ゆとりある生活を異世界で

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人外との日常

バタフライ効果

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ワイナール皇国暦286年、6の月



「あ…あ、あの…ロウ様…キャロル様のお勉強は、ほ、本当に私ごときの知識で宜しいのでしょうか…」

「はあ?まだ言ってんの?」

「ひいっ⁉︎申し訳ありません!」
クレールが蒼褪め頭を下げる

「ふう……別に怒ってないよ…そんなに怯えないでくれるかなぁ…」

「ワフン」(トラウマになっちゃったね~)

『くそっ!コマちゃん楽しんでやがるな』

「ワッフワッフ♪」(お土産買ってこなかった罰だよ♪)

「だーかーら!悪かったって!何回も謝ったじゃないか!」

「ひううぅぅぅ⁉︎申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません!」

「⁉︎⁉︎いや⁉︎いや、違うから⁉︎クレールに言ったんじゃないから!」

「で、ですが、この場にはロウ様と私しか居ませんから…」

「あ、あぁ………ふう……………クレール、君ってさぁ家格は低いとはいえ良家の長女だ
当然、厳しく躾けられてきてるよね?
そして、それを生真面目にこなしてきている
それを見込んでキャロルの家庭教師という職に就いてもらったんだよね
それを、そんな自信無さげにされちゃうとさ
まるで僕が見る目が無いみたいじゃないか…」

「申し訳ありません申し訳ありません」

「だから…謝る必要なんかないって…ちゃんと勤めを果たしてくれればいいんだって
せっかく五体満足元通りになったのに、そんな調子じゃ心が壊れちゃうよ?
僕はクレールの心をへし折ったけど、壊すつもりはないからね?
あまり気に病まない様にしてくれないかな?」

「しかし、処刑されても仕方ない立場を生かして下さり
実家に帰れず、行く当てもない野良犬の様な私ごときを辺境伯様の御令嬢の教師にしていただき
お給金まで戴く価値があるのでしょうか…」

「ふう…労働には対価を支払う、当然の事じゃないか…
それにね?クレールの心の平穏を保つ為だとは理解しているんだけど
毎日毎日もう10日以上だよ?月を跨いじゃったよ?
流石に僕も疲れちゃうからね?
とにかく、もうそんなに自分を卑下しないでキャロルを立派な淑女ladyに仕立ててください
もう10日以上も自分自身を責めたんだ、充分でしょ?
もう謝るのは無し!いいね?
それにね?僕にはすべき事が溜まってきているんだ
それも、どれもこれも僕が考え対応しなきゃならない事ばかりなんだよね
理解出来たら、ゆっくりと風呂にでも入って体を休めて明日の教育に備えてください
人に物を教えるってのは頭も体も使う重労働なんだ、万全に整えるのも仕事の内なんだからね」

「はい…申し訳ありません…失礼します」







「つ、疲れる……はぁ…クレールに刃物を持たせない様に屋敷内で徹底したのは大正解だ…
自殺の手段なんていくらでもあるけど、刃物だけは短絡的になっちゃうからな
この世界に銃なんかあれば最悪待った無しだ
ここにアイリスが居てくれればなぁ…」

【ププッ…無い物ねだりに思考が行くまで疲れちゃったか】

「当たり前じゃないか、どんだけ“勝手にしろ!”って叫びたいのを抑えて優しく語ってるって思ってんだよ」

【うん、そこは本当に感心したよ。相変わらずの人誑ひとたらしっ振りだね】

「そして、神様にはココぞとばかりにヒドイ言われようだし…」

【ププッ】

「まぁいい、とりあえずは頭を切り替えよう
優先順位の1番は魔獣の大移動だな
次は…ウッスイさんかぁ………」
“パンパン!”両手で両頬を叩く
「いやいや、あの人達の事はリズ達が防波堤になってるから安心だ
チッキーの話しを聞いたリズとミアの顔が恐かったなぁ
無表情な夜叉の顔って初めて見たわ
まぁこの世界では、って事だけどな
あの瞬間的にストンと表情が抜け落ちるのは何度見てもチビリそうになっちまう…」

