タイムトラベル同好会

小松広和

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第3章 未来への旅立ち

第32話 プロポーズ

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 胡桃と萌が揉めているのを見かねてユリナが提案した。
「まあ、まあ、ここは場所決めゲームでもしますか」
「場所決めゲーム?」
予想外な言葉に俺たち三人は思わず声を上げる。

「未来の双六だよ。早くゴールした人が好きな場所を決められるってのはどう?」
「おもしろそうじゃねえか。早速やろうぜ」
俺は安易に賛成してしまった。まさかあのようなゲームだとはこの時は知る由もないのである。

「あんたはゴールしても一番端だからね」
胡桃が純粋に楽しもうとしている俺に水を差す。まあいいのだが。
 ユリナが持ち出した箱には未来双六二十世紀版と書かれている。
「何でに十世紀版なのだ?」
「未来の流行やしきたりはわからないだろ? だから君たちに合わせたのさ」
「都合良く二十世紀版なんてあったな?」
「これは自動で何世紀版にもなる。箱の横に付いている文字を変えるだけで蓋を開ければ何世紀版にもなるというわけだ」
 すると1570年とかにすれば織田信長の時代の流行やしきたりがゲームでわかると言うことか。これはこれでやってみたい!

「1570年版にしないか?」
「嫌よ!」
胡桃と萌に速攻で断られてしまった。もう一度頼んでみたいところだが、今の声のトーンからすると頼まない方が身のためだろう。それにしても何を必死になっているのだ?

「じゃあ、コマを決めてスタートに置いて」
俺の前にサイコロが現れた。
「今サイコロが見えてる人が一番の人だ。そのサイコロを指で触って」
俺は目の前にあるサイコロを指で触った。サイコロが回り出す。三が出た。すると勝手にコマが動き出す。三コマ進むと盤上に文字が浮かび上がってきた。
『猫の鳴き真似をする』
俺が戸惑っているとユリナが笑いながら言う。
「早くしないと失格になっちゃうぞ」
「え? ああ。ニャ、ニャー」
猫の鳴き真似をすると文字は消えていった。このゲームはお題が出るのか。ただの双六ではなさそうだ。

「次は私の番だね」
ユリナはサイコロに触れた。六だ。
『ビールを飲む』
何だと。これはさすがにまずかろう。俺達は未成年だぞ。しかし、ユリナはキッチンの横にある冷蔵庫からビールらしき物とグラスを出して持ってきた。本気か?

「はい、みんなのもあるよ」
「いくらなんでもビールはまずくないか?」
俺が恐る恐る聞くと、
「これは子供用のビールだ。適度に気分が良くなるが十分もすると何事もなかったかのように酔いが醒める仕組みだ。もちろん酔いというのも錯覚から来るものだから安心ってわけさ。アルコールは一切入ってない」
なるほど。それならいいか。
 俺たちはビールを注いで貰うと乾杯をした。

 こうして未来のサイコロを進めていくとあることに気付き始める。問題が徐々に難しくなってきているのだ。
「ええ! 好きな人にプロポーズする?」
大声を上げたのは胡桃である。
「適当に言ったら失格になるぞ」
ユリナはゲラゲラと大声で笑っている。本当に酔っぱらってるんじゃないのか?
「そんないきなりプロポーズだなんて」
殆ど王様ゲームのような双六だ。

「もう、失格になっちゃったら」
萌が不機嫌そうに言った。
「これ、誰でもいいんでしょ? じゃあ、萌に言うわ」
すると、ブーという大きな音がなった。
「だから、好きな人って書いてあるじゃん」
ユリナが甲高い声で言う。かなり上機嫌だ。
「もし、好きな人がいない時はどうするのよ」
「その時は適当でいいんだよ」
「どういうこと?」

「双六がこの中に好きな人がいるって見抜いてるのさ」
何と恐ろしい。ただの双六じゃなかったのか。少しなめすぎていたようだ。
「わかったわよ。ここで失格にあるわけにはいかないから言うわ。よく聞きなさい」
そう言うと胡桃は俺の方を向き深呼吸をした。

 ちょっと待て。俺にプロポーズなんてしてもすぐに失格になるぞ。双六は好きな人を見抜いてるんだぞ。わかってるのか胡桃?

「あ、あなたと結婚してあげてもいいわよ。その代わり私を幸せにしなさい」
言い終わると、盤上の文字は消えた。胡桃は顔をこれでもかというくらい顔を赤くして、その顔を手で覆っている。どういうことだ? これでいいのか? 双六は胡桃の好きな人は俺だと思ってるってことか?

「胡桃、俺のことが好きなのか?」
俺は露骨に質問した。
「好きなわけないでしょ!」
胡桃は十軒先まで聞こえる大きな声で叫んだ。
「でもこの双六が」
「うるさいわね! 双六の勘違いよ!」
「そう言えば、萌の親衛隊に襲われた時『真歴は私の物よ』って言ってたよな」
「あれはそう言えば安心して帰って行くと思ったからよ!」
今度は三十軒先まで聞こえそうな大声で叫んだ。

 この胡桃の様子をユリナはニヤニヤしながら聞いている。
「次は萌の番だよね」
萌はかなり不機嫌な声でぶっきら棒に言った。
『好きな人に、愛してると言って貰う』
何だと~。俺の顔が真っ青になる。
「やった~」
萌の機嫌が一瞬で直った。単純すぎだろ!?

「宮本君。言って、言って~」
「言わないとどうなるんだ?」
「当然、萌が失格になるな」
ユリナはまたまた大声で笑っている。絶対酔ってるな、こいつ。

「ねえ、萌を失格にしないよね」
そんな本人に向かって『愛してる』なんて言えるわけねえ。しかし、言わないと萌が失格になってしまう。どうすればいいんだ。
「ねえ、お願い」
萌はいつもの涙ぐんだような目で俺を見つめる。その横で胡桃が『まさか言うんじゃないわよね』と言わんばかりに俺を睨み付けている。そしてユリナは、
「早く言ってしまえ~」
と冷やかしながら、ビールをぐびぐびと飲んだ。

 どうすればいいのだ? 流れからすれば言うべきだろう。だが、俺はそういうキャラじゃない。女に『好きだ』なんて言えるわけがない。たとえ二人きりだとしても言えんぞ。

 などと俺が迷っていると双六の盤が赤く光りサイレンが鳴り出した。更に大きな数字が現れたかと思うとカウントダウンが始まったのだ。30,29,28・・・・
 萌の目には涙が溢れて出した。何でこんなことで泣けるんだ?
「萌、こんなことで失格になりたくないよ」
「こんなこと?」
「好きな人に好きと言って貰えず失格になるんだよ。悲しすぎだよ」
「あ~。わかったわかった。『愛してる』」
俺はできるだけ感情を込めずに言った。恥ずかしさもあるが胡桃の目が怖すぎたというのが大きい。何でこんな目に遭わねばならぬのだ。

 サイレンは止み通常の盤に戻った。
「宮本君の愛しっかり受け止めたからね」
萌は俺にウインクして言った。当然、胡桃は鬼のような形相で俺を睨んでいる。何か明日の太陽が拝めない気がする。

「さあ、私の番だな。私も萌の止まったところに行きたいな」
何を言ってるんだ。正気か?
「え~っと、萌の止まっている所に行くには後七マスか」
よくわからないがユリナは思考が完全に停止しているようだ。双六で七は出ないだろう。それにしてもこの子供用ビールは十分で醒めるんじゃなかったのか?  飲み続けてるからいけないのだろうか?

「さあ、七よ出ろ!」
ユリナの振ったサイコロはいつもより長く回って止まった。
「やったー! 七だ!」
「おかしいだろ!」
このサイコロ七まであるのか? ちゃんと正六面体だぞ! しかしよく見ると穴がちゃんと七つある。
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