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第五十二章 凱旋帰宅
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三号は当然のように小百合の母親に飛びつこうとしたので、俺とマリーは慌てて三号を抱えるように抑え込んだ。こいつ正真正銘のバカだ。
「急にどうしたの?」
「気にしないでください」
「何か黒い尻尾のようなものが飛び出したように見えたけど」
「やだなあ。そんなことあるわけないじゃないですか」
俺とマリーは三号が小百合の母親に見えないように必死で覆いかぶさった。
「あらあら、あなたたち仲がいいのね。でもお嬢さん、いくら彼が見てないからって、他の男の子と病院の廊下で抱き合うのはまずくないかな?」
小百合の母親は苦笑いしている。
「私は太田君とは付き合っていません。私の彼はここにいる四郎‥‥」
今度は小百合がマリーに飛びついた。
「小百合までどうしたの?」
「何でもないの、お母さん。この娘の言うことは気にしないで!」
「ちょ、むがむが」
小百合は何もしゃべらせまいと必死でマリーの口を手で押さえている。
「ちょっと、はなし‥‥な‥‥むがむが」
その時若い看護師がやってきて小百合の母親に何かを伝えた。
「あの三人はもう一度精密検査をすることになったの。これで私は失礼するわね」
そう言い残すと小百合の母親はナースステーションへと帰っていった。助かったー。
それを見届けると俺たちはゆっくりと立ち上がった。厳密に言うと三号は悔しそうに尻尾で廊下をペンペンと叩いているのだが。
「ちょっと、マリー。いきなりお母さんに何言い出すのよ」
「あなたに引導を渡すいいチャンスじゃない」
「卑怯よ。こんなやり方」
「別に卑怯じゃないわ。真実を伝えようとしただけじゃない。四郎の家に住んでるのも事実だし。むしろ真実を隠そうとしてるのはあなたでしょ。そちらの方が卑怯じゃない」
「ふざけないで!」
「病院内ではお静かに願います」
通りすがりの看護師に注意されてしまった。
とりあえず俺たちは病院を後にすることにした。しかし、俺の足取りは重かった。
「どうしたの四郎君。早く行きましょう」
「鞄が重くて動かせないんだ」
「パパの仕業ね」
マリーは鞄を覗き込むと、
「ママには私からもパパのことを許してあげてって言うから家に帰ろう?」
と三号をなだめた。
「きゅるっぴ」
「まだ、死にたくないそうよ」
「本当にバカな奴だな。俺からも頼んでやるから大丈夫だって」
それを聞くと鞄はほんの少しだけ軽くなった。
「どうせ軽くするんだったら中途半端にするんじゃねえ。本当に往生際の悪い奴だな」
「きゅぴきゅぴきゅきゅっぴ」
「往生際って何? と言ってるわ」
「死ぬ間際って意味だよ」
それから俺は更に重くなった鞄を引きずって歩くのであった。
「急にどうしたの?」
「気にしないでください」
「何か黒い尻尾のようなものが飛び出したように見えたけど」
「やだなあ。そんなことあるわけないじゃないですか」
俺とマリーは三号が小百合の母親に見えないように必死で覆いかぶさった。
「あらあら、あなたたち仲がいいのね。でもお嬢さん、いくら彼が見てないからって、他の男の子と病院の廊下で抱き合うのはまずくないかな?」
小百合の母親は苦笑いしている。
「私は太田君とは付き合っていません。私の彼はここにいる四郎‥‥」
今度は小百合がマリーに飛びついた。
「小百合までどうしたの?」
「何でもないの、お母さん。この娘の言うことは気にしないで!」
「ちょ、むがむが」
小百合は何もしゃべらせまいと必死でマリーの口を手で押さえている。
「ちょっと、はなし‥‥な‥‥むがむが」
その時若い看護師がやってきて小百合の母親に何かを伝えた。
「あの三人はもう一度精密検査をすることになったの。これで私は失礼するわね」
そう言い残すと小百合の母親はナースステーションへと帰っていった。助かったー。
それを見届けると俺たちはゆっくりと立ち上がった。厳密に言うと三号は悔しそうに尻尾で廊下をペンペンと叩いているのだが。
「ちょっと、マリー。いきなりお母さんに何言い出すのよ」
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「別に卑怯じゃないわ。真実を伝えようとしただけじゃない。四郎の家に住んでるのも事実だし。むしろ真実を隠そうとしてるのはあなたでしょ。そちらの方が卑怯じゃない」
「ふざけないで!」
「病院内ではお静かに願います」
通りすがりの看護師に注意されてしまった。
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「鞄が重くて動かせないんだ」
「パパの仕業ね」
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「ママには私からもパパのことを許してあげてって言うから家に帰ろう?」
と三号をなだめた。
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「本当にバカな奴だな。俺からも頼んでやるから大丈夫だって」
それを聞くと鞄はほんの少しだけ軽くなった。
「どうせ軽くするんだったら中途半端にするんじゃねえ。本当に往生際の悪い奴だな」
「きゅぴきゅぴきゅきゅっぴ」
「往生際って何? と言ってるわ」
「死ぬ間際って意味だよ」
それから俺は更に重くなった鞄を引きずって歩くのであった。
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