ゆとりある生活を異世界で

コロ

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ゆるり辺境生活

希望と絶望は、いつもどこかで

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ワイナール皇国暦286年、7の月



「皆んな、良いですか?準備は整いましたか?」

「「「「「はい」」」」」
「連れてきています」「街門の裏側に」

「よろしい!
では…我らが飼い主だと示す為には堂々と、そしてにこやかに龍達の群れを迎えるのです」

「しっ、しかし、龍使徒代行様!あの御龍以外は我らの事を知らないのではないですか?」
「そ、そうです!しかも御龍は龍達の背後に隠れてしまいましたよ?」
「我々を判別しようもないのではありませんか?」

「大丈夫!アレは照れ隠しでしょう!いや照れ隠れ、でしょう!」

「「「「「は?」」」」」

「どうにかして龍縛鎖を外してしまったのでバツが悪いのでしょう」

「「「「「ええっ⁉︎」」」」」

「ですから、他の龍を呼んで取り成しを頼んだのでしょう」

「「「「「そっ……」」」」」

教徒達は喉元まで出かかった《そんなバカな!》と言う言葉を辛うじて飲み込んだ
それもそうだ、彼等は現状で最高位の立場である龍使徒代行にすがるしかないのだ
アヌビス領主のロキシー・コロージュンに死んでこいと言われたのも同然なのだから
だから精一杯に胸を張って、引き攣った笑顔を作る
マチカネ教徒20人余りの命運は、この態度と笑顔で決まるだろう








「はい、はい、ようこそ来て下さいましたね
私は当パウル商会本店にて番頭を務めさせて頂いているマニハッターと申しますよ
どうぞどうぞ、お見知り置きを」
「やあ、久しぶりですね。
覚えているかは解らないが、乗り合いで一緒だったペローですよガロさん」

「あ、あゝ…あ、いや、こちらの店員さん達に呼ばれて、ずうずうしくも参上したガロだ
今回は違約金も払ってもらい感謝に堪えん」
とガロが頭を下げる
「しかし、家族もと言われたから連れて来たが良かったのか?」

「ええ、ええ、御家族だけ北街区外に置いておくわけにはいかないでしょう?」
「まったくだよ、皇都の壁外は全体的に治安が悪いんだ
そんな場所に亜人種の女子供だけで放ったらかしは良くないからね
ましてや、あんたら御家族はまだまだ皇都に暗いだろう?」

「もっともだな…しかし、これで俺は活計たつきが無くなったんだが何とかなるんだろうか?
俺は息子の為にも稼がなきゃならないんだが?」

「はい、はい、心配は要りませんよ」
「うんうん、心配は要らない」

「驚いたな?なんでそんなに自信満々で言えるんだ?」

「あゝ、それはな?
今回は、とある御方と会ってもらうんだが
それが不首尾に終わってもウチが責任を持ってガロさんと御家族を雇用する用意があるからだよ」
「ええ、ええ、御心配なく」

「なっ、なんでそこまで…いや、俺は同じ事ばかり言ってるな…
それはあれか?パウル商会にとっても大切な御方とやらの為なのか?」

「「その通り」」

「しかし俺は、そんな御大層な人物と出会った記憶が無いんだよ
申し訳ないんだがな…」

「気にすんなよ、一晩の出会いを覚えている方が凄いんだ
そして俺たちの大切な御方は、たった一晩の出会いでしかない者の為人ひととなりを覚えている凄い御方だってだけさ
並みじゃないんだよ」
「はい、はい、ペローの言う通りですね」

「ふ~む…」

「まぁ、気楽に待っていなよ
御屋敷には使いを出してあるから、直に御迎えが来るはずだよ」

「あゝ、わかっ……」

「「もう来ておりますよ」」

「「「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」
マニハッター、ペロー、ガロが飛び上がり、一斉に声がした方に振り返ると、そこには応接室の奥の窓を背にハンスとアイリスが立っている

「「「な、な、な、な⁉︎」」」

「ふふふ…ペローさんがそんなに驚く事ではないでしょうに
経験済みでしょう?」
「虎の獣人の貴方あなた、ガロ様と仰いましたか?
お迎えに参りましたわ」

「い、いつから、いたんだ…」

「ふむ?ガロ様が自己紹介をなさっている時ぐらいでしょうか?」
「ええ、そのぐらいに参上いたしましたわ」

「武を奮って生きてきた獣人の俺に気配も感じさせず…」

「「私どもの主人が御待ちです」」
「表に馬車を用意しておりますから、ガロ様の御家族様をお呼びください」

「「あ、は、はい!」」

「御嫡男が下の階で将棋などを楽しんでらっしゃるのを邪魔するのも不粋ではありますが
私どもの主人も待っておりますので」

「はい、はい、勿論でございますよ
あの御方を長く御待たせする訳にはまいりません
ペロー、急ぎ呼んでおくれ!」
「はい!大至急呼んできます!」







「アロ、今はまだ大人しくしてなよ」

“ゴルルルルルル…”

