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人外との日常
西へ翔んだ日。そして、ただいま
しおりを挟むワイナール皇国暦286年、6の月
辺境伯家の裏手、屋敷や倉庫に囲まれ、外からの視線が通らない場所にて
「じゃあ、行ってきますね
コマちゃん、ワラシ、タクシャカ、いいかい?
魔世、ポロッと落ちないでね」
「ワン!」「うん!」「うむ!」『はい』
「連れてけなくてゴメンね?ヴァイパー
鬱憤は魔世の胎内で大暴れして晴らしててよ」
「ブルルルル…」
寂しげなヴァイパーがロウに頬ずりしてくるのを撫でると
「あははは、すぐに帰ってくるよ」
そして、龍体にて10mほど頭上に浮かぶアナヴァタプタを見上げる
「アナヴァタプター、乗るよー!」
「うむ!」
アナヴァタプタからの返事が返ってくるなりコマちゃん、タクシャカ、そしてロウがワラシの手を持ち跳び上がり
アナヴァタプタの背に乗った
「いってきます!
ハリーとウィリーは休養日だと思ってノンビリ過ごしなよ!
魔世の胎内での特訓でもいいよ?
死なないでね!」
ロウが下に向かい言うなり、アナヴァタプタが上昇し
あっというまに遥か西へ見えなくなった
残された人々は“やれやれ”とゾロゾロ屋敷内へ戻っていく
顔を引き攣らせ固まるハリーとウィリーを放置して…
「行ってしもうたの?」
「行ってしまいましたわね?」
「行きましたね」
「行ってしまわれましたね」
ロシナンテ、キホーテ、ロベルト、キャリーが屋敷内に戻りながら話す
「ロベルト様?本家の彼等はそのままに?」
「ん?うん、少し経てば現実に戻ってくるだろうから放っとこう
彼等は本家でのロウ君しか知らなかっただろうからね?
ちょっと同情してしまうよ。ククッ…」
「楽しんでおられますな?」
「まぁね?少し思うところがあってね?
なぜ最近の私たちは毎日の様に驚いてばかりいるんだろうとね?
少し前までは退屈ながらも平穏無事な生活をしていたのにだよ?
スコットもそうは思わないかい?」
「フフッ…勿論、私も思っております」
「クックックックッ…確かにのう、儂も以前は少々鬱屈しておったわ」
「私はキャロルやロワールが居ましたから楽しかったわよ?」
「私は平穏無事な生活こそが貴族の暮らしと思っておりました…」
「フフッ…キャリーの実家の本家筋は穏やかだからね。
いや、大らかと言うべきかな?」
「はい、北方の民は始祖バスター様からの穏やかな気風ですから」
「と、まぁ感じ方は様々だが本家の者にも同じように感じてもらうのは楽しみって事だね」
[ほんの数時間前]
“コンコン”
「ロウよ、良いかね?」
「はい、どうぞ?」
「うむ」「入りますよ」
「早馬の理由は解ったのですか?」
「うむ、判明した…いや、まだ詳しくは分からんのだよ
だが、とりあえず儂等は急々に皇都へ赴く事になった」
「御祖父様と御祖母様が皇都へ?なぜ?」
「ふう…なんでもアイリスが…」
「あなた!それはロウに言う必要は無いでしょう!」
「いやキホーテよ、ロウは知っておくべきだと思うぞ
詳しい原因は判明しておらんが、ロウに繋がる気がしておる」
「そんなはずはありません!
つい最近、それも遠く離れた皇都での事ですよ⁉︎
いくらロウでも何の関係も無いでしょう?
いえ、ありません!」
「……」
「御祖母様?そこまで言って、何も教えてくれないのは凄く気持ち悪いですよ?
アイリスがどうかしたんですか?
何も教えてくれなかったら、自分で確かめる為に勝手に皇都まで行く事も出来ますけど…」
“ほら見なさい!余計な事を言って!”
