12 / 139
クソザコナメクジくん、異世界に行く
第12話 宿屋に泊まろう
しおりを挟む
メルに物理的に背中を押されて辿り着いたのは冒険者ギルドからはかなり離れた場所にある宿だった。表通りに面してこそいるが、これだけ遠いと冒険者は利用したがらないだろう。
「メルシアさん、おかえりなさい」
宿に入るとすぐにカウンターがあって、ふくよかな中年女性が出迎えてくれる。
「トリエラさん、ただいま。連れがいるんだけど空き部屋ある?」
「ありますよ。一部屋と言わず二部屋だって大丈夫ですとも」
「二部屋は要らないかなあ。ひーくん、ここでいいよね」
「この町のことはさっぱりだし、メルに任せるよ」
「お客様を連れてきてくれたのね。うちは素泊まりで一晩銅貨20枚から。朝食は5枚で提供しているわ。メルシアさんみたいに月借りしてくれるなら、銀貨10枚にするわよ」
えっと、銀貨10枚は銅貨320枚だから、16日分で一ヶ月借りられるのか。
と、そう考えたところでふと疑問に思う。
「ねえ、メル、一月って何日?」
「26日だけど、日本では違うの?」
「日本だとほとんど30か31日だね」
「へぇ、変なの」
とにかく一ヶ月契約なら16日分のお金で済む。しかし残念ながら手持ちがそんなに無い。
「持ち合わせがないのでとりあえず一泊でお願いします」
「あらあらそうなの。残念ね。メルシアさんの隣のお部屋も空いてるけど、それでいいのかしら?」
「じゃあそれで」
僕じゃ無くてメルが答える。僕はいいけど、メルはそれでいいんだろうか? メルがいいって言ってるんだから、いいんだろうけど。
僕は銅貨で20枚を支払う。
「はい。これがお部屋の鍵です。無くさないでくださいね」
「ひーくん、荷物置いたらお風呂行くよ」
「お風呂があるの!?」
てっきりこっちの世界ではお風呂は貴族が嗜むものとかそんな感じで珍しいんじゃないかと勝手に想像していたけれど、そうではないみたいだ。
「あれ? 日本じゃお風呂珍しかったりする?」
「ううん。助かるよ。もう汗だくでさ」
「そっか、着替えもないんだっけ。入浴料は銅貨1枚だけど、洗濯屋で乾燥までしてもらうと銅貨3枚いるよ」
「必要経費だなあ」
とにかくこれで1日に必要な経費は大体分かった。一食は銅貨5枚前後みたいだから、三食で銅貨15枚。一泊が銅貨20枚。風呂と洗濯で銅貨4枚。アーリアに10日滞在するための税金が銀貨1枚だから、1日銅貨3.2枚。1日に銅貨43枚は稼がなければならない。
持っている銀貨が5枚で、1枚が銅貨32枚分なことを考えると、余裕は無い。
僕よりステータスの高いメルの稼ぎでも結構ギリギリな感じだ。
「んー、そうでもないかな。町中の日雇いでも銀貨2枚からが相場だし、魔物狩りが稼げないだけだよ」
公衆浴場への道すがら僕の懸念をメルに伝えるとそう返事が返ってきた。
「つまり普段は町の中で働いて、お金に余裕があるときに魔物を狩る感じなの?」
「そうだね。私の場合、月に15日は酒場での仕事が決まってて、それで金貨1枚って契約してる。酒場の仕事が休みの日に魔物狩りにでかけてるんだよ」
「なるほど。僕も仕事を見つけないとヤバいかな」
てっきり毎日魔物狩りに出かけているものだとばかり思っていた。
「ひーくんは日本でどんな仕事をしてたの?」
「僕? 僕は学校に通ってるんだ。まだ働いた経験は無いよ」
「学校って、もしかして勉強するところ?」
「もしかしなくてもそうだよ」
「学者の卵だったのかあ。道理で運動不足なわけだよ」
「いや、日本では僕らくらいの年齢だとみんな学校に行くんだよ。アルバイトで働くことはあっても、本格的に働き出すのは18歳とか、22歳とかじゃないかな」
「うへぇ、みんな勉強ばっかりしてるんだ。信じられない。親がお金を出してくれるの? 22歳まで?」
「日本じゃそういうものだからね。義務教育って言ってさ。15歳までは学校に行かなきゃいけないし、少なくとも20歳くらいまでは親が子どもの面倒を見るものだよ」
「へぇ~、びっくり。こっちだと働けるようになったら働くのが当然だよ」
「文化の違いというやつだね」
返しながらも、親という言葉が出たことで僕は当然ながら自分の親のことを思い浮かべる。檜山たちが無事に橿原ダンジョンを脱出していたとして、彼らは僕のことをミミックに食われたと報告するだろう。
当然ながら親にもその知らせが行く。
驚くだろうし、悲しませてしまうだろう。
死体が発見されない以上、すぐに死んだという扱いにはならないが、ダンジョンでの行方不明者は半年で公式に死亡扱いとなる。そうなると両親は空の棺で葬式を執り行うことになるだろう。
「早く強くなって帰らなきゃね」
僕が黙り込んだことでその心中まで察したのか、メルは優しくそう言った。
「メルシアさん、おかえりなさい」
宿に入るとすぐにカウンターがあって、ふくよかな中年女性が出迎えてくれる。
「トリエラさん、ただいま。連れがいるんだけど空き部屋ある?」
