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第一章
第35話:チャーハンを食べる1
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ジェムを作り終えたアーニャとジルは、昼ごはんを呼びに来たエリスと合流。そのまま一緒にギルドを出て、アーニャの家に到着した。
そして、ジルが手早くパパッとチャーハンを作り終えると、二手に分かれて食事をする。
嬉しそうな顔でルーナの元へトコトコトコッと走っていくジルと、キッチンで食べるエリスとアーニャ。
ルーナの部屋で四人が食事できる机がないため、そのままルーナの話し相手になるジルが昼ごはんを一緒に食べることになっていた。何か理由を作ってあげると、ジルが人見知りを発揮せずにルーナの元へ行く、ということもある。
ルーナの元であれば、ジルはお使いができるのだ。
「エリス。あんたの弟、ちょっと人見知りが激し過ぎない?」
スプーンでチャーハンをすくい、モグモグしながらアーニャは言った。
「やっぱり、そう思いますか?」
「当然よ。錬金術ギルドで作業部屋へ行く時、誰かとすれ違う度にしがみついてくるの。何事かと思われて、五度見くらいされるんだから」
魔物と犯罪者を除いては、近づいてはいけない部門、第一位のアーニャにしがみつくなど、周りから見たら信じられない光景である。その時点で二度見は確定なのだが、それをアーニャが受け入れているという衝撃の事実に、もう三度見してしまう。
その影響もあって、錬金術ギルドはアーニャとジルの噂でいっぱいだった。本人たちは全く気づいていないが、エリスの耳には入ってくるし、人質でも取られたのかと心配する人まで現われる始末。
アーニャがジルの面倒を見ているということを、誰も考えないのであった。
「街を歩く時も、私と手を繋がないと歩けないんですよ。この前試しにお使いを頼んだら、ドアを開けて三秒で戻ってきましたから。寝込んでいた影響で、まだ街が怖いんだと思いますけど」
「違うわね。あれは、根っからの陰キャ体質だわ。一昨日だって、昼ごはんを持たせずにルーナのところへ行かせたら、エリスを呼びに来たじゃない。人見知りが激しすぎるわよ」
それはルーナちゃんが好きで照れてるだけです、なーんてことがわかっていても、エリスは口にしない。今の環境がみんなにとって一番いいと、エリスは思っているから。
アーニャの代わりに家事をこなすエリスは、ルーナの相手ばかりしていられない。治療薬の研究をするアーニャも忙しいし、他の大人を連れて来れば、ルーナが気を遣って疲れてしまう。
じゃあ、子供好きのルーナのために無邪気な子供を連れてきたら、と考えるのだが、動けないルーナの心を傷付けてしまったり、呪いに怯えたりするかもしれないため、難しい。
その点、呪いで苦しんだ経験のあるジルは、ルーナの気持ちを痛いほど理解している。新米錬金術師のジルが話し込んでも誰にも迷惑はかからないし、子供好きのルーナも気を遣わずに済み、心が安らぐ。現にルーナは、エリスだけが接していた頃よりも元気な姿を見せることが多くなっていた。
「まあ、ルーナちゃんも一人の時間が減りましたし、寂しくならなくていいじゃないですか。ところで、今日は攻撃アイテムを作るって言ってましたけど、大丈夫でした?」
エリスの言葉を聞いて、アーニャはチャーハンを食べる手を止めた。
「ハッキリ言って、あの子は全然つかめないわね。意味がわからないもの」
「そうですか……。あの、お邪魔になるようでしたら、アーニャさんの負担にならないように言っておきますが」
「誰も邪魔とは言ってないわよ。成り行きで助手にしたけど、すでに色んな作業を任せられるレベルよ。一週間も低級ポーションを作らせずに、もっと助手として手伝ってもらうべきだったわ」
ええっ!? 本当に助手としてもらっても大丈夫なんですか!? と思うエリスは、もうチャーハンどころではない。自分の代わりに弟が役に立てるのであれば、二つ返事で婿養子にしたいくらいの気持ちである。
「つまり、ジルは天才ってことですか? 姉としてはわかってましたけど」
弟のことになると、エリスはちょっとウザい。真顔で聞いてくるあたりが、ウザさを倍増させる。一発くらいビンタをしてやりたい、とアーニャは思うが……、グッと堪える。
「恐らくだけど、あの子の呪いは相当きつかったわね。私も経験したことがあるけど、人は死にかけたときに潜在能力が目覚めたり、必要以上に感覚が研ぎ澄まされたりするの。その力を引き出すために、何度も死闘を制して感覚に慣れる必要があるんだけど。あの子、エリクサーを飲む前はそういう状況だったわよね」
