知ってるけど言いたくない!

るー

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その25

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アルフォンスはクリフォードの横に座るとすぐに口を開いた。


「エティの連れと言っていたが、恋人か?」

「いえ、違います」


本音は「そうです」と言いたかったがエティからは「だいっきらい」認定のままだ。ここではエティの立場もあるだろうから下手な事は言えない。

いきなりプライベートな質問にクリフォードは身構えた。


「今の倍払うからここで騎士をしないか、と俺が誘ったらどうする?」

「……質問の意図がわかりませんが、断ります」

「何故?」


何故?こっちが聞きたい。何故さっきから変な質問をしてくるのか。

クリフォードは、品定めするように自分を捉えたままの琥珀色の瞳を見据えるとはっきりと答えた。


「同僚達に世話になったままでまだ何も返していません。それに自分の屋敷には人を雇って置いています。その者達の面倒を見る責任が俺にはあります」

「……なるほど」


アルフォンスは表情を変えなかったが、何かを考えているようだった。


「見た目に反して誠実だな」

「どう見えてるんですか……」

「軽そうだ」

「……よく言われます」


クリフォードは苦笑いしたが、初対面ではっきりと本心を伝えてきたアルフォンスに好感を抱いた。


「歳は?」

「普通、その質問が最初じゃありません?」



***



「あれ?フォードは?」

『あっちの方に行ったよ』


エティが門の所に戻って来るとレオとシロがいるだけで、クリフォードの姿がなかった。レオが鼻で指した方は園庭がある。きっと時間を潰すために足を向けたんだろうと、エティもその園庭へ向かった。

幼い頃、父親についてよく訪れた園庭は、そのまま綺麗に保たれていてエティは懐かしさで胸が踊った。
花が咲き誇るのはもう少し先の季節だ。満開で美しい光景を思い出しながら奥まで進むと見慣れた金の髪が目に入った。

声をかけようとしてクリフォードの隣にいた人物と目が合い、その場で足が止まった。

え?この組み合わせは偶然?
どっしり腰を下ろして、何?何を話していたの!?


「エティ、もういいのか?もっとゆっくりしてきても大丈夫だぞ」


エティの存在に気づいたクリフォードは、エティの前まで歩み寄って和かに笑った。いつもと変わらぬクリフォードの様子に、相手が誰か知らずに話していたのだろうと察した。


「あ、うん。もう他の人には挨拶してきた。後で家でまた顔を合わせるけど、久しぶりだし話してもいい?」


エティがアルフォンスを見ると、クリフォードはもちろんと頷いた後、間を置いて、ん?と眉を寄せた。


「ハイ、父さん。ただいま!」

「やあ、随分見た目が変わったな。リリアンに似てきた」


「父さん?!」


アルフォンスの首に手を回して抱きつくエティに、クリフォードは驚愕な表情だった。



城からエティの家までは、クリフォードが「ゆっくり帰りたい」と言うのでお互い乗馬したまま並んで歩いている。視点が定まらずぼーっとしたままのクリフォードにエティは仕方なく声をかけた。


「どうしてそんなに疲れ切ってるの?」

「お前の父親が怖かった。最初からすっごいソフトに尋問してきて、変だなとは思ったんだ」

「滅多に笑わないから雰囲気は怖いけど、凶暴ではないわよ。剣は抜かれなかったでしょ?」

「手合わせするか聞かれたよ」

「あらら。強そうな人を見るとすぐ剣を交えたがるらしいから。他意はないわよ」

「だといいけどな……」


大きく溜息を吐く気弱なクリフォードに何を言っても今は無駄だろう。
エティは帰り道を逸れると街の中に入った。


「付き合わせて悪いけど寄りたい所があるの。私しか中に入れないから近くの店で待っててもらえる?」


クリフォードを先にエティの家に帰してもよかったが、今は帰宅したばかりのアルフォンスがいる。クリフォードのこの様子だとエティ抜きでは顔を合わせたくないだろう。

そう考えたエティは、クリフォードを落ち着きのある雰囲気の良い飲食店に連れて行った。レオとシロはエティが同行させ、目的の店の裏に繋いだ。


「退屈だろうけどごめんね、ちょっと待っててくれる?」

『シロが一緒だから問題ないよ。ごゆっくり』

『エティ、ここってローズの店でしょ?』

「そうよ。そっか、シロは何回か来たことあったね。じゃあ行ってくるね!」



看板などついておらず、表向き普通の住居に見えるが、扉を開けて中に入ると甘い香りが漂う。手作りで作られた歪な四角いテーブルがひとつだけあり、そこにはクッキーが何種類か並んでいた。

木の床は歩く度に軋み、僅かに音を立て静かな室内に響いた。奥へと続く木の扉がゆっくりと音もなく独りでに開いた。エティは吸い込まれるようにその扉をくぐった。廊下を進み、一番奥の部屋へ足を踏み入れた。


「久しぶり!母さんから聞いたわよ。恋人を連れて来たって」


「姉さん、確かに連れはいるけど恋人じゃないからね」


ソファーでくつろいでお茶を飲んでいたエティの姉、ローズは「座ったら?」と向かいの席を勧めた。その席の前には淹れたてのお茶が用意してあった。まるでエティが訪ねてくる時間を知っていたかのようだ。


「ありかと、いただきます」


ローズはエティが記憶しているままの姿だった。母親譲りのエティと同じ白い肌。そして母親と同じ銀の長い髪。瞳は父親に似て琥珀色だ。今は25歳の筈だがその美しい顔立ちはもっと若く見える。


「老けたわね。あのちっちゃなエティの方が可愛かったのに」

「ふ、ふけ……?この姿の方が年齢相応の姿だと思うけど……。姉さんは歳とらないの?」

「努力してるもの」


ふふん、と微笑む姿は男性が見たらイチコロだろう。エティと違って背も高く、スタイルも良くて男性が好きそうなサイズの胸も持っている。
エティも変化とともに胸も育ったようだがローズみたいに立派ではない。


「色々楽しい話もしたいけど、エティの目的はそれじゃないでしょ?あたしの所に来た理由は母さんから聞いて知ってるわ」


ローズはエティを横目で見るとあっけらかんとした声で告げた。


「彼についてる呪いは、あたしがかけたのよ。彼、もうすぐ死ぬわよ」



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