【クスクスクスクス】

「笑いごっちゃなかっばい?コマちゃん
前世じゃ、マジ死の恐怖だったんだからな?
ふう……魔獣激減かぁ…マズイなぁ、コウトーの一次産業の1つなのになぁ
それに、冒険者の重要な稼ぎ口だからな
遠因は俺なんだからなんとかしなきゃなぁ…
バタフライ効果もかくありきかってなもんだよな」

【そうなんだっけ?】

「そうだよ?だって、俺が前世の記憶を取り戻したのが原因なんだもんよ」

【ええっ⁉︎流石にそれは無いでしょ⁉︎】

「なーにをノンキな事を、いいかい?

俺の記憶が戻りました
神社で異様な事がありました
皇帝が見てました
警戒されました
皇都を出る事になりました
辺境に来ました
皇都から刺客が来ました
とばっちりで冒険者が殺されました
俺が怒りました
俺の怒りを龍王がキャッチしました
龍王が俺を捜しにきました
途中でバッタリ出会いました
龍王が龍威を出しました
俺も強大魔力放出しました
コマちゃんが神威を出しました
空一面使って龍王降臨しました
コウトー周辺で、威の暴風が短期間に大発生
危険を察知した魔獣が逃亡を始めました、New

まさに今ココ状態じゃないか」

【……マジだ……】
コマちゃんが口をあんぐりとした

「マジなんだよ」

【私も一役買ってるじゃない⁉︎】

「それな」

【どうすんの⁉︎どうすんの⁉︎】

「落ち着け!神様のくせになに焦ってんのさ、泰然としなよ
だから、考えてるんじゃないか」

【むう…私も考えるよ】


バーン!とドアが開いた
「ロウ!お風呂だ!いこう!」

「ククッ…ワラシはしょうがないなぁ
うん、風呂に浸かって頭を柔らかくするか
ありがとうなワラシ」
ロウがワラシの頭をクシャクシャーっと撫でると、ワラシが満面の笑顔になった








チャポーーーン
「はあ……」

「また深い溜息なんか吐いて、しっかりしてよクレールさん」

「だって、シリノエスさん
貴女あなたも私がのうのうとキャロル様の教師をするなんて納得がいかないでしょう?
貴女はキャロル様の御付きなんですから」

「何を言っているの?私が納得するも納得しないも無いわよ?
ちゃんとロウ様が理由を話して、旦那様、大旦那様が納得されてクレールさんが家庭教師になった
それだけでしょう?
悩んだり、自己嫌悪する意味が分からないわ?」

「だって私は殺されていてもおかしくなかった立場なのよ?
それに実家にも切り捨てられて
それが辺境伯様のお城に住み込ませていただき、御令嬢の家庭教師…
お給金だって先払いで出して戴いてるなんて……」

「ふう…たまたま拾えた幸運は甘受すれば良いのではないですか?
それにお給金だって、貴女が真っ裸だったからでしょう?
着の身着のままどころでは無かったんですから
直ぐに衣服や身の回り品を整えられたんだから良かったじゃないですか」

「その節は半日とはいえシリノエスさんに服を貸して頂き、ありがとうございました」

「別にいいわよ、そんな事ぐらい…」

「…………ロウ様とは、どういう御方なのでしょう?」

「どういう……それは、私どもにも分かりません
辺境に来られて日も経っていませんし
判っているのは、コロージュン公爵家惣領だということ
年齢は今年で6歳になられたこと
始祖ロンデルを超えるだろう逸材と辺境伯家の皆々様が思っていること
だからロウ様の提案は無条件で通ること
そして、何よりもロウ様の御考えに間違いが無いこと
そのロウ様が貴女をキャロル様の教師に据えた
それはロウ様が、その必要があると判断された
それに異議を唱える愚か者は辺境伯邸には居ませんよ」

