ブラックテイルな奴ら

小松広和

文字の大きさ
上 下
53 / 56

第五十二章 凱旋帰宅

しおりを挟む
 三号は当然のように小百合の母親に飛びつこうとしたので、俺とマリーは慌てて三号を抱えるように抑え込んだ。こいつ正真正銘のバカだ。
「急にどうしたの?」
「気にしないでください」
「何か黒い尻尾のようなものが飛び出したように見えたけど」
「やだなあ。そんなことあるわけないじゃないですか」
俺とマリーは三号が小百合の母親に見えないように必死で覆いかぶさった。
「あらあら、あなたたち仲がいいのね。でもお嬢さん、いくら彼が見てないからって、他の男の子と病院の廊下で抱き合うのはまずくないかな?」
小百合の母親は苦笑いしている。
「私は太田君とは付き合っていません。私の彼はここにいる四郎‥‥」
今度は小百合がマリーに飛びついた。
「小百合までどうしたの?」
「何でもないの、お母さん。この娘の言うことは気にしないで!」
「ちょ、むがむが」
小百合は何もしゃべらせまいと必死でマリーの口を手で押さえている。
「ちょっと、はなし‥‥な‥‥むがむが」
 その時若い看護師がやってきて小百合の母親に何かを伝えた。
「あの三人はもう一度精密検査をすることになったの。これで私は失礼するわね」
そう言い残すと小百合の母親はナースステーションへと帰っていった。助かったー。
 それを見届けると俺たちはゆっくりと立ち上がった。厳密に言うと三号は悔しそうに尻尾で廊下をペンペンと叩いているのだが。
「ちょっと、マリー。いきなりお母さんに何言い出すのよ」
「あなたに引導を渡すいいチャンスじゃない」
「卑怯よ。こんなやり方」
「別に卑怯じゃないわ。真実を伝えようとしただけじゃない。四郎の家に住んでるのも事実だし。むしろ真実を隠そうとしてるのはあなたでしょ。そちらの方が卑怯じゃない」
「ふざけないで!」
「病院内ではお静かに願います」
通りすがりの看護師に注意されてしまった。

 とりあえず俺たちは病院を後にすることにした。しかし、俺の足取りは重かった。
「どうしたの四郎君。早く行きましょう」
「鞄が重くて動かせないんだ」
「パパの仕業ね」
マリーは鞄を覗き込むと、
「ママには私からもパパのことを許してあげてって言うから家に帰ろう?」
と三号をなだめた。
「きゅるっぴ」
「まだ、死にたくないそうよ」
「本当にバカな奴だな。俺からも頼んでやるから大丈夫だって」
それを聞くと鞄はほんの少しだけ軽くなった。
「どうせ軽くするんだったら中途半端にするんじゃねえ。本当に往生際の悪い奴だな」
「きゅぴきゅぴきゅきゅっぴ」
「往生際って何? と言ってるわ」
「死ぬ間際って意味だよ」
それから俺は更に重くなった鞄を引きずって歩くのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...