知ってるけど言いたくない!

るー

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その32

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「……フォード、もうダメ、限界」

「じゃあ、少し休憩だ」


休憩?休憩って何?まだする気なの?

その抗議の言葉すら出せないほどエティはぐったりしていた。
早朝、2人で絡み始めてからかなり時間が経っていた。クリフォードはペースを落とす事なくエティを酔わせ続け、堪能した。最初の触れ方が初心者レベルだとエティが気づくのにそんなに時間がかからなかった。

エティが一度達すると、クリフォードは箍が外れたようにエティを求めた。もちろん約束通り挿れる事はなかったし、性器同士を擦らせたたりなど、エティを不安にさせるような行為は一切なかった。エティを何度も絶頂に追いやり、震える身体を抱き締め「愛してる」と全身で訴えてきた。



クリフォードは軽く衣類を羽織ると、ベッドに沈んでいるエティにキスをし「食べ物をもらってくる」と言って部屋から出て行った。


窓から差し込む日の光の角度が朝とかなり違う。こんなに長い時間クリフォードと夢中に抱き合っていたと気づき、エティは全身に熱を持った。もう彼に触られてない場所などない。全身にキスをされ、舐め回され触られた。

エティは自身をぎゅっと抱き締め、震えた。それは幸せと、恐怖と両方からくる震えだった。



早く魔力を使いこなせないと彼を失うかもしれない。



呪いをかけた依頼主は、最初の呪いで手応えがなかったから2つ目の呪いをローズに依頼したのだ。紫銀の女に殺されないように性行為を避けたとしても、痺れを切らせた依頼主がまた動くかもしれない。恐らくローズはもう呪いの依頼は受けないだろう。そうなると直接手を出してくる恐れがある。


考え出すと恐怖と不安は尽きない。取り敢えず、今は自分ができる事をしようとエティは強く心に決めた。



「起きられるか?」


戻ってきたクリフォードが尋ねてきたが、心配というよりからかっているように聞こえる。

「身体がベタベタして気持ち悪いから、先に浴室行ってくる」


エティは平気な素振りで、いつもより重く感じる身体をベッドから動かした。


「俺が後で洗ってやるから先に食え」

「ひゃあっ!」


森でされたように、膝に乗せられると口元に食べ物がきた。身体に巻いたシーツがずり落ちそうで両手で押さえているため、素直に口を開けた。


自分同様、幸せを噛み締めているのか、エティを見下ろすクリフォードの顔は緩みきっていた。見ているこちらが恥ずかしいとエティは視線を逸らした。


「皆んなの前でそんな顔しないでよね」

「努力はするが、自信はないな」


その後、宣言通りクリフォードに身体を洗われたエティは再びシーツに身を沈めた。



疲れた……。こんなに疲れるものなの?
クリフォードはこんな事を毎晩していたというの?

疲労の色など微塵も感じさせないクリフォードに、エティは男と女の基礎体力の違いを知った。ベッドで意識が飛びそうなエティに、キスをして情事を再開させようとしたクリフォードにエティは待ったをかけた。



「もう、本当ダメ。すこし寝かせて。このままじゃあ、シロに乗れない……」

「仕方ないな。時間になったら起こすからな」


クリフォードはおやすみの簡単なキスをしたつもりだろうが、エティにとっては濃厚なものが与えられた。そのまま意識が沈んでいき、エティは僅かながら休息の時間をとった。


身支度を済ませ、待ちくたびれた様子のレオとシロの元にいくと両方から意味深な視線を感じた。


「レオ、シロ…あの……」

『エティ、誤魔化さなくてもクリフォード様を見れば一発でわかるから』


レオにそう言われて、エティが振り向くと「そんな顔しないで」のそんな顔をしたクリフォードが、エティに寄り添うように立っていた。


『良かったね、でいいんだろう?クリフォード様も悪い癖が治って、エティだけに絞ったみたいだし、お互い同じ気持ちなんだろう?』

「……うん」


悪い癖って……。事情を知らないレオはクリフォードの事をとんでもない遊び人だと思っているようだ。かつて自分も同じ色眼鏡でクリフォードを見ていたのを思い出した。


「エティ?さっきから何ブツブツ言ってるんだ?」

「な、何でもない!予定より遅れてるから急いで出発しないと!」


午後を大幅に過ぎてしまったが、馬で駆ければ日が落ちるまでには屋敷に着くだろう。今までと同じようにエティが先頭をきり、クリフォードはシロのペースに合わせてレオを走らせた。