「五英雄の一角、無尽蔵の魔力でアストラム大陸を席巻した脅威の魔導士、無尽のロンデル再来以上の器…
確かに、あの時の魔法…私の首から下は動かず、何よりも無くなっていたのに…
ただ単に麻痺させて可視化出来ないようにしていただけだ、と事も無げに仰っておられました
ですが、私も厳しい教育を受けましたが、あの様な凄まじい魔法はよわい18にして初めて見ました…」

「うふふ…それが英雄の直系子孫たる所以ゆえんなのでしょうね
皇国創世記の時代…そんな魔法が五英雄時代は吹き荒れていたのかもしれませんね」

「……ロウ様……6歳……」
~プクプクプクプク








「やっぱり、まだ見つかりませんかねぇ」

「えぇ、申し訳ありませんが…
もう恩人捜しは諦めて村に戻られるのがいいのではありませんか?
それ以外は上手くいったのでしょう?」

「まぁね、移住してくれる鍛冶屋さんとか
油の契約は確かに上手くいきましたがね…」

「2つも上手くいったのでしょう?良かったではないですか
コウトーは東辺境で1番の都会ですから、短期間での人捜しは難しいですよ?
それに、新しい住人の方を連れて帰らないといけないんですから」

「う~ん、だから俺が独り残って捜そうと思うんですがねぇ」

「う~ん…ですから、それはコウトー冒険者組合としては事情を知ってしまったからには許可出来ませんよ?
人捜しが失敗した場合はウッスイさんが独りで帰路に着く事になるでしょう?
つい先日、魔獣の大移動があったというのにです
そんな中の単独行は認められません
最低でも2人は居ないと、万が一の場合は緊急連絡も出来ないではありませんか
そんな時の冒険者であり、冒険者組合なんです
しかし、コウトー滞在が長くなれば金銭的に護衛依頼も出せなくなるでしょう?」

「はあ……それはリズさんが正しいんだよ
それは俺にも解るんだよ
けどなぁ、死の淵から還ってきた愛娘の願いを無碍に出来ない親心ってのがなぁ
諦めさせてくれないんだよ…」

「それは…お察しいたします…
ですが、娘さんもウッスイさんが無事に帰ってこそというのは理解するのではないですか?」

「むう…」

「うい~っす、依頼完遂してきましたよ!っとお」

「あゝトゥリーサさん、ジャイさんの手続きをお願いします」

「あ、はい。ジャイさん、こちらへ」
「おっ、はいはい。はいよ~
ん?おいおい、兎の旦那よ、シケた顔してどうした?
見たところ冒険者じゃないな?困り事かい?」
「ジャイさん!ジャイさん!人の事に首を突っ込まないで、こちらに早く来てください」
「おっ⁉︎なんだよトゥリーサちゃん?困ってる人を助けるのが冒険者じゃないか」
「いいから!こっちに!」

トゥリーサがリズとミアをチラ見すると、リズとミアがカウンターの陰で拳を握りしめているのが見えた
そして…揺らめく殺気が見えた気がした

「ヒウッ⁉︎」
「ん?どうしたトゥリーサちゃん?スゲー汗掻いて?」

「なぁ、あんた、犬の獣人なんだから鼻が良いよな?」

「んあ?おう、鼻は利くぜ?なんだい?せ物探しかい?」

「いや、人捜しなんだけどな?」

「なんだ人捜しか、だったら匂いが付いてる物が無きゃ難しいぜ?
って、なんだよトゥリーサちゃん!引っ張んなよ」

「匂いか…無いなぁ…」

「「「ほっ…」」」

「あ⁉︎いや、ひょっとしたら!」

「「「えっ⁉︎」」」

「この銀貨に匂いが付いてるかもしれん!」
ウッスイがジャラっと銀貨を4枚出す
「そのボウズが置いてったんだ」

「「そんな⁉︎」」

「こんな場所で銀貨なんて出さないでーーー‼︎‼︎」
トゥリーサが銀貨を引ったくりシャシャシャシャーっと両手で揉みこんだ

「「「「「⁉︎⁉︎」」」」」

「お⁉︎お前さんいったい…」

「はい!ジャイさん!匂い嗅いで!早く!」

「え?いや?え?“クンクン”トゥリーサ…あ、いや、組合の匂いが…する…な…」
ジャイがリズとミアの方を見ながらビクビクしている
ようやく気付いたようだ
「ス、スマン‼︎兎の旦那!俺には役に立てそうもなかった!本っ当に申し訳ない!明日!そうだ!明日出直してくるよ!じゃあな!」

