47 / 49
その47
しおりを挟む「毒と言っても、またあなたを呪うわけじゃないわ。まだ魔力を十分に発揮できないエティと違ってあたしの魔力は強力なの。だからあなたの中にあるエティの力を、エティ自身に戻す事が簡単にできるわ。でもそれをするとエティの雇い主、あなたの命は消えるわ」
瀕死のエティを助ける方法が一つだけあると切り出したローズに、詳しく話を聞いたクリフォードは何の迷いもなくそうしてくれと頷いた。
「エティの雇い主、最後に手紙でも残す?女がいっぱいいるって聞いたけど」
ローズに軽く言われ、クリフォードは思わず目つきを鋭くさせてしまった。
一体誰からそんなデタラメな話を聞いた?まさかエティがそう思っていてローズに相談でもしたというのか。
「俺にはエティだけだ。確かに、昔は身体の関係だけの女性は多くいた。でも心が動いたのはエティひとりだ」
「最低な男ね」
「……だな。エティにも言われた」
クリフォードは懐かしさに思わず笑みを浮かべた。
「その最低男から頼みがある。最後に一度だけエティの顔が見たい」
ローズは考え込むようにクリフォードから視線を外した。そして不満の表情を浮かべたまま立ち上がり「目を閉じて」とクリフォードの側に立った。ソファーから腰を上げたクリフォードが瞼を下ろした瞬間、ふわりと一瞬だけ浮遊感に襲われた。
「もういいわよ」
目を開けるより先に覚えのある香りが鼻をくすぐり、そこが前に泊まったエティの部屋だとわかった。
クリフォードがゆっくり瞼を開けると目の前にベッドで静かに眠るエティの姿があった。一瞬で自分のいる場所が変わった事よりも、心から求めていたエティに会えた喜びが大きかった。しかしエティは息をしていないのではと思ってしまうほど弱い呼吸で、記憶の中の元気に笑うエティとはかけ離れた弱々しい姿だった。
クリフォードはエティの髪を愛おしそうに撫でると額にそっと唇をあてた。
「エティ、お前を愛している」
優しく微笑みながらそう言うと、エティの顔を頭に焼き付けるかのようにジッと眺めた。
「礼を言う。心残りはあるが思い出に持っていく」
クリフォードはローズにそう言うと無理に笑った。
「そう。じゃあ大事な話があるからこっちに来て」
そう明るく言うとローズはにっこり笑った。
直前までクリフォードを嫌悪していたようなローズの態度が手の平を返したように変わり、クリフォードは思いっきり戸惑った。
「エティを任せられる人物かどうか試させてもらったわ」
エティの部屋を出て、それこそ見覚えあるリビングでローズから今度こそ本当の真実を聞き、クリフォードは情けないと思いながらも涙を浮かべた。
エティは無事だと、ただ疲れて眠っているだけだと聞いて身体中の力が全て抜けてしまったような感覚だった。
「この後エティにお説教するから邪魔しないでよね」
目を覚ましたエティとローズのやり取りを、クリフォードはエティの部屋の外で全て聞いていた。
途中何度も目の前の扉を開け、エティを抱き締めたいと思ったがローズから固く注意を受けていたのもあって必死で堪えた。
同時に、ローズの説教よりハンクの嫌味の説教の方が何十倍もマシだと心から思った。
「姉さんから全部聞いたんでしょう?本当は全て上手く終わったら自分の口から言うつもりだったんだけど……私は半分魔女なの」
まだどこか疲れが見えるような顔でエティは力なく笑った。
「それは俺と一緒になるのに何か問題があるのか?」
「…………ないわ」
瞬きした瞳からまたひとつ涙が溢れた。その涙を指で拭い、瞼にキスをした。その流れで唇にも触れようとした途端、またローズから待ったの声がかかった。
「続きは後にしてもらえる?父さん達帰って来たから」
ローズの背後の扉にアルフォンスとリリアンの姿を見たクリフォードとエティは気まずそうにそうっと離れた。
回復しきれてなかったエティは、もう一度リリアンから癒やしの力で治療され本来の体力に戻った。ローズからのとんでもないお説教があったせいかリリアンとアルフォンスからは、二人に対して何も咎めるような言葉はなかった。ただ一つだけ、リリアンは陰でクリフォードに補足した。
「偶然とはいえ、可愛がってる妹の恋人に自分がかけた呪いがついているのを知って、ローズは色々な意味でとても落ち込んでいたわ。呪われる程の酷い男ならエティには相応しくないと何度も口にしていたから、さぞかし冷たくされたでしょう?」
許してあげてね、と母親は娘の為にフォローに回った。
許すも何もローズには感謝しかない。そう返すと少し曇っていた顔は、エティに似た優しい笑顔になった。