屋敷が見えるか見えないかの位置まで来ると、エティはシロの足を止めた。


「どうした?」

「フォード、いえ、クリフォード様。私があなたと関係を持ってしまった事を、できれば秘密にして欲しいです」


いきなりよそよそしくなったエティに、クリフォードはショックだと顔を歪ませた。エティが恋人という言葉を使わなかったのもショックに輪をかけたようだ。


「何がそんなにダメなんだ?」

「だって……、皆んなに知られたら恥ずかしい……です」


夕刻の空で辺りはオレンジ色に染められていたが、エティの顔は真っ赤だった。もう少し日が落ちていれば、こんな茹であがった顔だと気づかれずに済んだのに。そうエティは思っていたが、実際は照れてモジモジする姿でモロバレだった。


確かに冷やかされるのはエティに集中するだろうと、クリフォードは渋々了承した。


「言質が欲しい。俺はエティの恋人だと思っていいのか?」


エティは気づいていた。クリフォードは身体が繋がらない分、執拗に肌を重ね、キスをし、愛を求めてきた。しかしベッドでそれを返してしまうと、勢いに任せて最後までされてしまうかもしれないと、エティは決して言葉にしなかった。


彼はまだ不安なのだ。
焦らせ過ぎて可哀想なことをした。

エティがシロから降りると、クリフォードもレオから降りた。



「フォード、私もあなたが好きよ」






「思ったより遅かったですね」

たまたま屋敷の庭先にいたハンクが、エティとクリフォードが馬で戻ってきた姿を見て、開口一番にそう言った。まるで2人がいちゃついているのをこっそり見ていたかのような口ぶりに、エティは顔を赤らめクリフォードはムッとした。

ハンクは嫌味を言った後、エティの姿を近くで確認して言葉を失った。元々口数も多くなく表情も乏しいが、真顔で固まったハンクにエティは心配を露わにした。


「あ、あの……急に成長したみたいで……」

「ああ、やっぱりエティ殿ですよね?紫銀の女かと思って驚きました」

ちょっと待て、今どこを見て私と認識した……!

エティは胸を隠して引きつり笑いをした。


「留守の間、何か問題は?」

「特にないです。クリフォード様がいないせいで仕事量も少なかったので、女中達は多目に休みをとったくらいですね」

「あの、そういえば皆んなにはクリフォード様が留守にしている理由はどうなっているんですか?」

まさか私の帰郷に同行したなんて言ってないですよね?という目で会話に入り込むと、ハンクが一瞬クリフォードを見た後エティに返事をした。


「私は敢えて何も言ってません」


使用人に尋ねられても “ 外出していて、いつ戻るかわかりません ” と繰り返しただけだとハンクは恩義せがましくエティに胸を張った。

ああ、うん。一番いい状態にしておいてくれたんですね。さすがハンクさんです。

エティは苦笑いしながら頭を下げた。


「エティ殿の姿も変わったようですが、クリフォード様にも随分変化がおありのようで」

「うるさい、からかうな」



「エティ!?」

「あ、アネット」


屋敷の中から3人が話しているのが見えたのか、アネットが建物の方から駆け足で寄ってきた。

日は落ちて周りは薄暗くなってきたが、まだ人の認識はできる明るさは残っていた。アネットはエティに近づくにつれて駆けるスピードを弱めた。


「エ、エティなの……?」


ハンクより、かなりわかりやすく驚いている。

これが通常の反応ですよ、とエティはハンクを見るとやはり彼は目を細めてアネットを見ていた。


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