ブラックテイルな奴ら

小松広和

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第十一章 一番大切なこと

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 マリーは朝のことが気になっているのか、その日は一日中何も話さなかった。
 家に帰ってからもマリーの無言劇は続く。俺が何を話しかけても『そうね』と気のない返事が返って来るだけだ。
 俺の部屋は久しぶりに静かな夜を迎えている。音らしい音と言えば先ほど三号が鉛筆削りに自分の尻尾をつっこみ大騒ぎをしたくらいだろうか。窓の外からは電車が鉄橋を渡る音や救急車のサイレンが小さく聞こえてくる。この部屋からもこんな音が聞こえてくるのかと新たな発見をしながら俺は窓の外を眺め続けた。
 マリーはというと俺と同じように窓から外を眺めていた。俺はダメ元でもう一度声をかけてみることにした。
「怒ってるのか?」
「怒ってなんかいないわ」
意外にも『そうね』以外の返答が返ってきた。
「じゃあ、何故しゃべらないんだ?」 
「あなたこそ今朝のこと怒ってないの?」
「今朝のことって小百合との仲を邪魔したことか?」
「違う! 無理心中の方よ」
「ああ、あれはさすがに驚いたな」
「校舎の屋上から飛び降りて本当に大丈夫だと思う?」
「おい、どういういみだ? まさか嘘ついて・・・・」
「私の計算って正しいと思う?」
マリーの声が大きくなっていく。
「私のことをどこまで信頼できるの? 一緒に屋上から飛び降りることができるの?」
俺はマリーの迫力に言葉を失っていた。
「勿論私の計算に狂いはなかったわ。でもそんなことはどうでもいいの。大切なのはあなたがどう受け止めるかってことよ」
マリーの目からはきらりと光る水滴がこぼれる。
「マリー」
俺はそっとマリーの毛を撫でた。
「私、今まで自分の立場でしかものを言えなかった気がする。そしてすべてのことに自分の立場でしか考えられていなかった。だからあなたの気持ちなんて考えられなかったのよ。でもあいつが『大好きな人に怖い思いなんてさせたくないもの』って言った時、私は何も言い返せなかった。悔しかった。一番大切なことを一番言われたくない人に言われてしまったのよ」
「お前」
「何よ」
「俺のこと好きなのか?」
「いや、ちがっ‥‥いや違わないけど‥‥もう何言わせるのよ!」
俺は一人慌てるマリーをじっと見た。
「何か言いたいこと言ったらすっきりしちゃった。もう寝るわよ。」
そう言うとマリーは急いでベットへと飛んで行った。
 俺はベッドに入ると顔の横で眠るマリーを見つめ小さな声で呟いた。
「ごめん。俺、明日はお前を裏切ることになる。今の俺にとって小百合との約束が一番大切なんだ」
本当にごめんマリー。
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