40 / 45
第4章 熱き逃亡の果てに
第40話 萌の正体
しおりを挟む
萌は何も言わず下を向いたまま立っている。
「役目を立派に果たせたな。初めての仕事にしては上出来だ。ゆっくり休むといい」
男は優しく萌に話しかけた。
「どういうこと?」
胡桃が大きな声を出す。
「どうやら何が起こっているのかを把握できていないようだな。無理もない。説明しよう」
「止めて!」
男の言葉を萌が激しく制した。
「どうしたIM21。何が起こっているのか説明をしてあげるのが親切というものではないのか?」
「お願いだから。止めて!」
「スパイ養成学校の優等生から出る言葉とは思えないな」
「スパイ?」
胡桃は思わず聞き直した。萌がスパイってどういうことだ?
「こいつは今田萌ではなくIM21と呼ばれるスパイだ。そう、お前達と同じ二十一世紀の人間ではなく、この世界の人物ということになる」
「まさか嘘だろ!?」
俺は思わず叫んだ。
「残念ながら本当だ」
「どういうこと?」
胡桃も信じられないといった声で聞く。
「IM21の使命はこの世界の秘密を知ってしまった者を捕獲すること」
俺と胡桃は萌を見た。萌はじっと下を向いたまま何も話さない。
なぜだ! そんなバカな話があるわけないだろう。萌は今まで俺達と逃走してきたんだぞ? スパイならどうしてそんな手の込んだことをする必要があるのだ?
「そうなの萌? 私たちを騙していたの?」
胡桃は意外と落ち着いた声で話す。俺はパニック寸前だ。
「おかしいだろ!? スパイなら俺達がこの世界に来たときに捕まえれば済むことだ。何で一緒に逃亡生活をする必要があるんだ?」
「それは我々も理解に苦しむところだ。我がタイムパトロールもIM21からの連絡がなかなか来ないので自ら動いたというわけだ。事の真相は後ほどゆっくり聞くことにしよう」
「萌! お前は俺を騙してたのか? 俺のことを好きだって言ったのは全部嘘なのか?」
萌は相変わらず視線を下に向け無言を貫いている。
「俺は女にもてたって何とも思わねえ。だがお前と接する内に人を愛することの意味がわかってきたような気がしてたんだ。なのに全部口から出任せの愛だったのかよ!」
俺の目からは一粒の涙がこぼれた。自我が芽生えてから初めての涙かも知れない。俺が女の前で涙を見せるなんて考えられないことだ。
でも、考えてみればこんな簡単にこの世界に来られるわけがない。いくらなんでもセキュリティが甘すぎる。あれはわざとだったのか。今考えてみると学校でも不思議なことが起こりすぎていた。定期の記憶がなくなった美紀とか。定期の音が聞こえないクラスメイトとか。これら全部萌が操作していたことだったというのか。
「萌! 何とか言えよ!」
どう思われたっていい。俺は涙を拭うこともせず萌に向かって叫んだ。
「初めはそうだった。騙してた。でも、途中からは騙そうなんて気持ちはなくなっていったの。本当よ。信じて!」
黙り続けていた萌がようやく口を開いた。
「嘘つけ!」
「私、宮本君や胡桃と行動するに連れて気持ちが変わっていったの。最後は本気で二人を逃がそうとしてた」
「何わけのわからないことを言ってるんだ! お前は俺達を導くのが役目なんだろ? 今更繕うなよ!」
「嘘じゃないわ。今は本気で真歴君が好き」
「嘘つけ!」
「嘘じゃないわ」
別に萌のことを好きだったわけではないが、純粋な男心を弄びやがってという激しい感情がこみ上げてくる。人に恨みの感情を持ったのは初めてかも知れない。
「お願い信じて」
萌は涙を流しながら俺の手を両手で掴んだ。
「止めろ! 何で今になってこんなことをする必要があるんだ!」
俺は萌の手を振り払った。萌はその場にしゃがみ込むと大きな声を出して泣き始めた。
「では、ご同行願おうか」
男が手錠のようなものを出した。男以外に数名の警察官らしき人物が俺達を囲むようにして立っている。恐らくもうどうすることもできないのだろう。
考えてみれば俺はつまらぬ人間だ。人を見る目がないばかりか先のことを考えることもできない。わけのわからない夢ばかりを追い続けるだけで計画性なんて欠片もない。そればかりか周りの者を巻き込んで、人の人生まで変えてしまって。胡桃、ごめん。俺がいなければお前はきっと幸せになっていたはずだ。
「うおーーーー!」
俺は泣いた。誰もが驚くほどの大きな声で泣いた。恥ずかしさなんて微塵も感じない。もうどうなったっていい。
「真歴・・・・」
胡桃が小さな声で呟く。
「真歴君・・・・ごめんなさい。私、私・・・・今の私は本気であなたを愛してるわ。だから」
萌はそう言うと突然男に体当たりをした。
「逃げて!」
「そんなことをすると反逆者扱いになるぞ。それでもいいのかIM21!」
「反逆者になってもいいわ。これが答えよ。早く逃げて」
俺は目の前で何が起こっているのか把握できないでいる。萌は何をしているのだ?