クリフォードはエティの家族が揃ったその場でアルフォンスに向かってずっと決めていたことを告げた。
「エティを妻として連れて帰ります」
「思ったより早かったな」
アルフォンスはそう言ってフッと笑った。
前回のクリフォードとのやり取りを思い出しているのだろう。
「お決まりの言葉を使うべきでしたか?」
「いや、前回のと今ので十分満足した。後は俺より本人に言ってやれ」
「え、何?何の話?」
急に自分に注がれた視線にエティはあたふたとした。
ローズの店の裏に繋いでおいたレオは、いつの間にかローズがクリフォードの元まで連れ来ていた。恐らく自分を移動させたのと同じ手段だろうとクリフォードは思った。レオだけでなく、ローズはあの夜倒れたエティも同様に運んだのだろう。
「レオ!!聞いたわ、レオがフォードを連れて来てくれたって。なんて賢い子なの!」
レオの首に抱きつくエティにレオは容赦なく擦り寄った。案の定、体重の軽いエティはどんどん後ろに押されていった。
「レオ、嬉しいのはわかるが少し加減しろ」
エティの背中を支えながら、クリフォードは改めてレオを誇りに思った。レオが道を覚えていてくれたからエティの手を取れた。
「エティの恋人。向こうまで送ってあげましょうか?」
「……気持ちだけ頂く。せっかくだからゆっくり帰りたい」
少しレベルアップしたローズからの呼び方に、クリフォードは苦笑いした。どうやらエティの恋人と認識してはもらえたようだが、クリフォードの今の立ち位置は婚約者だ。次に会う時、結婚式だとしても今度は「エティの婚約者」と呼ばれそうだ。
エティの家族と挨拶を済ませ、エティとクリフォードは屋敷へ戻るためレオに乗って出発した。
夕刻時に出たため街の中心部あたりで二人は宿に入る事にした。
場所的に繁盛している宿らしく、手頃な値段の割に広く浴室もついて綺麗な部屋だった。
部屋に入ってすぐにクリフォードはエティを後ろから抱き締めた。
0
お気に入りに追加
321
あなたにおすすめの小説
小さなお嬢様が繋ぐ、エリート医師とのお隣生活
ささきさき
恋愛
一人暮らしをする柴坂凪咲のもとに、隣に住む六歳の少女――間宮乃蒼が助けを求めてくる。
なんとかその場を収めた凪咲だったが、帰ってきた乃蒼の保護者である叔父――間宮武流から事情を聞き、その流れでこれから武流の出勤中、乃蒼を家で預かる事に。
乃蒼は幼いながらも聞き分けの良い大人しい子で手が掛からず、武流とも交流を深めていく。
壁を挟んだ、お隣さん以上の不思議な関係。そんなある夜、彼と体の関係になってしまい……。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。
津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。
とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。
主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。
スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。
そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。
いったい、寝ている間に何が起きたのか?
彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。
ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。
そして、海斗は海斗であって海斗ではない。
二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。
この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。
(この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)
この誓いを違えぬと
豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」
──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。
なろう様でも公開中です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる