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執事の消えた日 ジェフリーside 2
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なぜ床で寝ているのかと問われても、長椅子が一つしかないので転がしておいた、それだけだ。
ここは、いくつか用意してある拠点の一つで、短期間しか使うつもりはないから狭い。他にどうしろというのか、アレグリアは無言でジェフリーを見下ろした。
ハンターのうろつく街に置いてこなかっただけ、感謝してもらいたいものだ。
ジェフリーは居心地悪そうに立ち上がり、服の埃を払っている。
「とにかく……ジェフリー、あなた……帰っていい、よ」
「ええ……? 何故、いきなり終了しているのですか? そもそも貴女は――」
「……作戦のこと、何も知らないって、わかったし。でも……トトの仲間だって、わかったし、もう……行っていい」
勢いで助けたが、トトの仲間なら計画に多少の差しさわりが出たとしても、助けた甲斐はあった。アレグリアは、まさにその仲間たちのために戦っている最中なのだから。
守るべき対象をちゃんと守れた。だったらそれでいい。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なに……?」
「説明して頂けませんか、その『作戦』とやらを」
「……いや、めんどう」
「しかし、あのハンターは黒髪の少女の吸血鬼を探していると言っていたのを、私は聞いてしまいました。お嬢様に僅かでも危険が及ぶようなら――」
突然ジェフリーは両手両足を揃えてドアへと向かう。ドアノブに手をかけ、
「ま、待ってください。これは一体?」
妙な声を上げている。
まあ、それも仕方ないだろうとアレグリアは思った。自分の意思とは関係なく体が動けば、混乱もするはずだ。
ドアの前、ノブに手をかけ、足を不自然に上げた歩き始めの格好でジェフリーは止まっているが本人の意思ではない。止めたのはアレグリアだ。
「……名前とか、どうやって、寝てる、間に……聞いたと思う……? 『魅了』じゃ、ない。……ジェフリーのお嬢様の、精神感応や、操作とも、違う……の。わたしの、は『精神支配』……」
精神を支配してしまえば、記憶だって手に取るように解る。眠っている間に、ジェフリーの中身をアレグリアは読んだ。
顔を見せるように念じれば、くくっと不自然な角度で、ジェフリーが振り返る。抗っているのか、顔に汗をかいている。
その瞳の光だけが、アレグリアの支配から自由なようだった。
「こう、して、支配してしまえば……本人にもわからないように、操ることが、できる。……人の肉体は……精神の乗り物、だもの」
今、ジェフリーの身体はアレグリアの支配下にある。本当は意識さえ完璧に支配することが出来る。だから、黙ってここを去らせることは簡単なことなのだ。
でも、トトの仲間だからそこまですることもないだろう、という思いと、ジェフリーが何を言い出すのかに少し興味があった。
なにせ、自分を吸血鬼にした相手とずっと一緒にいる奇態な男だ。
「……まだ、なにかある?」
アレグリアは小首を傾げた。
「その、作戦とやらに、私も使って下さいませんか?」
ジェフリーは不自然な格好のまま言った。
「なんで……? もう、わかった、でしょ…? ハンターが、探しているのは、私。お嬢様、は、関係ない……」
「それは理解致しました。しかし、間違いがないとも限らないし――貴女は大変お強いようですが、しかし、それでもハンターを退治できない可能性だってあるでしょう? 手伝わせて下さい」
「……わかってないの? ……退治なんて、しないの。ハンター達を、沢山、集めて一度に……操る。そして帰す……の」
ハンターを殺してしまうことなんて、簡単に出来る。アレグリアにも簡単だし、トトは言うまでもない。ジェフリーのお嬢様にだって可能だろう。でも、それでは意味がないのだ。
今いるハンターを全て殺しても、ハンターという存在を殺しつくすことは出来ない。人と吸血鬼は、容易に一緒には暮らせない。
だからこそ、トトは吸血鬼が安心して暮らせる共同体を作ろうとしているのだ。
ハンター達自身にさえ気づかれないように、精神を支配して行動を操り、吸血鬼への攻撃を鈍化させる、それが今回の作戦だ。完全に敵意を喪失させないのは、不自然さを避けるため。ハンターが所属する聖教会は、自ら戦うがハンター達ばかりで構成されているわけではない。むしろ支持者たちは一般の人間たちだ。ハンター自身にも、ハンターを取り巻く人間達にも気づかれず、操らなければならない。
どうも、ジェフリーは見た目より頭が悪いのかもしれない。
いや、吸血鬼の力を読むことが苦手なのかも。アレグリアの力が正確に把握できれば何を狙っているかも、すぐ分かるだろうに。こともあろうに、加勢するだなんて。
「……馬鹿……なの?」
アレグリアが尋ねると、ぐっとジェフリーは言葉に詰まってから、気を取り直すように咳払いをした。
「ええ。馬鹿で結構です。しかし、この街にいるお嬢様に火の粉が飛ぶ可能性が、万が一でもあるかもしれません。だったら、引き下がるわけにはいきません」
どうしたものか。アレグリアは考え込んだ。正直、ジェフリーなんてなんの役にも立たない。むしろ足枷になるだろう。
黙考していると、ジェフリーが妙な事を言った。
「大体、貴女は一人でこの作戦とやらに臨んでいるのですか? こんなことを一人で?」
「ちがう。……エルガーと一緒……」
トトの仲間なら隠す必要もないので、アレグリアは素直に相棒の名を教えた。何故か、それを聞いたジェフリーは安堵したらしい。
その顔がなんとなく気に障ったので、アレグリアは再びジェフリーを殴った。
ここは、いくつか用意してある拠点の一つで、短期間しか使うつもりはないから狭い。他にどうしろというのか、アレグリアは無言でジェフリーを見下ろした。
ハンターのうろつく街に置いてこなかっただけ、感謝してもらいたいものだ。
ジェフリーは居心地悪そうに立ち上がり、服の埃を払っている。
「とにかく……ジェフリー、あなた……帰っていい、よ」
「ええ……? 何故、いきなり終了しているのですか? そもそも貴女は――」
「……作戦のこと、何も知らないって、わかったし。でも……トトの仲間だって、わかったし、もう……行っていい」
勢いで助けたが、トトの仲間なら計画に多少の差しさわりが出たとしても、助けた甲斐はあった。アレグリアは、まさにその仲間たちのために戦っている最中なのだから。
守るべき対象をちゃんと守れた。だったらそれでいい。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なに……?」
「説明して頂けませんか、その『作戦』とやらを」
「……いや、めんどう」
「しかし、あのハンターは黒髪の少女の吸血鬼を探していると言っていたのを、私は聞いてしまいました。お嬢様に僅かでも危険が及ぶようなら――」
突然ジェフリーは両手両足を揃えてドアへと向かう。ドアノブに手をかけ、
「ま、待ってください。これは一体?」
妙な声を上げている。
まあ、それも仕方ないだろうとアレグリアは思った。自分の意思とは関係なく体が動けば、混乱もするはずだ。
ドアの前、ノブに手をかけ、足を不自然に上げた歩き始めの格好でジェフリーは止まっているが本人の意思ではない。止めたのはアレグリアだ。
「……名前とか、どうやって、寝てる、間に……聞いたと思う……? 『魅了』じゃ、ない。……ジェフリーのお嬢様の、精神感応や、操作とも、違う……の。わたしの、は『精神支配』……」
精神を支配してしまえば、記憶だって手に取るように解る。眠っている間に、ジェフリーの中身をアレグリアは読んだ。
顔を見せるように念じれば、くくっと不自然な角度で、ジェフリーが振り返る。抗っているのか、顔に汗をかいている。
その瞳の光だけが、アレグリアの支配から自由なようだった。
「こう、して、支配してしまえば……本人にもわからないように、操ることが、できる。……人の肉体は……精神の乗り物、だもの」
今、ジェフリーの身体はアレグリアの支配下にある。本当は意識さえ完璧に支配することが出来る。だから、黙ってここを去らせることは簡単なことなのだ。
でも、トトの仲間だからそこまですることもないだろう、という思いと、ジェフリーが何を言い出すのかに少し興味があった。
なにせ、自分を吸血鬼にした相手とずっと一緒にいる奇態な男だ。
「……まだ、なにかある?」
アレグリアは小首を傾げた。
「その、作戦とやらに、私も使って下さいませんか?」
ジェフリーは不自然な格好のまま言った。
「なんで……? もう、わかった、でしょ…? ハンターが、探しているのは、私。お嬢様、は、関係ない……」
「それは理解致しました。しかし、間違いがないとも限らないし――貴女は大変お強いようですが、しかし、それでもハンターを退治できない可能性だってあるでしょう? 手伝わせて下さい」
「……わかってないの? ……退治なんて、しないの。ハンター達を、沢山、集めて一度に……操る。そして帰す……の」
ハンターを殺してしまうことなんて、簡単に出来る。アレグリアにも簡単だし、トトは言うまでもない。ジェフリーのお嬢様にだって可能だろう。でも、それでは意味がないのだ。
今いるハンターを全て殺しても、ハンターという存在を殺しつくすことは出来ない。人と吸血鬼は、容易に一緒には暮らせない。
だからこそ、トトは吸血鬼が安心して暮らせる共同体を作ろうとしているのだ。
ハンター達自身にさえ気づかれないように、精神を支配して行動を操り、吸血鬼への攻撃を鈍化させる、それが今回の作戦だ。完全に敵意を喪失させないのは、不自然さを避けるため。ハンターが所属する聖教会は、自ら戦うがハンター達ばかりで構成されているわけではない。むしろ支持者たちは一般の人間たちだ。ハンター自身にも、ハンターを取り巻く人間達にも気づかれず、操らなければならない。
どうも、ジェフリーは見た目より頭が悪いのかもしれない。
いや、吸血鬼の力を読むことが苦手なのかも。アレグリアの力が正確に把握できれば何を狙っているかも、すぐ分かるだろうに。こともあろうに、加勢するだなんて。
「……馬鹿……なの?」
アレグリアが尋ねると、ぐっとジェフリーは言葉に詰まってから、気を取り直すように咳払いをした。
「ええ。馬鹿で結構です。しかし、この街にいるお嬢様に火の粉が飛ぶ可能性が、万が一でもあるかもしれません。だったら、引き下がるわけにはいきません」
どうしたものか。アレグリアは考え込んだ。正直、ジェフリーなんてなんの役にも立たない。むしろ足枷になるだろう。
黙考していると、ジェフリーが妙な事を言った。
「大体、貴女は一人でこの作戦とやらに臨んでいるのですか? こんなことを一人で?」
「ちがう。……エルガーと一緒……」
トトの仲間なら隠す必要もないので、アレグリアは素直に相棒の名を教えた。何故か、それを聞いたジェフリーは安堵したらしい。
その顔がなんとなく気に障ったので、アレグリアは再びジェフリーを殴った。
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