「……そうですね。何度も呼吸は止まってましたし、常に死と隣り合わせだったと思います。目もあまり見えなかったみたいで、体も動かせませんでした。ポーションを飲ませていたとはいえ、小さな体で三年も呪いに耐え抜いたのは、奇跡だったと思います」
「だからでしょうね。魔力やマナに敏感すぎて、錬金術師の才能を開花させているのよ。それだけじゃなくて、料理が作れる影響で手先は器用。あの子のだけのことを考えるなら、早く王都へ連れて行って、ちゃんとした人に師事するべきね」
「それ、できると思います?」
「無理ね、人見知りが激しいもの。なんで私を怖がらないのか、さっぱりわからないわ」
うん、と大きく頷くエリスは、同じことを思っていた。アーニャさんが大丈夫なら、他の人も大丈夫なはずなのに、と。
普通では理解できない行動を取るジルを思い浮かべていると、一番意味の分からない現象に二人はたどり着いてしまう。
「そもそも、夢を見ただけで料理が作れる方がおかしいのよ。ここまでチャーハンがおいしくなるなんて、聞いたこともないわ」
そう、夢を見ただけで、ジルはビックリするくらいおいしい料理を作ってしまう。その誰も思い浮かばない奇想天外な発想力と腕前に、驚きを隠すことができない。
この世界のチャーハンは、庶民だけが食べる料理という認識であり、金持ちや貴族が食べることはない。そのため、プロの料理人がチャーハンを作る機会がないので、ベチャベチャチャーハンが基本だった。
今日は随分と庶民的な料理ね、残念だわ。などと思ってスプーン入れたアーニャは、口の中で米が暴れまわるような衝撃を受けて、なんじゃこりゃ! 状態だったのである。
「……つまり、ジルは天才ってことですか? 姉としてはわかってましたけど」
「このチャーハンとオムライスに関しては、紛れもなく天才ね。パラッパラだもん。チャーハンが箸で食べられないなんて、意味がわからないわ」
「わかります。不思議なことに、飽きない味なんですよね。他にも、入れる具材が変わったり、トロトロした餡がかかったりして……」
「ちょっと待ちなさい! なによ、そのトロトロした餡がかかったチャーハンって」
「私もおいしいっていうことしかわからないんですよ。あんかけチャーハンって言うんですけどね」
「そのままじゃないの。明日の昼ごはんはそれにするわ」
早くも明日の昼ごはんのメニューを勝手に決めて、二人は普通のチャーハンを口にする。餡がなくてもおいしいわね、と思いながら。
そして、ジルが手早くパパッとチャーハンを作り終えると、二手に分かれて食事をする。
嬉しそうな顔でルーナの元へトコトコトコッと走っていくジルと、キッチンで食べるエリスとアーニャ。
ルーナの部屋で四人が食事できる机がないため、そのままルーナの話し相手になるジルが昼ごはんを一緒に食べることになっていた。何か理由を作ってあげると、ジルが人見知りを発揮せずにルーナの元へ行く、ということもある。
ルーナの元であれば、ジルはお使いができるのだ。
「エリス。あんたの弟、ちょっと人見知りが激し過ぎない?」
スプーンでチャーハンをすくい、モグモグしながらアーニャは言った。
「やっぱり、そう思いますか?」
「当然よ。錬金術ギルドで作業部屋へ行く時、誰かとすれ違う度にしがみついてくるの。何事かと思われて、五度見くらいされるんだから」
魔物と犯罪者を除いては、近づいてはいけない部門、第一位のアーニャにしがみつくなど、周りから見たら信じられない光景である。その時点で二度見は確定なのだが、それをアーニャが受け入れているという衝撃の事実に、もう三度見してしまう。
その影響もあって、錬金術ギルドはアーニャとジルの噂でいっぱいだった。本人たちは全く気づいていないが、エリスの耳には入ってくるし、人質でも取られたのかと心配する人まで現われる始末。
アーニャがジルの面倒を見ているということを、誰も考えないのであった。
「街を歩く時も、私と手を繋がないと歩けないんですよ。この前試しにお使いを頼んだら、ドアを開けて三秒で戻ってきましたから。寝込んでいた影響で、まだ街が怖いんだと思いますけど」
「違うわね。あれは、根っからの陰キャ体質だわ。一昨日だって、昼ごはんを持たせずにルーナのところへ行かせたら、エリスを呼びに来たじゃない。人見知りが激しすぎるわよ」
それはルーナちゃんが好きで照れてるだけです、なーんてことがわかっていても、エリスは口にしない。今の環境がみんなにとって一番いいと、エリスは思っているから。
アーニャの代わりに家事をこなすエリスは、ルーナの相手ばかりしていられない。治療薬の研究をするアーニャも忙しいし、他の大人を連れて来れば、ルーナが気を遣って疲れてしまう。
じゃあ、子供好きのルーナのために無邪気な子供を連れてきたら、と考えるのだが、動けないルーナの心を傷付けてしまったり、呪いに怯えたりするかもしれないため、難しい。
その点、呪いで苦しんだ経験のあるジルは、ルーナの気持ちを痛いほど理解している。新米錬金術師のジルが話し込んでも誰にも迷惑はかからないし、子供好きのルーナも気を遣わずに済み、心が安らぐ。現にルーナは、エリスだけが接していた頃よりも元気な姿を見せることが多くなっていた。
「まあ、ルーナちゃんも一人の時間が減りましたし、寂しくならなくていいじゃないですか。ところで、今日は攻撃アイテムを作るって言ってましたけど、大丈夫でした?」
エリスの言葉を聞いて、アーニャはチャーハンを食べる手を止めた。
「ハッキリ言って、あの子は全然つかめないわね。意味がわからないもの」
「そうですか……。あの、お邪魔になるようでしたら、アーニャさんの負担にならないように言っておきますが」
「誰も邪魔とは言ってないわよ。成り行きで助手にしたけど、すでに色んな作業を任せられるレベルよ。一週間も低級ポーションを作らせずに、もっと助手として手伝ってもらうべきだったわ」
ええっ!? 本当に助手としてもらっても大丈夫なんですか!? と思うエリスは、もうチャーハンどころではない。自分の代わりに弟が役に立てるのであれば、二つ返事で婿養子にしたいくらいの気持ちである。
「つまり、ジルは天才ってことですか? 姉としてはわかってましたけど」
弟のことになると、エリスはちょっとウザい。真顔で聞いてくるあたりが、ウザさを倍増させる。一発くらいビンタをしてやりたい、とアーニャは思うが……、グッと堪える。
「恐らくだけど、あの子の呪いは相当きつかったわね。私も経験したことがあるけど、人は死にかけたときに潜在能力が目覚めたり、必要以上に感覚が研ぎ澄まされたりするの。その力を引き出すために、何度も死闘を制して感覚に慣れる必要があるんだけど。あの子、エリクサーを飲む前はそういう状況だったわよね」
「……そうですね。何度も呼吸は止まってましたし、常に死と隣り合わせだったと思います。目もあまり見えなかったみたいで、体も動かせませんでした。ポーションを飲ませていたとはいえ、小さな体で三年も呪いに耐え抜いたのは、奇跡だったと思います」
「だからでしょうね。魔力やマナに敏感すぎて、錬金術師の才能を開花させているのよ。それだけじゃなくて、料理が作れる影響で手先は器用。あの子のだけのことを考えるなら、早く王都へ連れて行って、ちゃんとした人に師事するべきね」
「それ、できると思います?」
「無理ね、人見知りが激しいもの。なんで私を怖がらないのか、さっぱりわからないわ」
うん、と大きく頷くエリスは、同じことを思っていた。アーニャさんが大丈夫なら、他の人も大丈夫なはずなのに、と。
普通では理解できない行動を取るジルを思い浮かべていると、一番意味の分からない現象に二人はたどり着いてしまう。
「そもそも、夢を見ただけで料理が作れる方がおかしいのよ。ここまでチャーハンがおいしくなるなんて、聞いたこともないわ」
そう、夢を見ただけで、ジルはビックリするくらいおいしい料理を作ってしまう。その誰も思い浮かばない奇想天外な発想力と腕前に、驚きを隠すことができない。
この世界のチャーハンは、庶民だけが食べる料理という認識であり、金持ちや貴族が食べることはない。そのため、プロの料理人がチャーハンを作る機会がないので、ベチャベチャチャーハンが基本だった。
今日は随分と庶民的な料理ね、残念だわ。などと思ってスプーン入れたアーニャは、口の中で米が暴れまわるような衝撃を受けて、なんじゃこりゃ! 状態だったのである。
「……つまり、ジルは天才ってことですか? 姉としてはわかってましたけど」
「このチャーハンとオムライスに関しては、紛れもなく天才ね。パラッパラだもん。チャーハンが箸で食べられないなんて、意味がわからないわ」
「わかります。不思議なことに、飽きない味なんですよね。他にも、入れる具材が変わったり、トロトロした餡がかかったりして……」
「ちょっと待ちなさい! なによ、そのトロトロした餡がかかったチャーハンって」
「私もおいしいっていうことしかわからないんですよ。あんかけチャーハンって言うんですけどね」
「そのままじゃないの。明日の昼ごはんはそれにするわ」
早くも明日の昼ごはんのメニューを勝手に決めて、二人は普通のチャーハンを口にする。餡がなくてもおいしいわね、と思いながら。
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