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第三十三話 押しちゃダメよ! 絶対に押しちゃダメよ!

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 特別警戒地域。ここは白の国との国境。今、私達黒の国と白の国はいがみ合っているの。いつ本格的な戦争に突入してもおかしくないわ。なぜこんな状況になっているかというと、白の国が悪いのよ。ちょっと私達黒の国が不法に白の国の領地を奪ったくらいで目くじら立てるのって、おかしくない? しかも白の国の全領土のちゃたった三分の一よ。

「絶対お前達が悪い」
「何か言った? 四郎」
「いえ、何も」

 私達は国境にある大きな建物へと入った。ここは最前線の指揮を執る基地よ。いざという時はこの建物が拠点となるわ。
「今日は特別にこの建物を案内してあげるわ。次期国王である私だからできることよ。感謝しなさい」

「何か異世界には似つかわしくない建物よね。完全にビルじゃない」
「当然よ。すぐに壊される建物じゃ困るわ」
「でも、これじゃ表の世界と変わらないよ」
「芽依まで何言ってるの。つべこべ文句を言わない」

「この部屋は最高指揮官室よ」
「これはこれはピピプル・クレタ・ビチャ・ウン○様。お久しぶりです」
「あら、ネグロ大佐、久しぶりね。元気だった?」
「はい、おかげさまで元気に任務に付かせていただいております」
「そう? 最近は白の国もちょっかいを出してこないみたいね」
「はい、何の動きもありません。平和そのものです」

「この人がネグロ大佐。ここの最高指揮官よ」
「ネグロです。よろしく」
「私は世直し旅のお供をしております小百合です。そして私の恋人の四郎にその妹の芽依です」
「ちょっと自己紹介がおかしいわよ」
油断も隙もないわね。

 そこへ一人の女性が入ってきた。
「ネグロ大佐。少しお話がございます」
「わかった。すみません。ちょっと席を外させていただきます。どうぞ、ごゆっくり」

「ネグロ大佐って格好いいわね。いかにも指揮官て感じで」
「ネグロ大佐の直属の上司は私よ。どう? ちょっとは尊敬したかしら?」
「上司に恵まれなかったのね」
「どういう意味よ!」

「それにしてもこの部屋いっぱいのモニターがあるね」
「芽依、いいところに気付いたわね。それはスパイ達から送られてくる映像よ。どれも機密情報だわ」
「大きなボタンもあるわね」
「小百合、そのボタンは絶対に押しちゃダメよ。大変なことになるわ」
「大変なことって、どうなるのよ?」

「このボタンは非常事態を告げるボタンなの。これを押すと第一級の攻撃態勢に入って、ここに常駐する特等兵達が一斉に白の国を攻撃することになるわ」
「ふーん」
「そうしたら責任者である私は軍法会議にかけられて下手をすれば死刑よ。四郎とも結婚できなくなるわ」
ポチッ!
「ちょっと小百合! 何ボタン押してるのよ!」

『緊急事態発令! 緊急事態発令! 総員直ちに戦闘態勢に入れ!』
「ちょっと待って!」
『第一種攻撃班、白の国を強力魔術で攻撃せよ』
『ダメよ!』

「これは一体どういうことだ」
ネグロ大佐が大慌てで入ってきた。
「ち、違うの。これはこいつが押して」
「誰が押そうと関係ありません。責任者はビチャ・○ンチ様ですから」
「ええーーー!!!」

『敵前線部隊の一部を壊滅。報復攻撃に備えてください』
モニターには破壊された建物が映っている。
「この責任はどうとられるおつもりですか?」
「責任て言われても・・・・」
「そうだ、このことを一刻も早くピピプル・クレタ・ビチャ・シッコ様に報告せねば」
「お願い! お姉ちゃんにだけは言わないで!」

「軍法会議の準備も必要だわ」
「本当に本当にごめんなさい!」
『敵軍の最強レベルの砲撃あり、着弾まであと十秒。着弾に備えてください!』
「ど、ど、どうしよう」
「何かに捕まって体を低くするんだ!」
「た、助けてー!」

シーン。
「何も・・・・起こらない・・・・わね」
「これはスパイが来ることを想定したダミーのボタンです。映像も全て偽物ですのでご安心ください」
「何よ! もう!」

「マリーの真剣に慌てる姿を見るのって最高よねぇ」
小百合は満面の笑顔でそっと下を向くのであった。
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