26 / 56
第二十五章 仕分け作業
しおりを挟む
次の日、俺たちはやっと本格的な会議を開始することができた。とは言え、今日は夏休み中の登校日とかで芽依は学校へと出かけて行っていないが。
「今日の仕事は単純だけど重要よ」
マリーが長い呪文を唱えるとちゃぶ台の上にたくさんの紙が現れた。
「これは私が調べてきた内容を日本語に転写したものなの。今日の作業はこの膨大な史料を信憑性の高い物と低い物に分けることよ」
そう言い終わるとマリーは二つの箱を机に出した。箱にはそれぞれ「〇」と「×」が書かれている。
俺達は手分けして作業を進めることにした。さっきマリーは単純と言ったが、俺には決して単純ではなかった。第一俺は信憑性なる文字を使いこなせるレベルではない。この二人は頭が良さそうなので作業をすいすい進めているが、俺にはどこを持って高いのか、どの辺が低いのかがさっぱりわからない。さっきから適当に見てわからないものはそっとちゃぶ台の上に戻す作業を繰り返しているだけだ。
しかし、そんな状況の中、俺にも判断できる史料を発見することができた。
「三回まわってワンを一時間毎に繰り返し、全部で三百六十日間行う」
こんなのあり得ねえ。俺は自信を持って没の方にこれを置いた。するとマリーが、
「ちょっと、これは信憑性が高いわ」
「何でだあ?」
「三百六十という数字が問題なの。私達の世界では三百六十を基準に全ての数字が回っているのよ」
そんなのわかる訳ないだろう!
だが、今度のは間違えなくあり得ねえ。
「火の竜の髭を主材料にした薬剤を作る」
俺は今度こそ自信を持って没の方に‥‥
「ちょっと見せて」
またマリーの検問だ。
「これは没にするのは早いわね」
「何故だ! 火の竜なんているわけないだろうが」
「いるわ。私達の世界にはね」
少しの間沈黙が続いた。
「本当なの?」
小百合が沈黙を破って声を上げる。
「本当よ。私も実物を見たことあるの」
とんでもないことに首を突っ込んでしまったものだ。ドラゴンだぞドラゴン。しかも火を噴くドラゴンだ。冗談じゃない。尻尾アクセサリーがしゃべるレベルで驚いていた時が懐かしい。
ちゃぶ台の上の史料を大雑把に仕分けることができたのは午後一時を回る頃だった。
「少し片付いたわね」
小百合は大きく伸びをしながら言った。
「さあ、お昼にしましょうか」
「じゃあ、何か食べるもの探してくるよ」
「いいわ。私サンドイッチ作ってきたの。二人分あるから一緒に食べましょ」
この言葉にマリーが反応する。
「ちょっと二人分てどういうことよ」
「あら、あなたはご飯食べないでしょ」
「それはそうだけど」
「良かったら私の作ったサンドイッチでも見学してたら? 将来好きな人のためにこんなの作れたらいいわね」
昨夜の反撃とばかり小百合がマリーに口撃する。
「もう、勝手にしたら。私は没の中に見落としがないか調べてるから」
それを聞くと小百合は袋から可愛いタッパーをいくつか取り出した。
「これが卵でしょう。そしてこっちがハムとチーズ。四郎君のために一生懸命作ったんだから全種類食べてよね」
マリーは小百合と俺をちらりと見た。
「それからね、こっちが凄いんだから。何と蟹が挟んであるの」
「本当か? 蟹蒲鉾じゃないのか?」
「本物よ。嘘だと思うんだったら食べて見てよ。美味しいんだから」
マリーは我慢している。
「更に今日はもう一つあるの。じゃん。胡瓜に蜂蜜のサンドイッチ。メロンの味がするんだって」
「嘘だろ、そんなの」
「本当よ」
「味見したのか?」
「してないけど大丈夫よ。テレビで言ってたもん」
マリーは我慢している。
「じゃあ、小百合から食べろよ」
「ええ! 四郎君が食べてよ」
「小百合からだって」
「もう、四郎君が先に食べてったら」
マリーは我慢している。
「もう仕方ないわね。だったら私が食べさせてあげる。はい、アーンして」
「こぉらー! 林郷小百合ー! 黙って聞いてれば調子に乗りおって。許さん!」
またこのパターンだ。マリーって意外に単純なのか?
「ちょっと、マリー止めなさいよ」
そんな小百合の言葉も聞かずマリーは呪文を唱えた。部屋には雷鳴が轟き小百合の上に鍋やらヤカンやらが降り始める。どうやらマリーの黒魔術はレパートリーが少ないようだ。小百合はとっさにちゃぶ台の下に潜り難を逃れた。避難訓練も意外なところで役立つものである。
「卑怯者出てきなさいよ」
「あなたこそ黒魔術使うなんて卑怯じゃない」
「尻尾が黒魔術使ってどこが悪い!」
ほとんど理屈が通っていない。俺の部屋はこのままいくと土鍋とヤカンに埋め尽くされそうだ。
「マリー、私に黒魔術を使ったわね。今日から私と暮らすことになるのよね」
「これはあなたに使ったわけじゃないわ」
「どういうこと?」
「浮気をした四郎に使ったのよ」
「本当、口の減らない女ね」
「あなたとは出来が違うのよ」
「尻尾アクセサリーの分際で人間と比較されようなんて百年早いわ!」
小百合は鞄からゴム手袋を取り出すとそれを手にはめマリーを捕まえようと試みた。マリーは捕まるまいとするりと小百合の手から抜け出る。小百合も逃がすまいと手を動かす。まるでドジョウ掬いを見ているようだ。
やがて粘り勝ちした小百合がマリーを握り締める。
「覚悟なさい」
「さあ、それはどうかしら?」
小百合が突然のどに手をやる。息苦しそうだ。
「これは確実に黒魔術を使ったわよね」
「それがどうかした?」
「今日からあなたは私と暮らさなければいけないのよね」
「なんで私があんたと暮らさなければいけないのよ」
「そういう決まりなんでしょ?」
「そんなの私が作ったルールだから、私は破ってもいいのよ」
「な、な、な、何ですってー!!!」
全く作業が進まない。やはりこの二人が協力するなんてありえないのだろうか。
「今日の仕事は単純だけど重要よ」
マリーが長い呪文を唱えるとちゃぶ台の上にたくさんの紙が現れた。
「これは私が調べてきた内容を日本語に転写したものなの。今日の作業はこの膨大な史料を信憑性の高い物と低い物に分けることよ」
そう言い終わるとマリーは二つの箱を机に出した。箱にはそれぞれ「〇」と「×」が書かれている。
俺達は手分けして作業を進めることにした。さっきマリーは単純と言ったが、俺には決して単純ではなかった。第一俺は信憑性なる文字を使いこなせるレベルではない。この二人は頭が良さそうなので作業をすいすい進めているが、俺にはどこを持って高いのか、どの辺が低いのかがさっぱりわからない。さっきから適当に見てわからないものはそっとちゃぶ台の上に戻す作業を繰り返しているだけだ。
しかし、そんな状況の中、俺にも判断できる史料を発見することができた。
「三回まわってワンを一時間毎に繰り返し、全部で三百六十日間行う」
こんなのあり得ねえ。俺は自信を持って没の方にこれを置いた。するとマリーが、
「ちょっと、これは信憑性が高いわ」
「何でだあ?」
「三百六十という数字が問題なの。私達の世界では三百六十を基準に全ての数字が回っているのよ」
そんなのわかる訳ないだろう!
