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異世界と交易しよう

第13話 部屋を借りよう

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「以上で説明は終わりです。質問はありますか?」

「あ、そうだ。宿を出て部屋を借りようと思っているのですが、冒険者ギルドは仲介とかやってませんか?」

「それなら不動産屋を紹介しますよ。冒険者ギルドからの紹介だと言えば、変な部屋を押しつけられることもないでしょう」

「それじゃよろしくお願いします」

「場所は、あ、メルさんに説明した方が分かりやすそうですね」

 そういうわけで僕らは冒険者ギルドに紹介された不動産屋に向かった。

「こんにちはー! 冒険者ギルドからの紹介できました!」

 メルがいつも通りの陽気さで不動産屋に入っていく。僕には真似できないな。

 僕らを出迎えたのは老婆だった。

「いらっしゃい。若いのに冒険者かい?」

「はい!」

 メルが嬉しそうに首元から冒険者証を取り出して見せる。

「そうかいそうかい。それじゃ冒険者ギルドに近い部屋がいいかね」

「あっ! どうしよう」

 トリエラさんの宿は冒険者ギルドからはちょっと遠い。僕が冒険者ギルドの近くに部屋を借りれば、メルにはちょっと不便だろう。それに僕にしてみれば冒険者ギルド近くの部屋を借りるメリットはほとんど無い。

「トリエラさんという方がやっている宿屋の近くに借りられる部屋があればいいんですが」

「シュルネ通りの!」

 メルが補足してくれる。アーリアの地名とか、僕はまだ全然分かってないもんな。

「2人で住むわけじゃないのかい?」

「部屋を借りるのはこっち、ひーくんだけです!」

「なるほどねえ。シュルネ通りか。ええと、よっこいしょ」

 お婆さんはカウンターの向こうの棚から羊皮紙の束を持ってくる。

「自炊はするのかい?」

「しないです」

「部屋はひとつで?」

「問題ありません」

「そういう単身者用の集合住宅もあるよ。トリエラの宿からは少し離れるけどね。家賃は安く済む」

「いくらくらいなんですか?」

「階数にもよるね。希望はあるかい? ただ地上階は店が入ってるから2階から上だね」

「それだったら2階ですかね」

「2階の空き部屋だと月に銀貨7枚だね」

「上のほうが高いんですか?」

「そりゃ上の階から物音がしなくて済むからね」

 なるほど。この世界でも騒音問題は深刻そうだ。

「ちなみにトリエラさんの宿にもっと近い部屋だとどんなのがありますか?」

 日本から砂糖を1kg持ち込むだけで銀貨100枚になる。僕の取り分は50枚だ。金に糸目を付けないとは言わないが、もうちょっと贅沢してもバチは当たらないだろう。

「トリエラの宿に一番近い部屋だね。えーっと、台所があって、個室が2つ。集合住宅の3階で、月に銀貨16枚という部屋があるね。一本裏通りだけどすぐそこさ」

「家具はどうなってますか?」

「どちらの部屋だい?」

「後の方の部屋で」

「個室にはそれぞれベッドが一台。リビングにテーブルと椅子4脚が付いてるよ。ただしその分、敷金がかさむけどね」

 メルが僕の服の裾を引っ張った。

「ねえ、ひーくん。無理しないでいいよ」

「メルが住む住まないは別にしてさ。僕がいないときに部屋の様子を見に行ってもらったりしたいんだよね。そうしたらやっぱりトリエラさんの宿から近いほうが便利かなって」

「そっか。ひーくんの事情もあるもんね」

 僕は平日は学校に行って日本の自宅に帰ってこなくてはならない。こちらの世界に顔を出すことくらいはできるが、短い時間だろう。メルが時々部屋の様子を見に来てくれれば安心だ。借りているのに人の出入りがほとんど無いというのは不自然だろうし。

「トリエラさんの宿から近い方の部屋を前向きに検討したいと思います。部屋を見に行くことってできますか?」

「冒険者証を見せてもらってもいいかい?」

 お婆さんに冒険者証を手渡す。するとお婆さんは手元の羊皮紙に冒険者証の番号を書き取った。それから羊皮紙に括り付けられていた鍵を1本外して僕に手渡す。冒険者証も返ってきた。

「トリエラの宿の裏通りにあるマルティールって名前の集合住宅の3階303号室だよ。単身者用の部屋の鍵もいるかい?」

「じゃあ、一応そちらも」

 僕は鍵をもう1本受け取って場所を確認した。僕らはお婆さんの不動産屋を後にする。

「順番が逆になっちゃったけど、徴税所に行こうか」

「そうだね。金貨のあるうちに人頭税を払っておこう」
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