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剣術を学ぼう
第15話 僕の服を買おう
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男はショッピングモールに行っても目的を果たすと途端にやることがなくなる生き物だ。皆が皆そうだとは言わないけれど、僕や父さんはそうだった。だからダンベルとプロテインを車に載せてから、さてどこに行こうかという感じになった。
「お前の服でも見繕いに行くか?」
「別に困ってないけど……」
「そうでもないぞ。メルシアさんと並んだときにお前はなんというか、アレだ」
「アレ!?」
「体を鍛え始めたお陰か姿勢は良くなってきたが、みすぼらしい」
「みすぼらしいって言っちゃったよ。さっき濁したのはなんだったの?」
「髪も美容室で切ってもらってセットしたほうがいいぞ」
「月一とかで美容室に行くようなお金の余裕は無いよ」
実際にはあるが、無いことになっている。どちらかと言えば時間が足りない感じだ。
「お金は母さんに言えば出してくれる。店は自分で探せ。今日は服だ」
「でも服って言っても……」
「お前ジャケットは持ってないだろ」
「ジャケット? 高校生で? 大人目線過ぎない?」
「まあまあ、買ってやるって言ってるんだから騙されたと思って付いてこい」
そう言って父さんが僕を連れてきたのは男性向けブランドのアパレルショップだった。
「あの子と並ぶならちょっとキザったらしいくらいでちょうどいいさ」
そう言われて何着か袖を通してみる。高校の制服はブレザーなのでこういう服に慣れていないわけではない。結局はダークグレーのジャケットに決まった。
「下はジーンズでいいの?」
「それで構わないぞ。シャツは無地にしたほうがいいな」
白いロングTシャツもカゴに入れてレジに持って行く。
「こいつのなんですけど、着替えさせていっていいですかね?」
「大丈夫ですよ。じゃあタグ切っちゃいますね。試着室はあちらになります」
店員さんが手際よくタグを切って僕に渡す。父さんが払ってくれるらしいので、僕はさっさと着替えよう。
試着室で柄付のTシャツを脱いで真っ白いTシャツに着替える。なんかこういう無地の服って苦手なんだよな。イケメンじゃないと許されない感じしない? その上からジャケットを羽織る。
こういうのなんて言うんだっけ? 馬子にも衣装か。なんだか服に着られてる感は否めない。履き慣れたジーンズだけが僕の味方だ。
「やっぱり髪が野暮ったいんだよなあ。垢抜けろとまでは言わないが、もっとこまめに散髪はした方がいいと思うぞ」
「前髪が邪魔になったらでいいかなって」
「ダメだダメだ。お前自分がメルシアさんと並んでるところを想像してみろ。今のままの自分でいいのか? お前は確かに変わった。前向きな顔をするようになった。だったら自分の身なりについても前向きになれ」
「メルと……」
僕はインスタに付いていたコメントについて思い出す。美少女ともやし。それは僕の体格を揶揄していただけじゃなくて、服装についてもそうだったのかも知れない。
「見栄を張るのは悪いことじゃない。可愛い女の子の前で格好を付けられなくてなにが男だ。違うか?」
「違わない、と思う」
メルの隣に立てるようになることが今の僕にとっては目標だ。だけどそれは強さの話だった。見た目のことなんて考えたことが無かった。それじゃいけなかったんだ。僕がみすぼらしければ、隣にいるメルまで安く見られる。そういうことだ。
そう気付くと、途端に自分の姿が情けなく思えてきた。服に着られている。それは体型や、姿勢、髪型によるものだろう。しゃんと背筋を伸ばして、目線を上げて、髪は今度調べて美容院に行こう。
「お、ちょうど母さんからラインだ。あっちも終わったみたいだな。迎えに行くか」
「うん」
胸を張ろう。まだ自分に自信は無いけれど、虚勢を張ってメルの隣に立つんだ。
「お前の服でも見繕いに行くか?」
「別に困ってないけど……」
「そうでもないぞ。メルシアさんと並んだときにお前はなんというか、アレだ」
「アレ!?」
「体を鍛え始めたお陰か姿勢は良くなってきたが、みすぼらしい」
「みすぼらしいって言っちゃったよ。さっき濁したのはなんだったの?」
「髪も美容室で切ってもらってセットしたほうがいいぞ」
「月一とかで美容室に行くようなお金の余裕は無いよ」
実際にはあるが、無いことになっている。どちらかと言えば時間が足りない感じだ。
「お金は母さんに言えば出してくれる。店は自分で探せ。今日は服だ」
「でも服って言っても……」
「お前ジャケットは持ってないだろ」
「ジャケット? 高校生で? 大人目線過ぎない?」
「まあまあ、買ってやるって言ってるんだから騙されたと思って付いてこい」
そう言って父さんが僕を連れてきたのは男性向けブランドのアパレルショップだった。
「あの子と並ぶならちょっとキザったらしいくらいでちょうどいいさ」
そう言われて何着か袖を通してみる。高校の制服はブレザーなのでこういう服に慣れていないわけではない。結局はダークグレーのジャケットに決まった。
「下はジーンズでいいの?」
「それで構わないぞ。シャツは無地にしたほうがいいな」
白いロングTシャツもカゴに入れてレジに持って行く。
「こいつのなんですけど、着替えさせていっていいですかね?」
「大丈夫ですよ。じゃあタグ切っちゃいますね。試着室はあちらになります」
店員さんが手際よくタグを切って僕に渡す。父さんが払ってくれるらしいので、僕はさっさと着替えよう。
試着室で柄付のTシャツを脱いで真っ白いTシャツに着替える。なんかこういう無地の服って苦手なんだよな。イケメンじゃないと許されない感じしない? その上からジャケットを羽織る。
こういうのなんて言うんだっけ? 馬子にも衣装か。なんだか服に着られてる感は否めない。履き慣れたジーンズだけが僕の味方だ。
「やっぱり髪が野暮ったいんだよなあ。垢抜けろとまでは言わないが、もっとこまめに散髪はした方がいいと思うぞ」
「前髪が邪魔になったらでいいかなって」
「ダメだダメだ。お前自分がメルシアさんと並んでるところを想像してみろ。今のままの自分でいいのか? お前は確かに変わった。前向きな顔をするようになった。だったら自分の身なりについても前向きになれ」
「メルと……」
僕はインスタに付いていたコメントについて思い出す。美少女ともやし。それは僕の体格を揶揄していただけじゃなくて、服装についてもそうだったのかも知れない。
「見栄を張るのは悪いことじゃない。可愛い女の子の前で格好を付けられなくてなにが男だ。違うか?」
「違わない、と思う」
メルの隣に立てるようになることが今の僕にとっては目標だ。だけどそれは強さの話だった。見た目のことなんて考えたことが無かった。それじゃいけなかったんだ。僕がみすぼらしければ、隣にいるメルまで安く見られる。そういうことだ。
そう気付くと、途端に自分の姿が情けなく思えてきた。服に着られている。それは体型や、姿勢、髪型によるものだろう。しゃんと背筋を伸ばして、目線を上げて、髪は今度調べて美容院に行こう。
「お、ちょうど母さんからラインだ。あっちも終わったみたいだな。迎えに行くか」
「うん」
胸を張ろう。まだ自分に自信は無いけれど、虚勢を張ってメルの隣に立つんだ。
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