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29 目に見えた真実

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何度ローズを抱いても気が収まらない。そのまま彼女を壊してしまいそうだった。

気を失ったローズを自分のローブに包み、宝物のように抱えて城の自分の寝室まで運んだ。ベッドに裸で横たえる無防備な姿にまた欲情した。指先でなぞるように触れると、肌がピクリと反応してローズは虚ろに目を開けた。


「……ん、レジナルド…?」


呼び方に『様』が抜けた。俺に警戒を解いているのかもしれない。もっと抱いて少しづつ鎧を剥いでいけば、本当の彼女を知ることができるのだろうか。

正直、ローズが何を考えているのかがわからない。秘密ごとが多いし、きっぱり離れて行くわけでもないのに、俺の気持ちは受け入れてもらえない。彼女を抱いていても、もどかしさが段々積もっていく。


「ローズ、濡れてきたぞ。また気持ちよくなりたいか?」

「あっ……んっ」


ぐったりとしながらも、素直に身体をピクピクと揺らした。グラスの水を口に含み、ローズの半開きになった唇に流し込んだ。彼女が全部受け入れる前に、俺が深いキスに変えたせいで隙間から漏れた水が、ローズの口元から首筋までを艶やかに濡らした。それを舐めあげながら白い肌に強く吸い付いた。

すぐに入れるほどローズは蜜を溢れさせていて、俺は躊躇いなく欲望をねじ込んだ。いきなり奥まで突いたせいか、ローズはくぐもった声を上げた。その後、焦らすようにゆっくりと抽出していると甘い吐息が激しさを増した。


「これ、そんなに気持ちいいのか?」

「……っいい、すごく、ああっ……」


彼女がイきそうだとわかっているが意地悪く腰の動きを止めた。ローズの中が奥へ誘うように強く締め付けた。もうお互いの形を記憶してこれ以上ないくらい融合している。


「……レジナルド」


甘えるように俺の名前を口にすると涙目で何かを訴えてきた。おそらく動きがないのがもどかしいのだろう。ローズは腿を俺に擦り付けるようにモゾモゾとした。このままいじめ倒して可愛がるのもいいが、快楽に溺れる顔もいい。汗ばむ肌を密着させて覆い被さり顔を寄せる。


「ローズからキスしてくれたら動いてやる」


酔ったようにトロンとした表情で、俺の後頭部にゆったりと回した手が力なく引き寄せた。そっと触れただけの唇は柔らかさを確かめるかのように少し啄んだ。

これでいい?と見上げる上気したローズが、たまらなくかわいくて俺は強く腰を打ち付けた。
ローズはすぐに陶酔して嬌声をあげた。強くシーツを掴む手を外し、俺の背中に誘導した。従順にその手は添えられたが、ローズはまだどこか理性が働きこの行為に溺れきっていない気がする。こうなったら本能剥き出しで俺に手を伸ばすまで抱き続けてやる。


「ローズ、気持ちいいの好きか?」

「あっ、あっ……う、ん」

「俺のことは?好きだろ?」

「…っはぁ、……もうダメっ………っん!」



『好き』と言わないように、まじないでもかけてるんじゃないのかと思う。


その後、ローズが再び意識を飛ばすまで抱き潰した。気絶する直前には、ローズも自分から求めるようなキスもしてくれたし、抱き寄せるように首に腕を回してくれた。しかしそれは快楽を求めただけで、俺を欲しがったわけじゃない。結局『好き』という言葉はとうとう聞き出せなかった。



***



数日後、深夜だというのに父上に呼び出され、渋々父上の自室を訪ねた。もう休むだけなのか部屋着でのんびり酒を飲んでいた。


「おまえも飲むか?」

「いりません。俺は次の日に残りやすいので、今飲むと明日が辛くなります」

「酒も女にもまだまだだな。これから酒を飲む機会は増えるから、もっと飲んで強くなっておけ。それと、キスマークはあんなに数をつけるもんじゃないぞ。一箇所で十分だ。目立つところへ、アクセサリーのようにつけるといい」

「ローズに会ったんですか?!」

「服を選ぶセンスは褒めてやる。彼女にとても似合ってた」

「それは…どうも」


あの日、ローズは昼頃に帰ってしまったとメイドから報告を受けた。きっとその時に偶然見かけたのだろうと安易に考えた。


「ずっと同じ攻め方で敵が倒せるわけないだろう。戦術方法を覚えてないのか」

「ローズと敵を一緒にしないでください」

「同じだ。相手の隙を見つけてそこを攻める。心理戦だ」

「アルフォンスさんとの約束があるのでずる賢い真似はしません」

「約束?」

「とっくに知っているんじゃないですか?」

「さあ、聞いてないな」


とぼけたことを言う。絶対知ってる顔だ。

父上とローズの父親、アルフォンスは無二の親友だと聞いた。若い頃、二人でリリアンを取り合ったという話も小耳に挟んだことがある。父上がローズに関して口を出してくるのはその辺りが原因なのだろうか。

ずる賢い真似はしないと偉そうに言ってしまったが、ローズを抱いた時に避妊はしていないのは卑怯な手ではないかと自分で思う。


「私は静かな水面が嫌いだ。だから今回は小石を投げさせてもらった」

「小石?」

「おまえは舞踏会で隣国の姫をエスコートしろ。これは命令だ」

「父上!」


ローズに断られたのを知っているから姫を充がったのだろう。命令と言われては逆らえない。悔しいのと情けないのとで睨み返すこともできない。諦めたようにため息をついた後、もっと信じられない話をされた。


「リリアンの娘は私が招待した。さすがに私がエスコートするわけにいかないからカルロスに頼んだ」

「……な!冗談ですよね!?」

「ローズと同じ返しだぞ。おまえら面白いな」

「は……?」



キスマークがどうとか言ったのは、あの日父上が直接ローズを捕まえて舞踏会の話をしたということか。メイドからは何も聞いていないのは父上に口止めされていたんだろう。



「ローズは舞踏会に出ません!」

「おまえとはな。私はちゃんと、レジナルドと私のどちらの招待状を受け取るか選択肢を与えた。彼女はきちんと自分の判断で選んだよ。選んだというか消去法だろうけどな。おまえの隣には立ちたくないと言っていた」

「……!」


本人から言われた言葉でも、第三者から改めて突きつけられるとダメージが大きい。


俺以外の男がローズに触れるのが堪らなく嫌だ。エスコートの相手がよりによってカルロスだとは……。

一晩経っても騒いだ心が落ち着かず、冷静さを失ったままローズの元へ行ってしまった。ローズのいつもと違う対応に嫌な予感を覚えた。冷たく、忌み嫌うように俺を見るローズは俺の知ってるローズと別人に思えた。先日は身を任せるように腕の中にいたのに、その片鱗すら見えなかった。


「もう会わない」


そう言葉を残して扉の向こうへ消えた彼女に、自分でも情けないくらい切羽詰まった声を出してローズの名前を叫んだ。


ずっとその扉に張り付いていたい気分だったが、執務を放っておくわけにはいかない。苦しくて暴れ出したい気持ちをなんとか切り離して一日を終えた。



聞きたくもないのに、父上はローズとカルロスのことを逐一報告してくる。今頃ダンスのレッスン中だろうか。二人がいると思われるレッスン部屋の窓を、たまたま通りかかった外から眺めた。中の様子はわからないが目が離せない。こんな普通に黙って眺めるだけなんて自分でも女々しいと思う。でもあれ以上ローズに拒絶されるのを想像すると、もう立ち直れなくなりそうだった。

立ち去ろうとした瞬間、通路に面したガラス窓の奥で影が動いた。思わず目で追うとカルロスがローズを抱きかかえ移動しているのが見えた。具合でも悪くしたのだろうかと目を凝らしたことをすぐに後悔した。そもそも顔の表情が読み取れるほど近くで眺めるんじゃなかった。


カルロスを見るローズの顔は、恋をする女性そのものだった。


知りたくなかった。
その可能性を考えたこともなかった。
俺に身体を許した時点で他に好きな男がいるなんて考えるわけない。ローズの心には違う男がいるのに、どうして俺に抱かれたんだ。



カルロスもきっとまだローズのことが好きだ。あいつならローズを辛い目に合わせたりしないし、絶対に大切にするだろう。
不思議だが、嫉妬や喪失感はあるのに憎しみは一切ない。



俺にとって、大切な二人は大切な存在だ。

 
二人の幸せを願うなら、自分がローズを諦めるのが一番いいとわかっているのに、心が揺らいで踏ん切りがつかない。

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