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クソザコナメクジくん、異世界に行く

第3話 橿原ダンジョン第3層へ

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 橿原ダンジョンは遺跡タイプのダンジョンだ。藤原旧跡付近に発生したダンジョンだが、運営が歴史を重んじたというわけではなくただの偶然だろう。

 石造りの迷路のような構造をしており、薄暗いが、何故か真っ暗では無い。何処かが発光しているというわけでもなく、なんとなく薄暗いという感じだ。不思議な話だが、ダンジョンやモンスターが存在しているのに今更でもある。

 ダンジョンの入り口や、各階層はポータルと呼ばれる次元の穴としか言い様のない空間で繋がっている。通過する際に思い浮かべれば、本人が通過済みであればダンジョンのどの階層にも進むことができる。

 だから僕や檜山たちは第3層へ進むポータルを一旦抜けてからであれば、そのポータルを使ってすぐに入り口に戻ることもできる。やろうと思えば僕だけ逃げ帰ることも十分可能だ。後が怖いのでやらないけれど。

 もちろん入り口からそのまま第3層へ進むことも可能なため、ポータル付近は探索者の数が多い。第2層にある第3層へ繋がるポータルから転移した僕たちの周りにも探索者が多くいた。

 これくらいの階層で狩りをしているとなると、いわゆる週末探索者だ。檜山たちもその枠に含まれるだろう。社会人でも週末に気分転換にダンジョン探索、という人も少なくない。例えば第2層でも何時間か狩りをすれば、魔石やドロップアイテムの売却益で1万円くらいにはなる。

 軽く運動をしてお金も貰える。
 週末探索者はそれくらいの感覚だ。

「やっぱ人が多いな。もうちょっと奥の方に行くか」

 檜山たちが向かったのは第4層へのポータルがある方向とは逆側だった。
 こいつらは頭が良いほうではないが、馬鹿でもない。第4層へのポータルからは第4層のモンスターが溢れ出してくる恐れがあるからだ。

「柊ィ、3層のモンスターは!?」

「あっ、はい。ええと……」

 僕は市販のマップに目を落とす。第3層のモンスターは第2層でも出現する可能性があるのだから覚えとけよ、と思わないでもないが、僕も覚えていないので言い返すことはできない。

「素手のゴブリンとスモールウルフです」

「まあ余裕だろ」

 檜山がショートソードをぶんぶんと振り回す。後ろで見ている僕はすっぽ抜けて飛んでくるのではないかと冷や冷やだった。

 しばらく進んだところでスモールウルフが通路の向こうから現れた。

「蒼太《そうた》は一旦下がれ。まずは俺と弘樹でやる」

 檜山が言う。
 蒼太は相田、弘樹《ひろき》は久瀬のことだ。回復魔法を使える相田を念のために下げた、ということだろう。
 どのみち橿原ダンジョンの通路は狭く、2人が並ぶので精一杯だ。

 檜山と久瀬が剣を前に構えてスモールウルフを迎え撃つ。モンスターは好戦的で基本的に逃げるということをしない。

 後ろにいる僕から戦闘の様子はよく分からないが、スモールウルフが抜けてこないということは、2人はうまく戦っている。
 しかしその一方、第2層のように簡単に倒せるというわけでもないようだ。

「痛ぇ! 蒼太、回復頼む!」

「分かった」

 結局、檜山たちはスモールウルフを倒すまでに相田の回復魔法を2回必要とした。第2層ではまったく回復魔法が必要無かったことを考えると、やはりモンスターは強くなっている。

 僕は剣を杖のようにして休憩する檜山たちの間を抜けて、スモールウルフの魔石を回収する。

 その後、相田を前に置いてダメージがあるとスイッチするなどのやり方を試しながら、第3層を進んでいく。
 檜山たちは第3層でもやれるという実感を掴んだようだ。その歩みからどんどん慎重さが失われていく。

「おい、分かれ道だぞ」

 檜山に言われて僕はマップを見た。分かれ道は、無い。市販されている橿原ダンジョンのマップは第8層までの完全収録が売りだ。

「えっと、ここで分かれ道は無いはずなんだけど」

「あるじゃねーか! お前、まさか迷ってんじゃないだろうな!?」

「いや、でも、だって、マップには載ってないし……」

「ひょっとして妖精の小径じゃね?」

 相田が言う。
 妖精の小径というのはダンジョンで稀に見られる現象だ。一時的に脇道が出来て、その先ではランダムイベントが待っている。宝箱があったり、モンスターハウスだったり、良いこともあれば悪いこともある。

「絶対に現在位置は見失ってないんだろうな!?」

「は、はい」

 ちょっと不安に思いながらも返事をする。

 檜山は少し考え込んだ。

 妖精の小径で良いことが起きる確率と悪いことが起きる確率は、良いことが起きるほうが高い。噂では7対3くらいの確率だそうだ。

 僕としては自分の命をベットできる確率だとは思えない。これが出現モンスターを鼻歌交じりに倒せるような階層であれば挑戦してみてもいいだろう。だが檜山たちは単体でしか会敵していないスモールウルフや、ゴブリンを相手に相田の回復魔法を必要としている。

「あ、あの、止めたほうが……」

「あぁん! 俺がビビってるとでも思ってんのか!?」

 僕はすぐに失言に気付いた。檜山としてはクソザコナメクジの僕に言われたから引いたと思われるわけにはいかないのだ。それは檜山のプライドが許さない。

「行くぞ、蒼太、弘樹」

 檜山たちはずんずんと妖精の小径へと入っていく。この階層を自力でポータルまで戻れない僕も付いていくしかなかった。
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