「しかし、ここから見てても気分が悪くなるヤツらだな
なんであの神官達はニヤニヤしながら偉そうに踏ん反り返ってんだ?
なにか勝算があるんかいな?」

「ロウ殿、我らも不快だぞ」
「アロの機嫌が悪くなるのも当然であるな」
「まずは彼奴等きゃつらから滅してくれようか」

「もう少し待ってくれるかな?
何かしらの勝算があるんなら、それを見てからでも俺たちなら対応出来ると思うんだ
それに、相手の最初の手立てを見ておけば後が楽になるよ」

「「「「「ふむ?」」」」」
「取るに足らぬ問題だと思うが、ロウ殿の仰せの通りにしよう」
「うむ、ロウ殿に対し異論は無い」

「そう言ってくれるのは凄くありがたいんだけど
それで構えてて相手がしょうもない手を打ってきたら笑い話にもならないから…
その時はゴメンね?」
ロウが思いっきり微妙な顔をする

「「「「「…っ⁉︎」」」」」
「ロウ殿でもそのような顔をするのだな⁉︎」
「「「「「グアッハッハッハッハッハ…」」」」」
「これは、我らが龍王に良い土産話が出来たな」
「我らが龍王にこの話をするのが楽しみだ」

「チェッ!もういいよ、進もう」

そして、ロウ達は前進する






“ガラガラガラガラガラガラ…”と東街区の石畳の道を馬車の音が響く
「おっ⁉︎こ、これは⁉︎」

「父さん、俺たちはどこに行くの?」

「いや、それは俺もまだ聞いてないんだガルム」

「あなた、大丈夫なの?」

「あ、あぁ、大丈夫…だと思うよキリム」

「お父さん!アタシは不安なんて無いわよ!凄く豪華な馬車に護衛してくれてる凛々しい騎士さん達
アタシ、まるでお姫さまになったみたい♪」
キアンが顔を上気させて警護の旗槍を立てて進む騎士達を見回すと、騎士達も誇らしく嬉しいのか顔を綻ばせてキアンに微笑み返す

「ウフフ…お姫様気分を存分に味わって下さいねキアンさん」
馬車内の端に座ったアイリスが微笑む

「その…アイリスさん?この馬車と騎士さん達で東街区の大通りを堂々と行けるって…
まさかとは思うんだが、俺たちに会いたい御方って…」

「その予想は恐らく正解でしょう、ガロ様」
馬車外尾部に立つハンスが答える

「やはりか……しまったなぁ、普段着で来てしまった…
もう少し頭を働かせるべきだったな…」

「私が見たところ、大きな汚れもありませんから気にする必要はございません」
「私どもの主人は、そんな事を気にする御方ではありませんから大丈夫ですよ」

「むう…そうは言ってくれてもなぁ…
これだから亜人種は、って思われないだろうか…」

「あなた、私たちは何処へ行くのか解ったの?」

「ん?あゝ…うん…恐らくは東街区を治める御方だ…
コロージュン公爵様…だな…」

「「「ええっ⁉︎」」」

「さぁ、御屋敷が見えましたよ」

バッとガロ達家族が一斉に同じ方向を見ると、目に入るのは巨大な白亜の宮殿
そして、馬車を見定めたのか、ゆっくりと開いていく門
門から玄関テラスへと続く道には儀礼装備を身に纏う騎士団がズラリと並ぶ
その中を完全にフリーズしたガロ一家を乗せた馬車が進む
玄関テラスへと到着した馬車を迎えるのは、横並びに整列した20人余りの多人種メイド達

「「「「「いらっしゃいませ」」」」」
「「「「「ようこそコロージュン公爵邸へ」」」」」
「「「「「ガロ様、御家族様、御待ちしておりました」」」」」
一斉にお辞儀するメイド達

「さぁ、ガロ様、中へどうぞ」
「御家族様も中へ入りましょう」
ハンスとアイリスが邸内に促した






龍達が歩みを止め、マチカネ教徒達を見る
その距離は約100m、街壁からは約500m
微妙な距離感だが、巨大な龍達は距離以上に至近にいるように感じる
そして、ヒトにとって龍達の威容は恐怖以外の何物でもなかった