キホーテがロシナンテを睨む眼は、そう言っていた
「…む…あー、しかし…結局は後で知ることになり恨まれるぞ?」
「うっ…それは…そうなんでしょうけど…」
ロシナンテとキホーテは基本が爺バカ&婆バカなので無駄な抵抗であったりもする
「では話すぞ?良いな?」
「あなた!待って!
ロウ?1つ言っておきますよ」
「はい」
「話を聞いても以前みたいな怒り方をしてはダメよ?
ああいうのは波紋…いえ、影響が大きいのよ?抑えなさい?」
「はい。ですが、僕が怒りそうな内容なんですか?」
「それは判らないわ?本当に私達にも詳しい情報は解っていませんから…
では、あなた?話してくださいな」
「うむ…メイド長のアイリスがな?瀕死の重傷を負ったとの事だ」
ロウが眉をひそめる
「だが副騎士団長の2人は直接アイリスを見ていないから状態を説明する事は出来ないとな
しかし、アイリスの事にしろ諸々と処理が重なって手が足りないから儂らに一時帰還をしてくれとロマンが…言っ……」
ロウから微かに魔力が洩れ出しはじめる
「ロウ!いけません!」
「ロウ!話しは終わっておらん!」
キホーテが風を纏いはじめると、ロシナンテも半腰になり構える
『主人様、アナヴァタプタとタクシャカが来たがっておりますが如何されますか?』
「ロウ!どうした!」
“バーン!”と扉を開けワラシが飛び込んでくる
ワラシは魔世を創った時に、再びロウの魔力を充填された影響か
ロウの微かな魔力変動にも反応するようになっていた
「ふう…大丈夫です……」
ロウが顔を洗うかの様にゴシゴシし、パンパンと叩く
「魔世、龍王達は僕の魔力を感じ取ったんだろう?来させていいよ」
『はい』
「ワラシ、何でも無いよ大丈夫
御祖父様?続きを」
「うむ、まぁアイリスの事以外はロベルトにも話してあるらしいのだがな?
南街区への街関2ヶ所と北街区への2ヶ所には兵を張り付け最警戒しているとな
皇居への街路にもだそうだ」
「だから、ロマンは私達に一時的な帰還を求めてきたのよ
コロージュン家最大戦力で事態への対応をするつもりなのでしょうね
まぁ、あの子は幼い頃からアイリスが大好きでしたから、という理由もあるのでしょうが…」
「へえ~、そうだったんだ…父上が…」
「ロウよ?何かあったか?」
「我らの階層までマヨの動揺が伝わってきたぞ?」
アナヴァタプタとタクシャカが鏡を抜けてきた
「あ?そうなん?魔世にまで動揺させたか…
まったく…俺も学習能力がねぇな…」
「「「「ロウ⁉︎」」」」
『主人様、申し訳ありません…』
「ロウ⁉︎まだ抑えれませんか⁉︎」
「目が座ってるおるぞ⁉︎」
「ロウよ、何やら荒ぶっておるな?」
「珍しいな?して、何処へ攻めるのだ?」
「え⁉︎タクシャカなに言ってんだ⁉︎」
「ん?当たらずも遠からずであろう?」
“……コンニャロ…腐っても龍王か…”
「ロウ⁉︎我は腐ってはおらぬぞ⁉︎」
「そして、無駄に耳がいいっつーね…」
【ププッ、まぁ抑えられる様になったんじゃない?少し前の君とは段違いだよ】
「うるせーし…ふう…アナヴァタプタ、タクシャカ、ちょっと俺は皇都に行ってくる」
「ロウ⁉︎なりませんよ!」
「誰もロウに来いとは言っていないのだぞ⁉︎」
ロウがロシナンテとキホーテに平手を向け
「御祖父様、御祖母様、普通に考えても僕がヴァイパーで行く方が速いし
アイリスの事にしても対応が早く出来ると思いますが、どうですか?」
「う…む……」
「理解は出来ますが…」
「それに御祖父様と御祖母様が行ったら、そのまま戦争になりませんか?」
「それは……」
「しかし、ロウよ?
