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第3章 未来への旅立ち
第30話 胡桃の真実
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ユリナと萌が買い物に出かけてしまったので、俺と胡桃が留守番をすることになった。何のことはないいつもの光景だ。
「そんなことより、これからどうするの?」
胡桃が俺を見て言った。いつもながら愛想のない話し方である。
「これからって?」
「いつまでもここにいるわけにもいかないじゃない」
「分かってる」
叱られているわけではないが、俺はなぜか下を向いてしまう。こういう状況下における条件反射かも知れない。
「私も真歴を失うのが怖くて付いてきちゃったけど・・・・」
胡桃は小さな小さな声で言った。
「何か言ったか?」
「何でもないわよ」
「確かに帰る手段も考えないと行けないよな。胡桃や萌の両親も心配してるだろうし」
「そうよね」
暫くの間、会話が途切れる。何とも言えない間だ。
この間を破るように胡桃が脈略のない質問をした。
「ねえ、真歴ってさあ。本当のところ萌のことどう思ってるの?」
ん? 突然何を言い出すんだ?
「別にどうも思ってない」
「だって、男の人っていくら好きでもない相手でも、あんなにべたつかれたら気が変わっちゃうんじゃないの?」
「変わらねえよ」
「でも、萌って可愛いし、あんな子に抱きつかれて喜ばない男子っていないと思うんだけど」
今日の胡桃は何か変だぞ? どうしたんだ?
「俺は別に何とも思わねえって」
「本当?」
胡桃は思わず俺の手を握る。暫く手を握った後、慌ててその手を放した。
「ごめん。思わず似合わないことしちゃった」
照れ笑いをする胡桃。おかしいぞ。胡桃が可愛く見えるのはなぜだ?
「俺、たぶん萌より・・・・」
「ただいま~」
突然玄関のドアが開いた。
「何でこんなに早いのよ・・・・」
胡桃が小さな声で呟く。
「ちょっと、何向かい合って座ってるのよ!?」
萌は帰って来るなり俺たちを見て叫んだ。
「胡桃! 宮本君にちょっかいで出してたんじゃないでしょうね?」
「知らないわよ」
「知らないわけないでしょう。てか否定しなかったよね? ああ、うかつだったわ」
萌は頭を抱えて首を横に振った。
「それにしても早かったな」
「近くに小さなデパートがあるんだ。買う物も決まってたし」
「そうか」
「それとももう少し遅かった方が良かったのかな?」
「そんなことないけど」
何とも言えぬ恥ずかしさが込み上げてきる。何なんだこの感情は?
「それより真歴君の新しい服を買ってきたぞ。女性サイズだが大きいのにしたから大丈夫だろう」
渡された黒いワンピースの襟には可愛らしいフリルが付いている。
「メイド服だろうが!」
「萌が選んでたぞ」
「萌!!!」
「可愛いでしょ?」
萌は笑顔で顔を傾ける。本気で選んでいるのか冗談で選んでいるのか全く分からない。一つ言えることは絶対外出できなくなったということだ。
夕食は女性三人がわいわい言いながら何かを作っていた。俺は一人食事ができるのを待っている。俺も手伝った方がいいよな。でも、あの中に入る勇気はねえ。
「はい、お待たせ~」
三人が手作りのおかずを持ってやって来た。どれも美味しそうだ。
「本当は手料理なんてあまりしないんだけどね。この時代のレトルト食品はレストランで食べるより美味しいんだ。でも、みんなで作って楽しかったよ」
「萌も楽しかったよ。胡桃に料理の作り方教えて貰ったの。これでいつでもお嫁さんに行けるね。宮本君」
萌が俺の方を見ながら言った。
あれ? 萌より胡桃の方が料理がうまいのか? 俺の感覚からすると絶対逆だ。女子力抜群の萌とほぼ男子の胡桃だぞ。世の中どうなってるんだ?
おかずを机に並べ終わると食事タイムだ。どれも美味しそうだ。うん? やや未来風な食事の中に見慣れた野菜炒め的な料理がある。
「これは?」
「萌が作ったんだよ。食べて食べて~」
萌が喜んで言う。さすが萌! かなり美味しそうだぞ。
俺は真っ先に萌が作った野菜炒めに箸を出す。パクリ。うん? これって甘いのか? いや辛い気もする。と言うより苦いのかも? まとめて評価するならまずい! こいつ料理音痴だったのか!
「ねえ、どう?」
「ああ、斬新な味だな」
「ええ! 本当? 結婚したら毎日作ってあげるね」
それは勘弁してくれ。
「ところで、胡桃は料理得意なのか?」
「胡桃は料理上手だぞ。いっぱい作り方を教えて貰った」
ユリナが笑いながら言う。
「結婚したら食事が楽しみになるぞ」
ユリナは俺の横腹を突きながらからかってくる。
「ちょっとユリナ! 何言い出すの?」
萌はユリナの方を向くと大きな声で言った。大きな声は胡桃の専売特許なのだが。
楽しい食事の後は後片づけ。これは俺もできると申し出たのだが、流し台が狭いからと断られてしまった。また、三人が楽しそうに話しながら作業をしている。こうしていると胡桃と萌は仲良さそうに見えるんだけどな。ユリナがうまく二人をまとめているのかも知れない。萌と胡桃だけだったらこうはいくまい。それにしても今日は胡桃の意外な面をたくさん見た感じだ。萌はわかりやすいのだが、胡桃は実にわかり辛い。俺は台所にいる三人の女性を眺めながら、ふと思うのだった。
「そんなことより、これからどうするの?」
胡桃が俺を見て言った。いつもながら愛想のない話し方である。
「これからって?」
「いつまでもここにいるわけにもいかないじゃない」
「分かってる」
叱られているわけではないが、俺はなぜか下を向いてしまう。こういう状況下における条件反射かも知れない。
「私も真歴を失うのが怖くて付いてきちゃったけど・・・・」
胡桃は小さな小さな声で言った。
「何か言ったか?」
「何でもないわよ」
「確かに帰る手段も考えないと行けないよな。胡桃や萌の両親も心配してるだろうし」
「そうよね」
暫くの間、会話が途切れる。何とも言えない間だ。
この間を破るように胡桃が脈略のない質問をした。
「ねえ、真歴ってさあ。本当のところ萌のことどう思ってるの?」
ん? 突然何を言い出すんだ?
