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クソザコナメクジくん、異世界に行く

第19話 1ヶ月の不在を誤魔化そう

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 橿原ダンジョンの第1層に戻ってきた僕は、スモールスライムを踏み潰して小っちゃい魔石を回収しつつポータルへと戻った。そしてダンジョンの外を指定してポータルを潜る。

 橿原ダンジョンは完全に管理されたダンジョンなので、ポータルの周りには建物があり、そこは室内だ。ポータルから出てくるとき、人はポータルの周囲10メートル以内の誰かと重ならない位置に出現する。

 意識はしていなかったが平日の昼間ということで人は少ない。ポータルを囲む部屋からの出入り口はひとつだけで、ゲートが設置されている。見た目はまんま駅の改札で探索者証をかざせば、顔認証されてゲートが開く仕組みだ。

 さて、どうなるだろうか?

 と、疑問に思いながら探索者証をゲートにかざすと、エラー音がしてゲートが閉まった。まあ、大体予想通りだ。駅員、じゃなかった、係員さんのほうを見ると手招きをされる。

「柊和也さんで間違いないですか?」

「はい」

「記録を見る限り1ヶ月くらい前にダンジョン内で行方不明ってことになってますけど、間違い無いですか?」

「ええっ!? 1ヶ月!?」

 僕はすっとぼけた声を上げる。こうなる想定はしてある。問題は僕の演技力だ。

「えっと、第3層でミミックに襲われて、仲間も逃げちゃって、気が付くとなんでか無事だったんで、なんとか出てきたところなんですけど。1ヶ月? 今さっきのことですよ」

「うーん、探索者証の記録でも確かに最後の入場が9月11日で、その後出てきた記録は無いですね」

「え、今日って9月11日じゃないんですか?」

「今日は10月13日ですね。不思議なこともあるもんだなあ。とりあえず上に相談するからちょっと待っててくれますか?」

 そう言うと係員さんは僕の返事を待たずに固定電話の受話器を上げる。

「橿原ダンジョン改札の笠原かさはらです。そっちにも情報飛んでると思うんですけど、MIDの柊和也さんが今出てきたところで」

 係員さんはちらりとこちらに目線を向ける。

「ええ、ええ、間違いなく本人です。記憶が飛んでいるのか、時間が飛んでいるのか、本人は今日を9月11日だと思っていますよ」

 僕の演技は少なくとも係員さんには通用したようだ。しばらく通話していた係員さんは受話器を置いて、こちらを向いた。

「本局の人が来ることになりました。それまで待っててもらっていいですか? 病院に行って精密検査を受けることになりそうですよ」

「ええー、命からがら戻ってきたところなんですけど。帰って寝たいですよ」

「ご家族には君は行方不明って連絡が行ってるはずですから、そのまま帰ったら大騒ぎになりますよ。お願いします」

「分かりました。スマホの充電器とか無いですか? なんかバッテリー切れちゃってて」

「残念ですけど、ここには無いですね。本局の人が来たら聞いてみて下さい」

「本当に今日は10月なんですか? まだ信じられないんですけど」

「私のスマホ見ます? ほら、日付が10月でしょう」

「ホントだ……。うわぁ、学校無断欠席になってるかな」

「それどころじゃなくなると思いますけどね。それじゃすみませんけど、しばらくお待ちください」

「どれくらいかかります?」

「奈良支部からなんで、車を飛ばしても1時間くらいはかかると思いますよ」

「ええー。ちょっと1層でスモールスライム相手に稼いできていいですかね?」

「お願いですからそれは止めてください」

 係員さんからすればもっともな話だ。もう一度行方不明になられたらたまったものではない。
 しかしただ待つとなると1時間は結構暇だ。
 スマホが動けば暇つぶしの手段もあっただろうけれど、あいにくとバッテリーが切れているのは嘘ではない。

 まったく趣味では無いが、橿原ダンジョンの改札を出入りする人を観察して過ごすことにする。平日昼間ということもあって、出入りするのは専業探索者の人が多いように見える。

 4人から6人の集団で、装備も整っている人たちが多い。しかしアーリアの町の冒険者ギルドで見かける冒険者たちとは違い、体を鍛えているという見た目をした人は意外と少ない。

 レベルが上がってステータスの底上げがあれば、本来の肉体を鍛えなくとも戦えるということだ。だが体を鍛えればより戦いやすいということはこの1ヶ月で嫌というほど学んだ。

 そうこうしているうちに1時間ほど過ぎたのだろう。改札の向こうからスーツ姿の女性がやってきて係員さんに声をかけた。係員さんがこちらを手で指し示したので、あの女性が本局の人ということだろう。

 女性はカードをかざして改札を通ると僕のところに一直線にやってきた。

「ダンジョン管理局の斉藤さいとうです。柊和也さんで間違いないですか?」
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