コロージュン公爵家の威を示す、というのもあるのだ…」
「それは解りますよ?
でもまだ、アイリスが瀕死とだけ
南街区、北街区、皇居への警戒をしてるだけ
って事は、まだ父上は犯人を絞り込めてない
父上に犯人が解っていないのだから、辺境にいる僕達は尚更解らない
その状態で威を示す?
大ボラ吹きもかくありきか、ですね?
仮に、皇家と2公爵家の全部が敵だとしたら威を示せますか?
それとも、コロージュン公爵家は武威を示す為に華々しく戦い
及ばなければ潔く全員が討ち死にしますか?
父上は当然でしょうが、ロドニー、カミーユ、ロジャー、マリー達も?
まったくもってバカらしい!
僕は弟妹達は全力で護りますよ
あの子たちはコロージュン家を盛り立てていかなければならない
こんな事で死なすぐらいなら、僕とワラシとヴァイパーと魔世が全力で此の世を滅ぼしてみせます!」
「うん!」『お任せください』
「それに武威なんて示す必要性が解りません
犯人だけを見付けて叩き潰せばいいのです
コロージュン家の武威なんて魔世の胎内にでも捨てればいい
そんなものは、くだらない見栄ですよ
御祖父様と御祖母様は魔世の胎内で鬱憤ばらしでもしててください」
「「…………」」
「次代コロージュン当主予定の僕が行きます」
「「……」」
「ロウよ?皇都まではどれほど掛かるのか?」
「ふむ、それなりに刻がいるのか?」
「ん?そうだね…早馬で、馬の事を考えないで10日…う~ん?15日?ぐらいだろうから
ヴァイパーだったら5日から6日ぐらいで走破してくれるんじゃないかな?」
「ほう?」
「ならば、空を征く我は1日か2日で済むな?」
「は?」
「何をマヌケな顔をしておる?」
「今、我等が棲まう国で1番の大きな街なのであろう?」
「そんな場所を見る機会があるのに留守番しろとでも言うのか?」
「アナヴァタプタよ、ロウは我等を愉しませてくれると約束しおったからな?違わぬだろうよ」
「クックックックッ…まったくだな?愉しませてくれよ?ロウ」
【私もトマト探しに行くよ】
「くそっ…なんてお人好しな龍王と、すっトボけた神様だよ…」
“ビシッ!”
「なんと⁉︎御神鏡にヒビが⁉︎」
「神主殿!何事でしょうか⁉︎」
「分からぬ…分からぬが、朝の祝詞も今からという時に御神鏡が割れるなど陛下に御報告するしかあるまい
禰宜の他、神職の者達は本殿より離れ警戒せよ
私は陛下の元へ参る」
「「「「「ははっ!」」」」」
“コンコン”
「お休み中に申し訳ありません、よろしいでしょうか?」
「どうしたの?マルモリア?早いじゃない、入ってきて良いわよ」
ベッドから半身を起こして寝乱れた寝間着を整える
「朝早くから申し訳有りませんカーダシアン様」
「良いのよ?何かあったのでしょう?
マルモリアが、無駄に私の安息を邪魔しないことぐらい分かっているわ」
「畏れ入ります。
カーダシアン様、飼っている獣人から緊急の報告がありました」
「ん~?生臭からの報告?」
カーダシアンが顔を歪ませるも、マルモリアは気にした風もない
「はい、数人の草食系獣人の様子がおかしいので肉食系獣人が尋ねると
皇都へ?何か計り知れないモノが向かって来ていると」
「肉食の生臭は何も感じないの?」
「はい。草食系だけのようです」
「ん~、早朝からオングルーに化りたくは無いけど仕方ないわね…
その為に生臭どもを飼っているのだし…
もう、いい加減に始祖の縛りは無くしたいものだわ
始祖自身が後継に人間を選んでいるのに、生臭を大事にしなさいとか…困ったものね」
「まだまだ獣人排除は難しそうですけれど?」
「そうなのよね、叛乱なんてされちゃ困るしね
さ、お湯でも浴びて匂いを消したら着替えるわよ
マルモリア、手伝ってちょうだい」
「はい」
「アイリスメイド長?どうされました?