だが、今度のは間違えなくあり得ねえ。
「火の竜の髭を主材料にした薬剤を作る」
俺は今度こそ自信を持って没の方に‥‥
「ちょっと見せて」
またマリーの検問だ。
「これは没にするのは早いわね」
「何故だ! 火の竜なんているわけないだろうが」
「いるわ。私達の世界にはね」
少しの間沈黙が続いた。
「本当なの?」
小百合が沈黙を破って声を上げる。
「本当よ。私も実物を見たことあるの」
とんでもないことに首を突っ込んでしまったものだ。ドラゴンだぞドラゴン。しかも火を噴くドラゴンだ。冗談じゃない。尻尾アクセサリーがしゃべるレベルで驚いていた時が懐かしい。
ちゃぶ台の上の史料を大雑把に仕分けることができたのは午後一時を回る頃だった。
「少し片付いたわね」
小百合は大きく伸びをしながら言った。
「さあ、お昼にしましょうか」
「じゃあ、何か食べるもの探してくるよ」
「いいわ。私サンドイッチ作ってきたの。二人分あるから一緒に食べましょ」
この言葉にマリーが反応する。
「ちょっと二人分てどういうことよ」
「あら、あなたはご飯食べないでしょ」
「それはそうだけど」
「良かったら私の作ったサンドイッチでも見学してたら? 将来好きな人のためにこんなの作れたらいいわね」
昨夜の反撃とばかり小百合がマリーに口撃する。
「もう、勝手にしたら。私は没の中に見落としがないか調べてるから」
それを聞くと小百合は袋から可愛いタッパーをいくつか取り出した。
「これが卵でしょう。そしてこっちがハムとチーズ。四郎君のために一生懸命作ったんだから全種類食べてよね」
マリーは小百合と俺をちらりと見た。
「それからね、こっちが凄いんだから。何と蟹が挟んであるの」
「本当か? 蟹蒲鉾じゃないのか?」
「本物よ。嘘だと思うんだったら食べて見てよ。美味しいんだから」
マリーは我慢している。
「更に今日はもう一つあるの。じゃん。胡瓜に蜂蜜のサンドイッチ。メロンの味がするんだって」
「嘘だろ、そんなの」
「本当よ」
「味見したのか?」
「してないけど大丈夫よ。テレビで言ってたもん」
マリーは我慢している。
「じゃあ、小百合から食べろよ」
「ええ! 四郎君が食べてよ」
「小百合からだって」
「もう、四郎君が先に食べてったら」
マリーは我慢している。
「もう仕方ないわね。だったら私が食べさせてあげる。はい、アーンして」
「こぉらー! 林郷小百合ー! 黙って聞いてれば調子に乗りおって。許さん!」
またこのパターンだ。マリーって意外に単純なのか?
「ちょっと、マリー止めなさいよ」
そんな小百合の言葉も聞かずマリーは呪文を唱えた。部屋には雷鳴が轟き小百合の上に鍋やらヤカンやらが降り始める。どうやらマリーの黒魔術はレパートリーが少ないようだ。小百合はとっさにちゃぶ台の下に潜り難を逃れた。避難訓練も意外なところで役立つものである。
「卑怯者出てきなさいよ」
「あなたこそ黒魔術使うなんて卑怯じゃない」
「尻尾が黒魔術使ってどこが悪い!」
ほとんど理屈が通っていない。俺の部屋はこのままいくと土鍋とヤカンに埋め尽くされそうだ。
「マリー、私に黒魔術を使ったわね。今日から私と暮らすことになるのよね」
「これはあなたに使ったわけじゃないわ」
「どういうこと?」
「浮気をした四郎に使ったのよ」
「本当、口の減らない女ね」
「あなたとは出来が違うのよ」
「尻尾アクセサリーの分際で人間と比較されようなんて百年早いわ!」
小百合は鞄からゴム手袋を取り出すとそれを手にはめマリーを捕まえようと試みた。マリーは捕まるまいとするりと小百合の手から抜け出る。小百合も逃がすまいと手を動かす。まるでドジョウ掬いを見ているようだ。
やがて粘り勝ちした小百合がマリーを握り締める。
「覚悟なさい」
「さあ、それはどうかしら?」
小百合が突然のどに手をやる。息苦しそうだ。
「これは確実に黒魔術を使ったわよね」
「それがどうかした?」
「今日からあなたは私と暮らさなければいけないのよね」
「なんで私があんたと暮らさなければいけないのよ」
「そういう決まりなんでしょ?」
「そんなの私が作ったルールだから、私は破ってもいいのよ」
「な、な、な、何ですってー!!!」
全く作業が進まない。やはりこの二人が協力するなんてありえないのだろうか。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる