上 下
83 / 139
アーリアのダンジョンに挑もう

第24話 お腹いっぱい食べよう

しおりを挟む
 のは、僕もメルも最初の30分くらいで、そこからが戦いの始まりだった。

 お昼ご飯を抜いてお腹をぺこぺこにしていたものの、肉やらスイーツやらを30分も食べ続ければお腹はいっぱいになってしまう。だけどまだ3,000円分食べたとはとても言えない。

 メルはショーケースのケーキを8割方消化したようだが、まだ目の前で作ってくれるクレープや、バームクーヘンのコーナーが手つかずだ。あとそびえ立つチョコレートファウンテンも控えている。チョコレートが滝のように流れてるやつだ。

「美味しい……けど、もう入らないよぉ。ひーくん、半分食べて」

 半分食べてというのはつまり、元々小さなケーキの一切れをさらに半分こにしようという提案だ。全種類を制覇したいというメルの意地を感じる。

「そうだね、甘い物ならもうちょっと入りそう、かも知れない」

 肉ばっかり食べていたので口は甘い物を求めている。僕は新しい皿を持ってきて、メルの皿に乗ったケーキを半分にして自分の皿に移していく。

 スポンジケーキは簡単だけど、ガラス容器に入ったプリンとかは半分にしにくいな。そう思っているとメルは半分食べたプリンの容器をこちらに押し込んでくる。メルは本気で全種類制覇するつもりだ。

 それなら僕も食べて応援するしかない。メルの残りを一心不乱に食べ続ける。ついにメルはショーケースの全種を食べきった。

「ねえ、時間はあるし一旦休憩しない?」

 残り時間はまだ1時間以上ある。お腹はこれ以上なにを食べるんだ、という感じだが、食べていない品はスイーツに限ってもまだまだある。

「ダメ! 美味しかったものを厳選して2週目に行くんだから!」

「2週目!? 1回食べれば十分じゃない?」

「だってこんな機会、もう2度と無いかもしれないし」

「大丈夫だって。魔石で稼いでまた来ればいいんだよ」

「その時に食べたかったケーキがまたあるって断言できる?」

「それは……、できないかな」

「食べれるときに食べる! 冒険者の鉄則だよ!」

 メルは勢いよく立ち上がる。そして迷うことなくスイーツのあるコーナーへ向かう。うーん、食に対する気合いが違う。日本人は美味しいものを食べることに拘る傾向があると思うけれど、その一方で飽食に慣れきっている。食べたい時にいつでも食べられるという感覚があるのだ。

 アーリアも屋台が並んでいていつでも食事ができるように思えるけど、それは日中の話だ。日が沈んでからもやっているような店は酒場みたいなところしかない。それだって夜遅くまで営業しているわけではないようだ。夜中に小腹が空いたからちょっとコンビニに、みたいなことはアーリアではできない。

「ひーくん、これ凄かったよ。作ってるところ魔法みたいだった」

 そう言ってメルがテーブルに置いたのはクレープだ。

「生地だけならアーリアでも作れそうだけど」

「こんなの見たことないよお」

 クレープの生地というと粉と牛乳と卵というイメージだが、小麦粉じゃないのかな? いや、ネックは卵か。

「もしかしてアーリアじゃ卵が珍しいとか」

「ニワトリの? 珍しくないよ。卵を使った料理もいっぱいあるしね。郊外には養鶏場もあるよ」

 となると、粉のほうか。僕はスマホで検索する。

 クレープの生地、作り方、っと。えっと、薄力粉、砂糖に塩をひとつまみ混ぜたものか。

「あー、なるほど。砂糖がネックなんだな」

「これも砂糖が入ってるんだ」

「甘い物は大抵入ってると思うよ」

「凄いね。こんなに沢山どうやって作ってるんだろう?」

「基本的な作り方はアーリアと変わらないと思うけどね」

 アーリアの砂糖と、日本の砂糖の違いは精製部分だ。不純物を取り除く工程がアーリアの技術では難しいのだろう。

「ね、怖いことに気付いちゃった。今日食べた砂糖ってアーリアだといくらくらいになるんだろう?」

「金貨1枚は優に超えているだろうなあ」

 砂糖は200g金貨1枚で取り引きしてる。

「銀貨1枚ならお得だね」

「まあ、実際に支払っているのは日本円だから、鏡に換算したら1人30枚分くらい払ってるんだよ。これを金貨に換算すると……」

「あーあー、聞きたくなーい!」

「レッサーゴブリンの魔石10個分くらいと言えば」

「平気! そっか、レッサーゴブリン10匹でこれが食べられるんだ……」

 アーリアのダンジョンのレッサーゴブリンの命が危ない。まあ、魔物だし、どれだけ倒しても再出現するんだけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界ネット通販物語