「や、やあやあ、よくぞ戻ってきたな御龍!」

龍使徒代行が精一杯の虚勢を張り、声を張り上げるのを
他の教徒や街壁上から人々が固唾を飲んで見守る

「仲間の龍も連れてきたのかね?
我々は喜んで仲間の龍も歓迎し、保護するのもやぶさかではないぞ?
しかし、その巨体での群れはアヌビスでの受け入れが難しいのだよ!
だから提案だ!
龍の群れに見合うエサを用意しよう!
そうだな、子供が100人も居れば足りるだろう!
だから御龍が繋がれていた場所に戻ってはどうかな?
そして、再び仲間の龍共々エサに不自由なく飼育してしんぜようではないか!
いや、任せたまえ!
今までの様に4ヶ月で子供を5人とは言わぬ!
2ヶ月で1頭に5人にしよう!
まずは手付けとして、ここに連れてきた子供達を喰らってくれ!
さぁ、誰か連れてきなさい!」

教徒が数人街門へ駆け出し、街門を少し開けた隙間から綱で数珠繋ぎになった泣いている子供達を引っ張ってくる

その光景を見た龍達の目には炎が燃え盛り
そしてヴァイパーの背で伸び上がって見ていたロウは…
…………orz
文字通り、orzオルツで落ち込んだ

「これが…勝算……俺の買い被りにも程があった……」

「ロウ!大丈夫か?」
「ワフウ…」(これはヒドイね…バカにも程があるよ…)
主人様あるじさま、ガンバです!』
「ブルル…ブルルルルル…」

「ロウ、あの子達だ!」
「あぁ!皆んな連れてこられてるよ!」
「ロウどうしよう、皆んな殺されちゃうのかな…」

「タイン…そんな事はさせないよ…全員無事に救い出してみせるよ……しかし…」
今のロウは心からの羞恥心と嫌悪感に身を震わせていた
「龍達に偉そうな事を言っててこのザマだよ…
アイツら…よくも、ここまでの恥をかかせてくれやがって…
目にもの見せてやる…」






「やあやあ、よく来てくれたね
私は当代コロージュン公爵家当主のロマンだ
ガロ殿?であったかな
それと奥方、御息女、嫡男殿だね?
まぁ、まずは腰掛けてくれるかな?」

「「「「は、はいっ!」」」」

「あゝ、そんなに固くならないでくれたまえ
別に取って食おうという訳ではないのだよ
ちょっと貴殿と御家族の事を小耳に挟んでね、為人を見た上で仕事を受けてもらおうかと思って来てもらったのだよ」

「え⁉︎俺…いや、失礼しました
私だけではなく、家族もですか?」

「うん、そうだね。御家族も、だよ」

「それは…息子は未だ7歳、娘は14歳で成人にすらなっていないし
妻は家の事ばかりで、外での仕事などした事もありませんが…
あ、いや、今は家すらありませんが」

「ふふっ…それは問題は無いし、住み込みになるから寝床の心配も要らないね
それに、嫡男君?え~っと、名は何と言うのかな?」

「あ、ガ、ガルムです…」

「う~ん、少し覇気が無いね?もう少し元気良く名乗りなさい」

「あ、は、はいっ!ガルムです‼︎」

「うん!よろしい!ガルム君
君は学問がしたいのだと聞いたんだが本当かい?」

「あ、はい!」

「うんうん。では、その希望は叶うだろうね」

「本当ですか!」

「あゝ本当だとも。皇宮学院に通えるように手配するよう伝えておこう
ただし、だ。それぞれの街区にあるような私学問所とは違い、皇宮学院は厳しいよ?がむしゃらに励みなさい」

「はい!」
「あ、あの、公爵様…」

「なんだね?ガロ殿」

「今の私には収入がありません…」

「あゝそんな事か、心配は要らない
皇宮学院の学費は我々貴族とは違い、一般の民は無料だ
我々貴族は持つ者だからね、高額の学費を払うよう決められている
しかし、一般の民は才能の種はあっても持たざる者だから学費は公費から助成される
これは五英雄が設定したと伝わっている
だが、だからこそ厳しい
その年齢での学力水準に届かなければ、容赦なく切り捨てられる
つまり、退学させられる訳だね?
だから、私は学院に入れるよう手を打てるが、後はガルム君次第という事になる
どうかね?怖じ気付いたかね?」