「別にどうも思ってない」
「だって、男の人っていくら好きでもない相手でも、あんなにべたつかれたら気が変わっちゃうんじゃないの?」
「変わらねえよ」
「でも、萌って可愛いし、あんな子に抱きつかれて喜ばない男子っていないと思うんだけど」
今日の胡桃は何か変だぞ? どうしたんだ?
「俺は別に何とも思わねえって」
「本当?」
胡桃は思わず俺の手を握る。暫く手を握った後、慌ててその手を放した。
「ごめん。思わず似合わないことしちゃった」
照れ笑いをする胡桃。おかしいぞ。胡桃が可愛く見えるのはなぜだ?
「俺、たぶん萌より・・・・」
「ただいま~」
突然玄関のドアが開いた。
「何でこんなに早いのよ・・・・」
胡桃が小さな声で呟く。
「ちょっと、何向かい合って座ってるのよ!?」
萌は帰って来るなり俺たちを見て叫んだ。
「胡桃! 宮本君にちょっかいで出してたんじゃないでしょうね?」
「知らないわよ」
「知らないわけないでしょう。てか否定しなかったよね? ああ、うかつだったわ」
萌は頭を抱えて首を横に振った。
「それにしても早かったな」
「近くに小さなデパートがあるんだ。買う物も決まってたし」
「そうか」
「それとももう少し遅かった方が良かったのかな?」
「そんなことないけど」
何とも言えぬ恥ずかしさが込み上げてきる。何なんだこの感情は?
「それより真歴君の新しい服を買ってきたぞ。女性サイズだが大きいのにしたから大丈夫だろう」
渡された黒いワンピースの襟には可愛らしいフリルが付いている。
「メイド服だろうが!」
「萌が選んでたぞ」
「萌!!!」
「可愛いでしょ?」
萌は笑顔で顔を傾ける。本気で選んでいるのか冗談で選んでいるのか全く分からない。一つ言えることは絶対外出できなくなったということだ。
夕食は女性三人がわいわい言いながら何かを作っていた。俺は一人食事ができるのを待っている。俺も手伝った方がいいよな。でも、あの中に入る勇気はねえ。
「はい、お待たせ~」
三人が手作りのおかずを持ってやって来た。どれも美味しそうだ。
「本当は手料理なんてあまりしないんだけどね。この時代のレトルト食品はレストランで食べるより美味しいんだ。でも、みんなで作って楽しかったよ」
「萌も楽しかったよ。胡桃に料理の作り方教えて貰ったの。これでいつでもお嫁さんに行けるね。宮本君」
萌が俺の方を見ながら言った。
あれ? 萌より胡桃の方が料理がうまいのか? 俺の感覚からすると絶対逆だ。女子力抜群の萌とほぼ男子の胡桃だぞ。世の中どうなってるんだ?
おかずを机に並べ終わると食事タイムだ。どれも美味しそうだ。うん? やや未来風な食事の中に見慣れた野菜炒め的な料理がある。
「これは?」
「萌が作ったんだよ。食べて食べて~」
萌が喜んで言う。さすが萌! かなり美味しそうだぞ。
俺は真っ先に萌が作った野菜炒めに箸を出す。パクリ。うん? これって甘いのか? いや辛い気もする。と言うより苦いのかも? まとめて評価するならまずい! こいつ料理音痴だったのか!
「ねえ、どう?」
「ああ、斬新な味だな」
「ええ! 本当? 結婚したら毎日作ってあげるね」
それは勘弁してくれ。
「ところで、胡桃は料理得意なのか?」
「胡桃は料理上手だぞ。いっぱい作り方を教えて貰った」
ユリナが笑いながら言う。
「結婚したら食事が楽しみになるぞ」
ユリナは俺の横腹を突きながらからかってくる。
「ちょっとユリナ! 何言い出すの?」
萌はユリナの方を向くと大きな声で言った。大きな声は胡桃の専売特許なのだが。
楽しい食事の後は後片づけ。これは俺もできると申し出たのだが、流し台が狭いからと断られてしまった。また、三人が楽しそうに話しながら作業をしている。こうしていると胡桃と萌は仲良さそうに見えるんだけどな。ユリナがうまく二人をまとめているのかも知れない。萌と胡桃だけだったらこうはいくまい。それにしても今日は胡桃の意外な面をたくさん見た感じだ。萌はわかりやすいのだが、胡桃は実にわかり辛い。俺は台所にいる三人の女性を眺めながら、ふと思うのだった。
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