Nowel
ファンタジー
朝起きると森の中にいた金田大地。 最初はなにかのドッキリかと思ったが、ステータスオープンと呟くとステータス画面が現れた。 そしてギフトの欄にはとある巨大ネット通販の名前が。 ※話のストックが少ないため不定期更新です。

武田信玄Reローデッド~チートスキル『ネット通販風林火山』で、現代の物をお取り寄せ無双して、滅亡する武田家の運命をチェンジ!

武蔵野純平
ファンタジー
第3回まんが王国コミカライズコンテストにて優秀賞を受賞しました! 応援感謝です! 戦国時代をモチーフにした和風の異世界ファンタジー! 平凡なサラリーマンだった男は、若き日の武田信玄――十四歳の少年、武田太郎に転生した。戦国最強の騎馬軍団を率いる武田家は、織田信長や徳川家康ですら恐れた大名家だ。だが、武田信玄の死後、武田家は滅亡する運命にある。 武田太郎は、転生時神様に貰ったチートスキル『ネット通販風林火山』を使って、現代日本のアイテムを戦国時代に持ち込む。通販アイテムを、内政、戦争に生かすうちに、少しずつ歴史が変わり出す。 武田家の運命を変えられるのか? 史実の武田信玄が夢見た上洛を果すのか? タイトル変更しました! 旧タイトル:転生! 風林火山!~武田信玄に転生したので、ネット通販と現代知識でチート! ※この小説はフィクションです。 本作はモデルとして天文三年初夏からの戦国時代を題材にしておりますが、日本とは別の異世界の話しとして書き進めています。 史実と違う点がありますが、ご了承下さい。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

おさがしの方は、誰でしょう?~心と髪色は、うつろいやすいのです~

ハル*
ファンタジー
今日も今日とて、社畜として生きて日付をまたいでの帰路の途中。 高校の時に両親を事故で亡くして以降、何かとお世話になっている叔母の深夜食堂に寄ろうとした俺。 いつものようにドアに手をかけて、暖簾をぐぐりかけた瞬間のこと。 足元に目を開けていられないほどの眩しい光とともに、見たことがない円形の文様が現れる。 声をあげる間もなく、ぎゅっと閉じていた目を開けば、目の前にはさっきまであった叔母さんの食堂の入り口などない。 代わりにあったのは、洞窟の入り口。 手にしていたはずの鞄もなく、近くにあった泉を覗きこむとさっきまで見知っていた自分の姿はそこになかった。 泉の近くには、一冊の本なのか日記なのかわからないものが落ちている。 降り出した雨をよけて、ひとまずこの場にたどり着いた時に目の前にあった洞窟へとそれを胸に抱えながら雨宿りをすることにした主人公・水兎(ミト) 『ようこそ、社畜さん。アナタの心と体を癒す世界へ』 表紙に書かれている文字は、日本語だ。 それを開くと見たことがない文字の羅列に戸惑い、本を閉じる。 その後、その物の背表紙側から出てきた文字表を見つつ、文字を認識していく。 時が過ぎ、日記らしきそれが淡く光り出す。 警戒しつつ開いた日記らしきそれから文字たちが浮かび上がって、光の中へ。そして、その光は自分の中へと吸い込まれていった。 急に脳内にいろんな情報が増えてきて、知恵熱のように頭が熱くなってきて。 自分には名字があったはずなのに、ここに来てからなぜか思い出せない。 そしてさっき泉で見た自分の姿は、自分が知っている姿ではなかった。 25の姿ではなく、どう見ても10代半ばにしか見えず。 熱にうなされながら、一晩を過ごし、目を覚ました目の前にはやたらとおしゃべりな猫が二本足で立っていた。 異世界転移をした水兎。 その世界で、元の世界では得られずにいた時間や人との関わりあう時間を楽しみながら、ちょいちょいやらかしつつ旅に出る…までが長いのですが、いずれ旅に出てのんびり過ごすお話です。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...