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第1章 運命の出会い

第19話 達者で暮らせよ

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 とても大きな町に着きました。町と言うより街でしょうか。異世界的には街はイメージに合わないので町にしておきましょう。でもとても大きいのです。何でも揃っている感じです。武器屋はもちろん、服屋にレストラン、お城に教会、ゲームセンターまであります。何でもあるのはいいのですがゲームセンターは異世界には不似合いすぎですね。

「ここならリーサも苦労せずに生きて行けそうだな」
ミーニャさんが感慨深げに頷いています。
「どうだリーサ。この町は気に入ったか?」
「はい、とても大きな町ですし何でも揃っているようなので暮らしやすそうです」
「それはよかった」
ミーニャさんは時計台の方を眺め、またまた頷きます。

「これだけ大きな町ならかなりの数のクエストが張り出されているだろう。きっとリーサレベルでもクリアできる物もあるはずだ。もうお金に困ることもないな」
「本当ですか? 嬉しいです」
私は素直に喜びます。怖い思いをしなくてもお金を稼げるとしたら、これほど嬉しいことはありませんから。

「これで私たちの旅も終わりだな」
「え?」
今何て言いました? 私たちの旅が終わりとか? どういう意味でしょうか?
「ここならリーサ独りでも生きていけるだろう。この町までリーサを送り届けるのが私の役目だったからな」
え? え? え? それって・・・・。

「私は魔王城に帰ることにしよう」
嘘ですよね? ということは? ということは? もう私は強いモンスターと戦わされたり、怖いモンスターに囲まれたり、ミーニャさんの機嫌を損なわないよう気遣ったりしなくていいのでしょうか?

「達者で暮らせよ」
「はい!」
これは降って湧いたような幸福。信じられません。私は自由の身になるのです!
「何か嬉しそうだな?」
「め、滅相もない!」
これはいけません。思わず笑みがこぼれていたようです。せっかく幸せになるチャンスを自ら放棄するところでした。

「私はミーニャさんと離ればなれになるなんて考えられません」
ちょっと大げさだったでしょうか? でもミーニャさんの機嫌を損ね、この場で生涯を終えるわけにはいかないのです。幸せな明日が目の前にあるわけですから。

「それは真か! とても嬉しいぞ」
うまくいきました。嘘も方便ですよね。
「だったら、ここから東に200キロ歩いた所にここよりもっと大きな町がある。そこまで一緒に行こう。私はリーサに徹底的に付き合うことに決めたぞ!」
「それはダメです」
我が身可愛さに思わず否定してしまいました。

「どういうことだ?」
ミーニャさんの顔色が変わりました。これは明らかに失言だったようです。何とか取り繕わねばなりません。でないと私の儚き命が消えてしまいます。
「私はいつまでも一緒にいたいですが、ミーニャさんはこの世界を牛耳るという大役があります。私ごときに構っていてはいけません」
とても説得力のある意見が言えました。我ながら自分の才能が怖いです。

「四天王がいるから大丈夫だぞ」
「それはダメです」
「どうしてだ?」
またまたやってしまいました。でも引き下がるわけにはいきませんから、この路線で説得を続けることにします。
「もし四天王の誰かが下剋上を起こそうと考えたらどうするのですか?」
「おー! そこまで私のことを真剣に考えてくれているのか?」
やはり私は天才でした。これで安心です。

「よし決めたぞ! リーサ、お前ともう少し一緒にいることにしよう」
「どうしてそうなるんですか!?」
私は目に涙を浮かべて渾身のツッコミを入れました。先ほどの微かな希望の光は儚い夢だったのでしょうか?

「ん? 心なしか落ち込んでないか?」
「そんなわけないじゃないですか。やだなー」
ミーニャさんが私を疑惑の目で見つめています。確かに今の言葉はわざとらしさが滲み出ていました。

「リーサ、少し聞くが本当に私と離れたくないと思っているのだな?」
「勿論じゃないですか! リーサさんといればとても安心できますし、年齢の近い親友が一緒だと楽しいですし・・・・」
思いっきり嘘を並べてしまいました。

「そうだろう。私も同じくらいの友ができて嬉しく思ってたんだ!」
妙なツボを押してしまったようです。ミーニャさんの目が輝き始めました。
「私はラスボスをやっている手前、同世代の同性と接する機会が極端に少ないのだ。そんな中リーサに会った・・・・」
ここで同情してはいけません。耐えるのです私! それは少しはお姉さん的存在ができて嬉しくも思いましたが。

「ところでリーサはいくつだ」
年齢でしょうか? 私はまだ若い方ですから別に隠すことはないのですが、ミーニャさんとの年齢差が予想以上に大きいとがっかりするかも知れません。せっかく同世代の友達と喜んでいますのに。

「私は19歳です。ミーニャさんはおいくつですか?」
「私か。私は17になる」
え? ええーーー! まさかの年下でした! 17歳と言えば女子高生の年齢ではありませんか。それでこのセクシーさですか。何かが間違っています。

「ん? 心なしか落ち込んでないか?」
「はい、少し」
どう考えたって私が妹です! こうして私は新たな悩みに落ち込んでしまうのでした。
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