そんなに落ち着かなげに動かれては身体に障りますよ?」
「あぁ…あーぁー」
アイリスが必死に何かを伝えようとする
「申し訳ありません…解りません…」
「アナヴァタプタ、もっと高く高度を上げてみて?
気配は気付かせた上で、視認出来ないようにしよう」
「うむ!何か狙いがあるのだな?」
「うん、いろいろと邪魔が入るのは面倒だから
解る者達だけでも混乱させとこうと思ってさ」
「なるほどな?では雲の上に出るとしよう」
「よろしくね」
「ロウよ?」
「なに?タクシャカ」
「今回は我のお披露目はあるのか?」
「は?お披露目って…
あゝ⁉︎そんなジト目しないでよ!
分かったから!出番を作るよ!
ただし、先ずは皇都まできた用事を済ませたい
それで良いよね?」
「勿論だ」
「クククククク…」
「嗤うなアナヴァタプタ!」
【そうだよタクシャカ?私のトマトが先だからね】
「「「は?」」」
「?トマトってなにー?」
「コマちゃん?まさかとは思うが、本気で言ってないよな?」
【…………】
「うわ、マジだよ、ヤベー、神様ヤベー」
「貴女達、何か感じませんか?」
部屋の中からハンスが問い掛ける
「「いえ、何も…」」
「そうですか…気のせい……いや、確かに何かが来ている…心を鷲掴みされるかの様な気配
ロシナンテ様やキホーテ様ではない…
それに速過ぎる、凄く強大なナニか…
ふう…謹慎中の身には何も出来ませんか…」
「この気配…また、あの時の様になるのか?
しかし、神鏡には変わった気配な無いな…どうしたものか…」
祭殿入り口から声がする
「陛下、祭祀は御済みでしょうか?」
「如何した、ボリウム掌典長」
「はっ!エゴール神主が至急奏上したき事があると参っております」
「ふむ、やはり来たか」
「?陛下は何か御存知あそばされますか?」
「うむ、心当たりがあるから朝の祭祀を取り止めておる
エゴールを通す前にアシュラム侍従長を呼べ
そして、両名揃って通せ」
「ははっ!」
「??」
ロマンが頻りに首を傾げる
「あなた?如何なさいました?」
「朝食時に考え事ですか?」
「あまり考え事ばかりなされると美味しく戴けないのではありませんか?」
「あ、いや、考え事では無いから心配要らない
と言うより、君たちは何も感じないのかい?」
「「「?」」」
「「「何をですか?」」」
「そうか、まぁいい…」
「「「「父様!」」」」
「うん?どうしたね?」
「僕は感じます!」
「私も感じます!」
「僕も!」
「わたしも!」
「お⁉︎子供達には分かるんだね?」
「「「「はい!」」」」
「何かが来ました!」
「さっきから近づいてます!」
「凄く大きいです!」
「うえに!」
“ズドドオオオォォォォォン!”
マリーが言った瞬間、音が響き少し揺れた
「なんだ⁉︎」
「「「なに?」」」
「「「「来た⁉︎」」」」
皆んなが慌てて食堂から外に走る
そして、中庭を見ると何かが靄っている
「何かが落ちてきたのか!」
ロマンが叫ぶと
「あれ?この声は父上?」
「へ?」
ロマンが目を凝らすと、靄の向こうに大小の人影が見える
そして、次第に靄が晴れてくると
大きな人影が2つ、小さな人影が2つ、更に小さな影が1つ見えてきた
「お久しぶりです父上、御元気そうで良かった」
「「ロウ⁉︎」」
「「ロウ様⁉︎」」
「「「「ロウ兄様⁉︎」」」」
「ただいま」
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