「お…おい……」

そそくさと退散するジャイを、組合入り口で様子を見ていたチキリが蹴っ飛ばした










「そうか!ようするに、魔獣がいればいいんだよな?」

【それはそうだろうけど、なに?意味が分からない】

「そうだよ!理屈だけなら簡単な事じゃないか!」

【え?なに?繁殖でもしようっての?それとも捕獲?
魔獣だって森羅万象の1つなんだよ?
魔獣だって生態系の中の生物なんだよ?
生態系を作り出すなんて私でも一朝一夕じゃ出来ないよ?
出来上がるまで時間が足りないよ?】

「フッフッフッ…」

【なに?怖いよ?目が座ってるよ?】

「気付いたんだよ、餅は餅屋なんだよ」

【はっ?】

「魔獣を創り出す事に特化したのが居ればいいんだよ!」

【はあっ?】

「俺はね?ワラシに魔力を流し込んだ時に理解出来たんだよね
たぶん、少しだけ魔力が逆流したんだと思うんだけどさ
従魔の創り方を学習したんだよ
だからね、これでロドニー達に従魔を授けられるって嬉しかったんだ
ただね?それをロドニー達に授けるってのしか考えてなかったんだよ
自分で固定観念を作ってしまってたんだよ
自分の為に従魔を創り出すってのが、どっかに吹っ飛んでったのさ」

【なるほど…だけど、そんなに都合がいい生物なんて居ないよ?
1から創るの?凄く難しくない?
失敗すれば凄く残念な結果になるよ?】

「ふっふっふっふっふっふっ…あーっはっはっはっはっはっ…」

【大丈夫?流石に引くんだけど…】

「チッチッチッチッチッチッ!」
顔の前で人差し指を振り
「い る ん だ な、これが♪」

【ええっ⁉︎ホントに⁉︎】

「ところでさコマちゃん、前世でのイメージ…って言うかさ
冒険者の活躍の場はどこだと思う?」

【え⁉︎それは定義が広過ぎて全然わからない】

「冒険者が活躍する場!それはダ~ンジョ~ン♪」

【声が裏返ってるよ…それにポーズがオペラ歌手になってるし…】

「冒険者が命を賭し、迷宮を探索し、モンスターや魔獣と戦い、生き残れれば宝を獲る事が出来る場所!
それがダ~ンジョ~ン♪」

【だから…】

「ソロ冒険者は自分の限界ギリギリで挑み、パーティを組んだ冒険者は友情と絆を確かめ合い挑む場所!
それもダ~ンジョ~ン♪」

【…………】

「だからさコマちゃん、俗に言うダンジョンコアの従魔を創るのさ」

【急な真顔が怖い…】

「真面目に聞け!」

【いや、それ以前に真面目に話して?】

「ズンと真面目だよ?ズンズン♪ズンドッコ♬」

【はあ…わかったよ…でも、ダンジョンコアって言ってもどうするの?
あまりにも抽象的過ぎて、私には上手くいくイメージが掴めないよ?】

「俺さ、前世で子供の頃から妖怪大好きっ子だったじゃない?
だからワラシがとっっっても可愛い♪
そして、そんなダンジョンコア的な妖怪がいたのを思い出したんだよ」

【え~?そんなのいる~?ダンジョンコアって洋風なのに、妖怪って和風だよ?
まさにthe Japanese!じゃない?】

「フッフフ~~~~ン♪
では、その名を教えてあげよう!
ジャジャ~~ン!」






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