ブラックテイルな奴ら

小松広和

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第三十三章 運命のボタン

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 ドラゴンと戦う? 本気かよ!
 俺の落ち込みも知らず芽依は明るい声で聞いた。
「お兄ちゃん。鉛筆削り貸して」
「ああ、かまわんが。さっきからお前は何をしてるんだ?」
「宿題の日記を書いてるの」
ふうんと言いながら軽く芽依が書いている作文を覗いてみると『ファイヤードラゴンとの死闘 ープロローグ編ー』と書かれていた。
「何を書いとるんだ!」
「ファイヤードラゴン退治の記録だよ」
「それは作文じゃないだろう!」
「だって嘘じゃないもん」
「第一このことは誰にも教えるなって言ったはずだぞ」
「大丈夫だよ。こんなの誰も信じないから」
「じゃあ、嘘を書いているのと同じだ」
「兄よ、それは誤解というものだ」
「何だよ。急に変な言い方をして」
「もし我々のパーティが全滅した場合、この作文が後の貴重な史料になるのだよ。その時のためにこの芽依様がわざわざ執筆しているというわけだ。わかるかね」
「パーティって。とにかくお前はアニメやラノベの読み過ぎだ。あとゲームもし過ぎだ」
「あれ、この鉛筆削り動かないよ」
「人の話を聞け!」
どうせ鉛筆削りに三号の毛でも詰まっているのだろうと思い、俺は立ち上がって自分の勉強机へと向かった。
 案の定何かが詰まって動かない感じだ。俺はコンセントを抜くと鉛筆削りを分解して調べ始めた。中から出てきたのはマリーが資料の写真を見せる時に使う小さなボタンと同じ物だった。
「何だ? これは?」
俺はこのボタンをちゃぶ台の上に置いて押してみた。
 すると若い女性の立体映像が現れたかと思うとゆっくり話し始めた。
「ピピプルさん、こんにちは。いつも楽しいお話をしてくれてありがとうございます。今回は映像付きで遅らせていただきました。私の映像を見て嫌いにならないでくださいね」
「何よ、これ」
小百合は興味深げに尋ねた。
「うーむ。どうやら三号が若い女の子と文通をしているようだな」
「ええ、奥さんいるのに?」
いかにも驚いているように聞こえるが、顔は微かに微笑んでいる。
「とにかくあの三人がいない時に見つかって良かったな。もし二号がいたらこの部屋は崩壊間違いなしだ」
「どこかに隠しておいた方がいいんじゃない? ピピプル家がどうなるかはプロジェクトが無事終了してからのお楽しみってことにして」
小百合はかわいい笑顔で恐ろしいことを言う。
「しかし、隠すと言ってもどこに隠せばいいんだ? 俺よりあいつらの方がこの部屋にいる時間が長いし」
「芽依の部屋に置いてこようか?」
よく見ると芽依も笑みを浮かべている。
「そうだな。じゃあ、芽依が預かってくれ」
「絶対なくさないところに保管してね」
それにしても自分の一点五倍もの魔力を持つ奥さんを敵に回すようなことをするなんて、三号もどうかしてるぜ。下手すりゃ命も危ないんじゃないか? などと考えていると、
「たっだいま~」
「ああいあ」
「きゅるっぴ」
とピピプル一族が帰ってきた。
「お帰りなさい」
と小百合は笑顔で答え、芽依と目を見合わせてくすくすっと笑った。
「どうしたの? 変な雰囲気だけど」
「何でもないわ。こちらは今のところとても平和よ」
小百合の言葉に不信を抱きながらもマリーはそれ以上聞かなかった。
「じゃあ、早速ファイヤドラゴンについてのレクチャーを始めるわよ」
マリーはちゃぶ台の上に例の小さなボタンを置いた。
 それを見て芽依はこらえきれずに笑い出す。芽依、何を考えてるんだ? 
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