「何してるの!? 早く逃げなさい!」
萌の必死の叫びに俺と胡桃はようやく反応した。
「すまない萌」
俺たちは男の横をすり抜け懸命に走った。警官達も予想外な展開に一瞬固まっていたのか俺と胡桃をとっさに止めることはできなかった。
「こら、待て!」
後ろから男の声が聞こえた。
「役目を立派に果たせたな。初めての仕事にしては上出来だ。ゆっくり休むといい」
男は優しく萌に話しかけた。
「どういうこと?」
胡桃が大きな声を出す。
「どうやら何が起こっているのかを把握できていないようだな。無理もない。説明しよう」
「止めて!」
男の言葉を萌が激しく制した。
「どうしたIM21。何が起こっているのか説明をしてあげるのが親切というものではないのか?」
「お願いだから。止めて!」
「スパイ養成学校の優等生から出る言葉とは思えないな」
「スパイ?」
胡桃は思わず聞き直した。萌がスパイってどういうことだ?
「こいつは今田萌ではなくIM21と呼ばれるスパイだ。そう、お前達と同じ二十一世紀の人間ではなく、この世界の人物ということになる」
「まさか嘘だろ!?」
俺は思わず叫んだ。
「残念ながら本当だ」
「どういうこと?」
胡桃も信じられないといった声で聞く。
「IM21の使命はこの世界の秘密を知ってしまった者を捕獲すること」
俺と胡桃は萌を見た。萌はじっと下を向いたまま何も話さない。
なぜだ! そんなバカな話があるわけないだろう。萌は今まで俺達と逃走してきたんだぞ? スパイならどうしてそんな手の込んだことをする必要があるのだ?
「そうなの萌? 私たちを騙していたの?」
胡桃は意外と落ち着いた声で話す。俺はパニック寸前だ。
「おかしいだろ!? スパイなら俺達がこの世界に来たときに捕まえれば済むことだ。何で一緒に逃亡生活をする必要があるんだ?」
「それは我々も理解に苦しむところだ。我がタイムパトロールもIM21からの連絡がなかなか来ないので自ら動いたというわけだ。事の真相は後ほどゆっくり聞くことにしよう」
「萌! お前は俺を騙してたのか? 俺のことを好きだって言ったのは全部嘘なのか?」
萌は相変わらず視線を下に向け無言を貫いている。
「俺は女にもてたって何とも思わねえ。だがお前と接する内に人を愛することの意味がわかってきたような気がしてたんだ。なのに全部口から出任せの愛だったのかよ!」
俺の目からは一粒の涙がこぼれた。自我が芽生えてから初めての涙かも知れない。俺が女の前で涙を見せるなんて考えられないことだ。
でも、考えてみればこんな簡単にこの世界に来られるわけがない。いくらなんでもセキュリティが甘すぎる。あれはわざとだったのか。今考えてみると学校でも不思議なことが起こりすぎていた。定期の記憶がなくなった美紀とか。定期の音が聞こえないクラスメイトとか。これら全部萌が操作していたことだったというのか。
「萌! 何とか言えよ!」
どう思われたっていい。俺は涙を拭うこともせず萌に向かって叫んだ。
「初めはそうだった。騙してた。でも、途中からは騙そうなんて気持ちはなくなっていったの。本当よ。信じて!」
黙り続けていた萌がようやく口を開いた。
「嘘つけ!」
「私、宮本君や胡桃と行動するに連れて気持ちが変わっていったの。最後は本気で二人を逃がそうとしてた」
「何わけのわからないことを言ってるんだ! お前は俺達を導くのが役目なんだろ? 今更繕うなよ!」
「嘘じゃないわ。今は本気で真歴君が好き」
「嘘つけ!」
「嘘じゃないわ」
別に萌のことを好きだったわけではないが、純粋な男心を弄びやがってという激しい感情がこみ上げてくる。人に恨みの感情を持ったのは初めてかも知れない。
「お願い信じて」
萌は涙を流しながら俺の手を両手で掴んだ。
「止めろ! 何で今になってこんなことをする必要があるんだ!」
俺は萌の手を振り払った。萌はその場にしゃがみ込むと大きな声を出して泣き始めた。
「では、ご同行願おうか」
男が手錠のようなものを出した。男以外に数名の警察官らしき人物が俺達を囲むようにして立っている。恐らくもうどうすることもできないのだろう。
