると黒い衣服は魔術師がよく着るローブだった。だが、よく見ると銀糸で綺麗な刺繍が施されている。どうやら星座が刺繍されており、晴れた夜空を想像させる。
小柄な体型から女性かと思ったがどうやら男性のようだ。長めの髪はくすんだ灰色で、髪を一纏めにしていなかったためか、髪が無造作に広がっている。顔は髪に隠れてよく見えないが、髪から覗く白い肌が体温の低さを物語っている。
体の横にはフィロントに向かうには少なすぎる荷物があり、どうやら防寒着を持ってきていなかったものと推測できる。
倒れた理由にゼロは呆れてしまったが、このままにしておくと寒くて二人ともここで死んでしまう。
口笛を吹き、トナカイたちを近くに呼ぶ。
魔術師と思われる男をソリにあったブランケットで包み、軽々しく持ち上げソリの後ろに乗せる。
「それにしても、体重がこんなに軽いと脂肪が無くてすぐ死んじまうんじゃないか?」
体の軽さに驚きつつも、人の命が掛かっているため先を急ぐ。
ソリを滑らすこと数十分。ようやく門にたどり着いた。
急いで門番に事情を説明し、手続きを早く済ましてもらいそのまま門の中へと通してもらった。
倒れていた魔術師(?)の手続きは後回しでいいという。
次に医療施設に向かうのだが、下手な診療所よりも自分の職場である王立エレクトル学園の医務室の方が優れていると思い、学園へと急いだ。
王国内も雪が多く積もっているため、ソリでの移動はよくある光景だ。ソリで学園の門の前まで来てソリを降り、彼を膝の裏と肩を抱え持つようにして学園の中へと入る。
生徒達の学び舎である学習棟に入り、渡り廊下を抜け教師の部屋や、医務室がある特別棟へと入る。
そのまま医務室に入ると榛色の髪にベージュのパッチリとした瞳の女性が椅子に腰掛け何やら資料を熟読している。
「アイリーン先生」
「あら!?ゼロ先生!愛用の剣を受け取りに行ったのではないのですか?」
「それはもう終わった。それはそうと、すぐに診てほしい患者がいる。」
「あらあらそれは大変!すぐに診察室に連れて行くわ!後は任せて頂戴ね!」
「ありがとう、感謝する。」
そう言うと、医術師の彼女は笑顔で診察室に入って行った。
医務室にはゼロ一人しかいなくなり、先程まで抱えていた彼のことを思い出す。
やけに白い肌に細い体。もしかしたら本人は自分の意志であの場所に居た訳では無く誰かに見捨てられたのかもしれない。そう思うと、彼に少し同情してしまう。
……そういえば、門の前にソリを置いてきてしまった。
ゼロは医務室を出た後、また降りしきる雪の中に出かけていった。
トナカイたちは深い雪の中を勢いよく進んでいく。
前方から吹き付ける雪がゼロの黒髪を白く染め上げていき、ゼロは鬱陶しそうにその雪を振り払う。
愛用の剣の修理が終わったと隣国に住む名高い鍛冶師から連絡が入って、すぐに剣を受け取りに出かけて行き、無事に剣を受け取ったのはもう数時間も前だ。
行きよりも雪の降る量が多くなっているようだ。
体が完全に冷える前に到着しなければ。
ゼロは黒い外套を風に靡かせ颯爽と雪の上を滑る。
雪原を滑り切るとその先は針葉樹の森が広がり、自然とソリの速度が落ちてくる。
ゼロは舌打ちをしながら手綱を器用に操って木と木の間を縫うようにソリを滑らせる。
しばらくすると少しばかり開けた場所に出た。
後は真っ直ぐ行けば国に入る門にたどり着くだろうと思っていた時、遠くに雪がもりあがっているのが見えた。
そこに近づくにつれ黒い衣服が雪の隙間から見え、誰かが雪の中で倒れていると分かった。
急いで手綱を引き、ソリのスピードを落とす。
ソリから飛び降りて駆け寄ると積もった雪が僅かに上下しているのが見えた。まだ息がある。
積もった雪を払いのけると黒い衣服は魔術師がよく着るローブだった。だが、よく見ると銀糸で綺麗な刺繍が施されている。どうやら星座が刺繍されており、晴れた夜空を想像させる。
小柄な体型から女性かと思ったがどうやら男性のようだ。長めの髪はくすんだ灰色で、髪を一纏めにしていなかったためか、髪が無造作に広がっている。顔は髪に隠れてよく見えないが、髪から覗く白い肌が体温の低さを物語っている。
体の横にはフィロントに向かうには少なすぎる荷物があり、どうやら防寒着を持ってきていなかったものと推測できる。
倒れた理由にゼロは呆れてしまったが、このままにしておくと寒くて二人ともここで死んでしまう。
口笛を吹き、トナカイたちを近くに呼ぶ。
魔術師と思われる男をソリにあったブランケットで包み、軽々しく持ち上げソリの後ろに乗せる。
「それにしても、体重がこんなに軽いと脂肪が無くてすぐ死んじまうんじゃないか?」
体の軽さに驚きつつも、人の命が掛かっているため先を急ぐ。
ソリを滑らすこと数十分。ようやく門にたどり着いた。
急いで門番に事情を説明し、手続きを早く済ましてもらいそのまま門の中へと通してもらった。
倒れていた魔術師(?)の手続きは後回しでいいという。
次に医療施設に向かうのだが、下手な診療所よりも自分の職場である王立エレクトル学園の医務室の方が優れていると思い、学園へと急いだ。
王国内も雪が多く積もっているため、ソリでの移動はよくある光景だ。ソリで学園の門の前まで来てソリを降り、彼を膝の裏と肩を抱え持つようにして学園の中へと入る。
生徒達の学び舎である学習棟に入り、渡り廊下を抜け教師の部屋や、医務室がある特別棟へと入る。
そのまま医務室に入ると榛色の髪にベージュのパッチリとした瞳の女性が椅子に腰掛け何やら資料を熟読している。
「アイリーン先生」
「あら!?ゼロ先生!愛用の剣を受け取りに行ったのではないのですか?」
「それはもう終わった。それはそうと、すぐに診てほしい患者がいる。」
「あらあらそれは大変!すぐに診察室に連れて行くわ!後は任せて頂戴ね!」
「ありがとう、感謝する。」
そう言うと、医術師の彼女は笑顔で診察室に入って行った。
医務室にはゼロ一人しかいなくなり、先程まで抱えていた彼のことを思い出す。
やけに白い肌に細い体。もしかしたら本人は自分の意志であの場所に居た訳では無く誰かに見捨てられたのかもしれない。そう思うと、彼に少し同情してしまう。
……そういえば、門の前にソリを置いてきてしまった。
ゼロは医務室を出た後、また降りしきる雪の中に出かけていった。
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