「ありますよ。一部屋と言わず二部屋だって大丈夫ですとも」
「二部屋は要らないかなあ。ひーくん、ここでいいよね」
「この町のことはさっぱりだし、メルに任せるよ」
「お客様を連れてきてくれたのね。うちは素泊まりで一晩銅貨20枚から。朝食は5枚で提供しているわ。メルシアさんみたいに月借りしてくれるなら、銀貨10枚にするわよ」
えっと、銀貨10枚は銅貨320枚だから、16日分で一ヶ月借りられるのか。
と、そう考えたところでふと疑問に思う。
「ねえ、メル、一月って何日?」
「26日だけど、日本では違うの?」
「日本だとほとんど30か31日だね」
「へぇ、変なの」
とにかく一ヶ月契約なら16日分のお金で済む。しかし残念ながら手持ちがそんなに無い。
「持ち合わせがないのでとりあえず一泊でお願いします」
「あらあらそうなの。残念ね。メルシアさんの隣のお部屋も空いてるけど、それでいいのかしら?」
「じゃあそれで」
僕じゃ無くてメルが答える。僕はいいけど、メルはそれでいいんだろうか? メルがいいって言ってるんだから、いいんだろうけど。
僕は銅貨で20枚を支払う。
「はい。これがお部屋の鍵です。無くさないでくださいね」
「ひーくん、荷物置いたらお風呂行くよ」
「お風呂があるの!?」
てっきりこっちの世界ではお風呂は貴族が嗜むものとかそんな感じで珍しいんじゃないかと勝手に想像していたけれど、そうではないみたいだ。
「あれ? 日本じゃお風呂珍しかったりする?」
「ううん。助かるよ。もう汗だくでさ」
「そっか、着替えもないんだっけ。入浴料は銅貨1枚だけど、洗濯屋で乾燥までしてもらうと銅貨3枚いるよ」
「必要経費だなあ」
とにかくこれで1日に必要な経費は大体分かった。一食は銅貨5枚前後みたいだから、三食で銅貨15枚。一泊が銅貨20枚。風呂と洗濯で銅貨4枚。アーリアに10日滞在するための税金が銀貨1枚だから、1日銅貨3.2枚。1日に銅貨43枚は稼がなければならない。
持っている銀貨が5枚で、1枚が銅貨32枚分なことを考えると、余裕は無い。
僕よりステータスの高いメルの稼ぎでも結構ギリギリな感じだ。
「んー、そうでもないかな。町中の日雇いでも銀貨2枚からが相場だし、魔物狩りが稼げないだけだよ」
公衆浴場への道すがら僕の懸念をメルに伝えるとそう返事が返ってきた。
「つまり普段は町の中で働いて、お金に余裕があるときに魔物を狩る感じなの?」
「そうだね。私の場合、月に15日は酒場での仕事が決まってて、それで金貨1枚って契約してる。酒場の仕事が休みの日に魔物狩りにでかけてるんだよ」
「なるほど。僕も仕事を見つけないとヤバいかな」
てっきり毎日魔物狩りに出かけているものだとばかり思っていた。
「ひーくんは日本でどんな仕事をしてたの?」
「僕? 僕は学校に通ってるんだ。まだ働いた経験は無いよ」
「学校って、もしかして勉強するところ?」
「もしかしなくてもそうだよ」
「学者の卵だったのかあ。道理で運動不足なわけだよ」
「いや、日本では僕らくらいの年齢だとみんな学校に行くんだよ。アルバイトで働くことはあっても、本格的に働き出すのは18歳とか、22歳とかじゃないかな」
「うへぇ、みんな勉強ばっかりしてるんだ。信じられない。親がお金を出してくれるの? 22歳まで?」
「日本じゃそういうものだからね。義務教育って言ってさ。15歳までは学校に行かなきゃいけないし、少なくとも20歳くらいまでは親が子どもの面倒を見るものだよ」
「へぇ~、びっくり。こっちだと働けるようになったら働くのが当然だよ」
「文化の違いというやつだね」
返しながらも、親という言葉が出たことで僕は当然ながら自分の親のことを思い浮かべる。檜山たちが無事に橿原ダンジョンを脱出していたとして、彼らは僕のことをミミックに食われたと報告するだろう。
当然ながら親にもその知らせが行く。
驚くだろうし、悲しませてしまうだろう。
死体が発見されない以上、すぐに死んだという扱いにはならないが、ダンジョンでの行方不明者は半年で公式に死亡扱いとなる。そうなると両親は空の棺で葬式を執り行うことになるだろう。
「早く強くなって帰らなきゃね」
僕が黙り込んだことでその心中まで察したのか、メルは優しくそう言った。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。
古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。
頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。
「うおおおおお!!??」
慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。
基本出来上がり投稿となります!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる