上 下
50 / 109

第五十話 物理法則の崩壊

しおりを挟む
「えっほえっほ」
「今通り過ぎた人って‥‥」
「手紙を運ぶ飛脚よ。もちろん日本の文化をパクらせてもらったわ」
「いつの時代の文化をパクってるのよ!」

「そうか、この世界には車がないんだ」
「今更何言ってるのよ、四郎」
「だから私達歩いて旅してるのね」
「小百合も気付くの遅すぎない? 本当に適当な性格ね」

「どうして交通手段を造らないわけ?」
「あんな複雑な機械造れるわけないでしょ」
「でも、人を走らせて手紙を届けさせるのはかわいそうだわ」
「その点は大丈夫よ。さっきの飛脚は精密なロボットだから」
「ロボットが造れるなら自動車だって造れるでしょ!」

「だいたいエンジンの仕組みがわからないのよ」
「わかりやすい方だと思うけど」
「何でガソリンを爆発させるとタイヤが動くわけ?」
「普通にピストンが動いて‥‥」

「もっとわからないものがあるわ。ミシンよ」
「服を縫うミシンのこと?」
「そう、そのミシンよ。どうして上の糸と下の糸が絡むわけ?」
「それは上の糸を布に刺して下の糸に絡めて‥‥」
「上の糸も下の糸も外に出してるのよ。いくら上の糸を上下させたって糸が絡まるわけないじゃない! でも縫えてるのよ。どうして縫えるのよ!」
「え?」

 小百合は説明しようとするが言葉が出ない。
『確かにいくら糸を上下させても下糸に絡めることなんてできないかも。下糸が外に出ていなかったらできるかもしれないけど』
「どうしたの? 説明しなさいよ」
小百合は必死で考えているが言葉が出てこない。私の勝ちね。

「小百合、どうしたの?」
「ええっと、それは‥‥」
「あなたたちの世界は物理世界よね。物理的に証明するのが好きなのよねぇ。でも身近なものですら説明できない。そうじゃなくて?」
ここぞとばかり私は畳みかける。気持ちがいいわね。
「どうして糸が絡むわけ? 小百合、答えてみなさいよ」
「ううう」

 もっと追い詰めるいい方法はないかしら? そうだ!
「あなた達は今気付いてはいけないものに気付いてしまったのよ。物理法則の穴よ。これに気付いてしまうと一気に物理世界は崩壊するわ。もうこれで表の世界は終りね。これからは新しい法則があなたたちを支配していくわ。そう、この異世界のようにね」
凄い! まさにSFの世界よね。私って作家になる才能があるんじゃないかしら!
「芽依、怖いよー」
もっと怖がりなさい。さあ精神崩壊までもう一息よ。

「ねえ、四郎もそう思うでしょ?」
「‥‥」
「四郎、どうしたの?」
あまりに難しい話についてこれなかった四郎は立ったまま放心状態になっていた。あなたが崩壊してどうするのよ!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

これ以上なにもするな!~ポンコツ魔女な婚約者のせいで酷い目に遭う男の話~

ROSE
ファンタジー
頼むからこれ以上なにもしないでくれ……。 僕には不相応な程、見目麗しい婚約者がいる。家柄だって釣り合わない。けれども彼女は過剰なくらい僕を愛してくれていて、押し切られる形で婚約してしまった。 が、彼女は魔女だった。魔法の腕は悪くないはずなのに、抜けてるなんてもんじゃない。 今日も彼女は無自覚に魔法を失敗していくのだ。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」

まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...