考えてみれば俺はつまらぬ人間だ。人を見る目がないばかりか先のことを考えることもできない。わけのわからない夢ばかりを追い続けるだけで計画性なんて欠片もない。そればかりか周りの者を巻き込んで、人の人生まで変えてしまって。胡桃、ごめん。俺がいなければお前はきっと幸せになっていたはずだ。
「うおーーーー!」
俺は泣いた。誰もが驚くほどの大きな声で泣いた。恥ずかしさなんて微塵も感じない。もうどうなったっていい。
「真歴・・・・」
胡桃が小さな声で呟く。
「真歴君・・・・ごめんなさい。私、私・・・・今の私は本気であなたを愛してるわ。だから」
萌はそう言うと突然男に体当たりをした。
「逃げて!」
「そんなことをすると反逆者扱いになるぞ。それでもいいのかIM21!」
「反逆者になってもいいわ。これが答えよ。早く逃げて」
俺は目の前で何が起こっているのか把握できないでいる。萌は何をしているのだ?
「何してるの!? 早く逃げなさい!」
萌の必死の叫びに俺と胡桃はようやく反応した。
「すまない萌」
俺たちは男の横をすり抜け懸命に走った。警官達も予想外な展開に一瞬固まっていたのか俺と胡桃をとっさに止めることはできなかった。
「こら、待て!」
後ろから男の声が聞こえた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
秘密部 〜人々のひみつ〜
ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。
01
雪町フォトグラフ
涼雨 零音(すずさめ れいん)
ライト文芸
北海道上川郡東川町で暮らす高校生の深雪(みゆき)が写真甲子園の本戦出場を目指して奮闘する物語。
メンバーを集めるのに奔走し、写真の腕を磨くのに精進し、数々の問題に直面し、そのたびに沸き上がる名前のわからない感情に翻弄されながら成長していく姿を瑞々しく描いた青春小説。
※表紙の絵は画家の勅使河原 優さん(@M4Teshigawara)に描いていただきました。
ボイス~常識外れの三人~
Yamato
ライト文芸
29歳の山咲 伸一と30歳の下田 晴美と同級生の尾美 悦子
会社の社員とアルバイト。
北海道の田舎から上京した伸一。
東京生まれで中小企業の社長の娘 晴美。
同じく東京生まれで美人で、スタイルのよい悦子。
伸一は、甲斐性持ち男気溢れる凡庸な風貌。
晴美は、派手で美しい外見で勝気。
悦子はモデルのような顔とスタイルで、遊んでる男は多数いる。
伸一の勤める会社にアルバイトとして入ってきた二人。
晴美は伸一と東京駅でケンカした相手。
最悪な出会いで嫌悪感しかなかった。
しかし、友人の尾美 悦子は伸一に興味を抱く。
それまで遊んでいた悦子は、伸一によって初めて自分が求めていた男性だと知りのめり込む。
一方で、晴美は遊び人である影山 時弘に引っ掛かり、身体だけでなく心もボロボロにされた。
悦子は、晴美をなんとか救おうと試みるが時弘の巧みな話術で挫折する。
伸一の手助けを借りて、なんとか引き離したが晴美は今度は伸一に心を寄せるようになる。
それを知った悦子は晴美と敵対するようになり、伸一の傍を離れないようになった。
絶対に譲らない二人。しかし、どこかで悲しむ心もあった。
どちらかに決めてほしい二人の問い詰めに、伸一は人を愛せない過去の事情により答えられないと話す。
それを知った悦子は驚きの提案を二人にする。
三人の想いはどうなるのか?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】ある神父の恋
真守 輪
ライト文芸
大人の俺だが、イマジナリーフレンド(架空の友人)がいる。
そんな俺に、彼らはある予言をする。
それは「神父になること」と「恋をすること」
神父になりたいと思った時から、俺は、生涯独身でいるつもりだった。だからこそ、神学校に入る前に恋人とは別れたのだ。
そんな俺のところへ、人見知りの美しい少女が現れた。
何気なく俺が言ったことで、彼女は過敏に反応して、耳まで赤く染まる。
なんてことだ。
これでは、俺が小さな女の子に手出しする悪いおじさんみたいじゃないか。
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる