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第3章 親友の苦悩

悪魔の策略

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しかし最初から勝負はついていた。

室町は何度、もし自分が先に翔子に会っていればどうなっていただろう思ったか?もし田上と親友で無ければどうしていただろうと思ったか。室町は今までの苦しみが蘇ってきて、妙な息苦しささえ覚えた。

悪魔は室町の苦しむ姿を見て快感に打ち震える調子で言った。

「幸い、田上勇太は石原翔子のことが好きではありません。石原翔子があなたを好きになっても誰も不幸にはなりません。いや、それどころか、あなたと石原翔子の二人が幸福になれるのです」

「……」

室町はとめどもなく溢れ出てくる激情の波を押し止めることが出来ず激しく身震いをした。

今までの募る想いがせきをきって流れ出してきたかのようであった。

「惚れ薬を使いますね?」

室町はつらそうに俯くばかりで悪魔には返事を返さなかったが、悪魔は室町のその態度を了解と受け取り話を進める。

悪魔は室町に優しい声色で紅い華や蒼い華のことを説明しながら内心ではこんなことを考えていた。

えい、くそっ!今回はなんてつまらないことになったんだ!?

遊ぶ材料として田上と翔子は面白そうだった。

翔子の気持ちは普通の恋心だ、しかし面白いのは田上だ!やつには恋愛感情というものがほとんど無い。

たぶんそういう性質の人間なのだろう。22年間、まともに女性を好きになったことも無いようだ。

だから考えた。

田上に片思いのつらさを思いしらせて楽しもうと……しかし、ただ片思いをさせるだけではつまらない。田上の片思いの相手は田上のことを好きな翔子にしよう。

せっかくだから、田上のことを好きだという翔子に田上をつらい気持ちにさせよう。

なおかつ、田上は翔子にみずからの手で、自分に対する恋心を消してしまう薬を飲ませてしまう。

つまり自分で自分の首をしめてしまうのだ。こんな楽しいことはない。

今まで人を好きになったことの無い人間が一生片思いで苦しむ……こういう設定だったのに、あの石原翔子め!!

何が恋心を抑える薬を下さいだ!馬鹿が!!

素直に田上に惚れ薬を飲ませればいいものを!計画が台無しだ!!

翔子が自分で蒼い華の蜜を飲み、恋心を抑えたとしてそれはいい。しかし問題は田上だ。田上が翔子の変化に気付かず、ち蒼い華の蜜を翔子に飲ませてみろ!何度も言うが蒼い華はもともと解毒剤。

2回飲めば、1回目の薬の効果が無くなるだけだ!

自分で蒼い華の蜜を飲んだ翔子の恋心がまたもとに戻ってしまうだけ。

それでは田上と翔子にとって、あたかも何も変わって無いように見えてしまう。それでは一体、私のした事は何になると言うのだ!

馬鹿らしい!!

……仕方ないので室町のところに来てたぶらかしてみたが……結局室町が翔子に紅い華の蜜を飲ませる。そして翔子が室町に心変わりするだけという、お粗末な結果になるだけか?

最後の望み……それは、せめて翔子が途中で考えを変えて紅い華の蜜を田上に飲ませてくれることだ……

悪魔は室町に対する説明がだいたい済んだところでこう付け加えた。

「紅い華と蒼い華は、明後日に咲きます。明後日の朝に裏庭に行って下さい。しかしごくたまに紅い華は消えて無くなることがあります。もし明後日の朝、裏庭に紅い華が咲いて無ければ縁が無かったと思って諦めて下さい」
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