「いいえ!精一杯に頑張ります!
公爵様の顔に泥を塗るような事にはなりません!」

「ん!よし、良い返事だ
流石はロウが推薦してきただけの事はある」

「「「「え?」」」」

「うん?何かな?」

「あ、いえ…今《ロウ》と仰られましたか?」

「そうだねガロ殿、私の長男だが?」

「「「「え⁉︎」」」」

「いったい、どうしたのかね?」

「え、いや、え?あれ?そのロウってお子さんは私たちが野営場で出会った子…?」
「え⁉︎俺…ボクに机上演習を教えてくれたロウ⁉︎」

「うむ、どこで出会ったかは詳しく聞いていないが、辺境へ向かう途中で出会ったとは聞いたよ
それに、辺境到着後に将棋も開発しているね」

「「「「エエェェー⁉︎」」」」
「なんてこった…パウル商会でペローさんに会った時に思い出すべきだった…
だからか…東街区での亜人差別が無いのは…」
「ボクは机上演習と将棋が似てるな、って思ったのに…」
「あの時、ガルムに学校に通う方法を教えてくれた子が…」
「本当に良いとこの坊ちゃんだったんだぁ…それも最高の…」

「ハッハッハッハッ…ここに呼ばれた謎が解けたって顔をしているね?
そう、とある事情があってね?息子からガロ殿と御家族を推薦されたんだよ」

「そうだったのですか…ありがてぇ…たしか、まだウチのガルムより1コ下なのに息子様には頭が上がりませんよ…」

「ふふふ…私にも、なかなかに手に負えない子でねぇ
さて、ではハンス、アイリス、バスチャは来たかな?」

「はい、到着されました」
「今回は馬車も用意なさっています」

「うん、そうか。
では、食事でもしながらガロ殿たちに事情を説明しようじゃないか
バスチャを食堂へ通しなさい
さぁガロ殿と御家族も。
緊張したから腹も空いたのではないかな?
特にガルム君は育ち盛りだ、少し痩せ気味だからしっかりと食べていきなさい」

「あ、いやぁ、そこまで甘えてしまっては首根っこを押さえられてしまうような心地になってしまいます」

「ククッ…何を言っているのかね?
君達の首根っこを押さえるのだよ」
ロマンが、いたずらっ子の笑みを見せた







「まずは子供達を俺たちが引き取ろう、2龍で行って
そうだな、手が自由に使える炎龍…炎龍は行く前に怒りを吐き出して、じゃないと子供達が燃えてしまう
亀龍も行って、その背に炎龍が子供達を乗せて戻ってきてよ」

「「承知した」」
“グオオオォォォォォーーーーーン!”
“キシャアアアァァァァァァーーー!”
2龍が空へ向け咆哮し、ある程度の怒気を発散する

「誰か、こう言うんだ《まずは子供達を頂こうか、その場に子供達を置いたまま少し下がれ》と重々しく
アロはジッとしていろ、辛抱するんだ」

「「「「「承知」」」」」
“グルァ…”

そして龍達がロウが教えた通りに重々しくのたま

「「「「「り⁉︎龍が喋った⁉︎」」」」」
しかし、見ていた者達は驚きと共に言葉が通じた事に安堵していた
そして、教徒達が街門の方へ後ろ向きにしては素早く下がっていく
泣きじゃくる子供達を残して


炎龍と亀龍は子供達に近付き
泣き噦り怯える子供達を器用に亀龍に乗せ、ゆっくりと戻ってきた

「龍達は壁になって子供達が見えないように
クラリー、ソニア、タイン…タインには無理か
子供達の縄を解いてやって
そして、そのまま亀龍は最後尾に」

「「「うん!」」」
「「「「「承知した」」」」」


「さて、後は戦うつもりは無くても戦える者達だけが残ったはず
こっちを見てるって事は、そう判断しても文句は無いだろう
誰か俺が言った通りに真似してよ、龍威を出しながらね」



「「「「「これより我らはマチカネ教を蹂躙する!」」」」」
「「「「「我らの仲間を鎖に繋ぐなど言語道断!」」」」」
「「「「「我らが龍王様方を利用し子供を生贄にする不敬な輩を滅してくれよう!」」」」」
圧倒的な圧力を持って言葉が響いた


「よし!進め!子供達と同じ絶望を味わえ‼︎」

龍達が一斉に進軍すると、街壁上で見ていた騎士や冒険者が算を乱して逃げるも
街壁外に居たマチカネ教徒達は閉め切られた街門を必死に叩き、泣き叫んでいた







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